トゥールが取り出した長剣はうっとりするほど優雅なラインを持つ、美しい剣だった。
「…これを、放り込んだらいいの?…なんだかもったいない気がするんだけど。」
「いいと思うわよ。トゥールがやったらきっと応えてくれるわ。」
 戸惑うトゥールに、サーシャが頷く。トゥールは一瞬サイモンに祈りをささげて火口へと剣を 投げ入れた。
 …そして、それはまもなくやってくる。
 小さな大地のうごめき。やがてそれは徐々に大きくなり、立っていられないほどの揺れが四人を襲う。
「なんだ、何が起こってるんだ?!」
 地面に伏せたセイが叫ぶが、誰も答えを知っていない。それでも答えを知っていそうなサーシャに目を向ける。
「だ、大丈夫よ!神の道具がその使用者に害なすことはないはずよ!…欠陥品じゃなければだけど…。」
 さすがにその揺れにサーシャも不安になったのか、そっと目をそらす。
(いっそ、ルーラで逃げるか…?!)
 トゥールがそう口に出そうとしたとき、轟音が地面から聞こえ、そして火口が爆発した。

「うわああああああああああああああああああああああ!!」
 はじけた溶岩が四人を襲う。もはや手遅れかと思った時だった。
「…熱く、ない。」
 リュシアがゆれる大地の上で、舌をかまないように、慎重に口にした。
 溶岩はもはや火口から流れ、大地へと落ちている。樹を焼き草を焼き、川へ海へと落ちていく。
 …にも関わらず、なぜかトゥールたちの周りだけ避けるように流れていて、かつ熱くさえもないのだった。
「…びびらせるなよ…。でもまぁ、もうちょっとトゥールの傍に寄っておくか。」
 セイはよろよろと立ち上がる。正直に言えば、四方溶岩に囲まれているその様は落ち着かないのだが、 こうなった以上腹をくくるしかないことは良く分かっていた。
 いまだ大地は揺れ、火口から溶岩が溢れ、飛んでいる。それは恐ろしくもあり、美しくもあった。
「…まぁ、めったにできない経験ではあるがな。」
 なんとかトゥールの近くまで言ったセイは、同じくよろよろとやってきたリュシアに手を貸し、小さくそうつぶやいた。
「…そうね。本当に綺麗。固まった溶岩の奥にある火がまるで星みたいよ。」
 サーシャの言うとおり、ちらちらと燃える赤い火が、黒い溶岩に映えて、美しかった。
「そう、だね…。なんか、凄いね…。」
 あまりの迫力に呆然としているトゥールに、セイがからかうように声をかける。
「おいおい、やったのはお前だろーが。」
「え?僕?なんでさ?僕がやったのは剣を放り込んだだけだよ?!」
「それがやったって言うんだよ。」
「こんなことになるとは思わなかったんだよ…。」
 少し肩を落とすトゥールを見て、三人は笑う。
「何言ってるんだか。」
「別に悪いことしたわけじゃないんだから、そんな風に言わなくてもいいのに。」
「トゥールは凄いの。ほんとに、凄いね。」
 溶岩は四方八方へと流れ、父のかつて生きていた痕跡を消していく。
 だが、それもいいのだろう、とトゥールは思った。どんなに痕跡が残っていても、父はここに戻ってこない。
(ついでに、さっきの醜態も消してくれるといいんだけどな。)
 そうして、四人は降り注ぐ溶岩をただ、見つめた。やがてそれが固まり、光らなくなるその時まで。


 そして、驚く速さで冷え固まった溶岩の上を、四人は歩いていた。
「道が開けるって言ってもなぁ…、ただ溶岩が流れただけじゃねぇの?」
「…でも、歩きやすい。」  リュシアの言うとおり、ごつごつとしてはいるが、雑草や木がまったくないその岩の上は、確かに 道と言えなくもない。
 そして、山の向こう側に下りたとき、そこにあった川が埋まっているのが見えた。その不安定な溶岩の上を慎重に進み、広い荒野へと 出た。
 おそらくもう何年も、何十年も誰も来たことがない場所。そこに一筋の溶岩によって、道が確かに できていた。
「凄い迫力よね…。」
「おお、爽快だな。」
「『誰も来た事がない場所…』多分この道の先に何かがあるんだろうね。…行こう。」
 トゥールは一度、火山を振り返ると、それを振り切るように、前を見て歩き始めた。


 死者との邂逅四連発でした。うちのメンバーはオリビアさんやサイモンさんには特に思い入れがないので、 こうやってあっさり過ぎてしまうのでした。親子の再会に顔を出すのも野暮ですし。
 変わりにオルデガさんの死亡現場ではねっとりと。しかし本当になぜオルデガさんはあんなところにいたのか。 ガイアの剣もないのに。謎だ。
 さて、次回は3最大の洞窟、ネクロゴンドへの洞窟ですよ。

 
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