終わらないお伽話を
 〜 死者との邂逅 〜



 ここに訪れるのは二回目だった。
 オリビア岬。船はこの先の湖目指してゆっくりと進んでいく。そして。
「…声が、聞こえる。」
 リュシアの言葉を聞くまでもなく、かすかな悲しい歌声が、どこからともなく響いた。
「…おい、船が戻ってるぞ?」
 風も潮も問題ないこの状態で、なぜか船が『押し戻されてる』のだ。
「…湖にいけないって、こういう意味だったのね。これが、オリビアさんの声?」
「かな。エリックさん。どうか、オリビアさんのところへ!」
 トゥールがエリックさんのアクセサリーを掲げる。すると小さく光りだし、トゥールの手を離れてすっと 浮いた。
「オリビア…。」
 そんなかすかな声とともに、エリックの姿が空に現れる。そのとたん、声が止まった。
「エリック?エリックなの?」
 天からの光を浴びて。女性の声とともに、若い女性が空中に姿を現し、エリックに抱きつく。
「ああ、エリック、私の愛しき人。貴方をずっと待っていたわ。」
「オリビア、僕のオリビア!もう君を離さない!」
 二人はしっかりとしがみつき、涙を流しながら愛をささやいている。湖面がきらきらと輝き、まるで舞台を 見ているようだった。
「…素敵…。」
 うっとりとするリュシア。
「よかった…。」
 嬉しそうに涙ぐむサーシャ。だが、その横で。
「…で、俺達はいつまでこのメロドラマを見せられてるんだ?」
「まぁ、感動の再会だから、しばらく見守ってあげようよ。」
 若干呆れながら、男二人が空を見上げていた。
「エリック!」
「オリビア!!」
 周りの空気はいっそう輝き、二人は抱き合いながらくるくると回り始める。 そして、そのままゆっくり空へと昇っていった。


「良かった…。恋人達が会えた。もう、ずっと一緒。」
「そうね、ようやく二人は出会って、ルビス様の下へと逝くことができた。…良かった…。」
 女性というのはロマンチックなものなのだろうか。それに水を差すこともあるまい、と思いながら男二人は 微妙な気分で空を見上げた。
「まぁ、…うん、幸せでよかったよね。」
「…ただの迷惑なカップルのような気がするが…この岬の通行人になんか恨みがあったわけでもないんだろうに。」
 そんな男二人のつぶやきも知らず、辺りにはまだ、二人の愛の思い出が漂っているようであった。


 船は湖へと進み、そして一つの孤島へと到着する。
 誰もいないその孤島には、たった一つの建物…薄暗い牢獄が存在するだけだった。
 すでに朽ち果てている、と言えるほどぼろぼろのその建物に、四人は入っていく。…それは不吉な予感。
「…誰も…いない…。」
 トゥールがそうつぶやいたとき、ぽっと灯りがともった。
「まさか誰かいるのか?」
 とっさに四人は身構えるが、現れたのは、小さな炎だった。
「火の玉…幽霊か?」
「というより…魂そのもの…ね。自分の姿すら映すこともできないほど力なく絶望してしまった…。」
 サーシャはそういうと、その火の玉の前に座り込んだ。
「ここは…寂しい祠の牢獄…。」
 小さくつぶやく魂に、サーシャは優しく話しかける。
「もう寂しくありませんよ。ルビス様は貴方を待ってくださっています。このような寂しい場所ではなく、 天上へとお帰りください。」
 そう言って、そっと魂を抱きしめる。
「…暖かい…ありがとう…、どうか、ここにいる人たちを…。」
 魂がすっと空へと登っていくのを、四人は静かに見守った。

「…燃えるかと思ったよ。」
 トゥールの言葉に、サーシャは小さく笑う。
「私もちょっとそう思ったわ。でも炎じゃないから。」
「ここにいる人たちって事は、他にもいるんだろうな。…サイモンだったか?」
「そう、サマンオサの英雄にして王の忠臣サイモンさんだね。」
「…ガイアの剣。持ってるって。」
 リュシアの言葉に、それを求めてここまで来たのだと思い出させた。
「とにかく、せめてここにいる人たちに話しかけてもいいかしら?小さいところだし、そんなにいないと思うんだけど…。」
 サーシャの控えめな言葉に、トゥールは頷いた。
「うん、大丈夫だよ。皆ここに留まっているとは限らないしね。サイモンさんもどこにいるか分からないし。」

 ざっと見たところ、ここはおそらく特別な人間が入れられる牢屋という性質のためか、部屋数はそう多くなく、死体は たくさんあったが、魂となって漂っている者は、幸いにして一人しかいなかった。
「…あの…。」
「私は、サイモンの魂…。」
「サイモンさん?!」
 トゥールが牢屋の扉を最後の鍵で開けて、中に入り込む。
「サイモンさん、あの、貴方をここに入れた王様は偽者だったんです。」
「…知っている。化け物に、騙されていたのだと、王は…、」
「無事です。助けました。国も元に戻りました。」
 トゥールがそう言うと、魂の姿でも分かるほど朗らかに微笑んだ。
「そうか、よかった…、私は何もできなかったな…。」
「いえ、そんなことありません。王様も、貴方のことを心配していらっしゃいました。」
 トゥールがそう言うと、サイモンはゆらゆらと揺れた。
「君は…勇者だね…?」
「あ、はい。」
「…私も勇者になっていれば、国を救えただろうか…。…だが、できぬことを言っても仕方がない。東の牢屋に私の 死体がある。その傍を調べなさい。君が望むものがあるだろう。」
「…はい。」
 トゥールが神妙に頷く。
「…私にはこの程度しかできないが、どうか世界を守ってくれ。勇者よ。」
「…はい。」
「そうか、それは良かった。…そろそろ来たようだ。私を探していた者が。…最後に会ってから私は 天に昇ろう。」
 サイモンがそういった時、遠くから扉が閉まる音がした。
「父さん、父さん?!」
 それは、岬の宿屋で出会った、青年の声だった。
「…行きましょう。親子の会話を邪魔してはいけないわ。…サイモンさん、ありがとうございました。どうか 貴方の昇る道が、より美しく安らぎあふれていることをお祈り申し上げます。」
 サーシャの言葉に促されるように、四人はそっとその場を後にした。…その後には、親子の最後の会話が交わされる のだろう。それを、トゥールは少しうらやましく感じた。


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