毛が燃え上がり、もだえているモンスターに、セイは爪で皮ごと命をこそげ取った。
「これで38匹目、っと。」
「よく覚えてるな…。」
 トゥールもようやく横でのた打ち回っている亀の甲羅を切り裂いて、息をついた。
「…お疲れ様、怪我はない?」
 サーシャの言葉に、トゥールは剣を収めながら笑う。
「僕は平気。」
「俺もだ。そっちは?」
「ないわ。ただそろそろリュシアの魔力がなくなるんじゃないかしら。顔色が悪い気がするのよ。」
 サーシャの言葉に、三人はリュシアを見る。暗い洞窟の中で顔色は良く見えないが、確かにちょっと 疲れている顔に見える。
「それでも多分、無理しちゃうでしょうし。この先も続くようなら帰ったほうが 良いかもしれないわ。リュシアの呪文がないと辛いしね。」
「そうだね…。そろそろ決断時かもしれないね。」
 ひそひそと話し合っていると、不思議に思ったリュシアがこちらへ歩いてきた。その足取りも重い気がする。
「リュシア、怪我はない?」
 トゥールの言葉に、リュシアは小さく首を横に振る。
「そっか。良かった。でもそろそろ魔力まずくない?」
「…へい、き。」
「ならいいけど。…私はそろそろ限界かも。疲れたわ。」
 サーシャがため息交じりでそう言う。その言葉に、嘘偽りはまったくない。
 このフロアはやたら広く、その上なぜか川が張り巡らされていて、戦うのも神経を使う。モンスターの声が 響くのもどうにも落ち着かないのだ。
「おーい、ちょっといいか?」
 セイがそこにひょいっと顔を出す。
「きゃ!びっくりした、どこ言っていたのよ。」
 突然の登場に、三人が驚いて固まった。
「ん、ちょっと先を見てたんだが、この角曲がって行った通路の先に階段があるんだが、そこを登ってその先にまだ続いてたら いったん帰らねぇか?」
「…そうだね。そろそろ出口だと思うんだけど。二人ともそこまで頑張れる?」
 トゥールの言葉に、まだ余力を残していたサーシャは笑って頷いた。
「平気よ。頑張るわ。」
「平気。」
 リュシアがそういった時、セイがリュシアを担ぎ上げた。
「きゃ……、セイ?」
「お前な、無理して倒れたら俺達が迷惑するんだぞ?辛いなら辛いと言え。戦闘になったらおろすからな。」
 まるで穀物袋を抱えるように、肩にリュシアを乗せ、そのまま歩いていく。
「だ、大丈夫。」
「そう思うならちょっとは抵抗しろ。」
 あせってはいるが、リュシアは体を動かさない。疲れているのだろう。セイはこちらを振り向く。
「ほら、さっさと行くぞ。」
「あ、ごめん。」
「今行くわ。」
 トゥールとサーシャは急いでセイの後を追う。
「良かった。リュシア本当に辛そうだったもの。…あの抱え方はどうかと思うけど。」
「…なんかさ、色気はないよね。」
 二人で顔を見合わせ小さく笑うと、そのまま階段まで小走りで向かった。


 それは、暗い空間だった。
「夜か…?」
「…太陽…、魔力によって穢れた、闇。」
 おろされたリュシアが、寂しげにそうつぶやく。
「うわ…なんか、変だね、あっちに太陽が出てるのに、どうしてこんなに暗いんだ…?」
「多分、あれのせいよ…。」
 トゥールの言葉に答えるようにサーシャが指差した先。黒々と歪む海の向こう側。 そこにはあまりにも、あまりにも禍々しい城が建っていた。
「魔王の城…。」
「なるほどな、こんな黒い海に四方を囲まれてる城に、船で近づく気にはなれねぇな。ラーミアとやらが必要なはずだ。」
 セイが納得したように頷く。そんな中で、リュシアは唐突に近くの岬の突端を指差した。
「…こっち。気になるの。」
 それは、他の三人もなぜか妙に気になっていた方向だった。
「…私もよ。どうしてかしら…なんだか妙に惹かれるんだけど。」
「俺もだな。」
 サーシャとセイが次々と同意する。トゥールも頷いた。
「僕もだ。誰かが呼んでる…のかな。行ってみよう。」
「…実はあの城はフェイクで、あっちに魔王が居て呼んでたらどうするよ。」
「オーブ集める手間が省けて儲けたと思えばいいんじゃない?」
 トゥールはけろりとして答える。そのあっけらかんな態度に、一同はそれぞれ妙は尊敬の念を覚えた。
「…行くか。」
「…行きましょう。」
「…行こ。」
「え?え??何?なんなのさ?」
 混乱しているトゥールを置いて、三人は微笑みながら岬の突端へと向かった。

 そこは、小さく古びた祠だった。
「ここだね。」
 トゥールが言うまでもなく、四人はどうしようもなくそこに惹かれている。そしてここまで来て、なんとなく なぜ惹かれているのか分かり始めてきた。
 惹かれているのではなく、導かれたのだろう、と。
 扉を開ける。その扉は腐ってもなく、さびても居ない。使われた様子もないのに、くもの巣さえ張ってはいなかった。
「良くぞここまでいらした。勇者殿。」
 扉の向こう側。そこにはやや広めの部屋が一つあるだけの本当に小さな祠だった。そしてそしてその部屋の中央から、一人の 壮年の男性がこちらを見ていた。
「貴方は…?」
 トゥールは前に進む。その男性の元へと。
「わかっておるのだろう?こんなところまでたどり着いたのだ。おそらく、ルビス様に導かれていらしたのだろう。 そして、そなたらはこれを求めているはずだ。」
 そうして男性はシルバーオーブを取り出した。
 トゥールの荷物の中のオーブが、騒ぎ出した。…実際音が出ているわけではない。だが気配が一つになりたがっていると 四人は感じた。
 おそらく…五つ集まったオーブが、無意識に四人に働きかけていたのだろう。最後のオーブの居場所を。それがあまりにも 自然すぎて、四人は気がつかなかったのだ。
 世界を作ったルビスの意識。世界に溢れているが故に、その特別な意識に気づくのに遅れてしまったのだ。
「さぁ、そなたらにこのシルバーオーブを授けよう。…そなたらなら、きっと魔王を倒してくれる。伝説の不死鳥、 ラーミアもきっと力を貸してくれるはずだ。急げ、レイアムランドへと。」
 男はそう言って、トゥールの手にシルバーオーブを手渡す。
「ありがとうございます。あの、貴方は…。」
「わしか?わしはそなたらに与えられた最後の試練を見届けるための、見届け人だ。ようやく 役目を終えてホッとしておるよ。ようやく安らかな場所で眠れそうだ。」
 にこやかな笑顔でそう言った。それを、サーシャは少し寂しいと思った。
「ありがとうございました。」
 トゥールはそれを受け取り、荷物の中に入れる。六つのオーブは全て集まるのを喜ぶと同時に、 別の場所へ行けとせっついているのが良く分かる。
「うむ。気をつけてな。」
「あの、…。ありがとうございます。」
 サーシャは声を上げて、なんと言っていいか分からず口を閉じた。
「ん?そなたも天から与えられた使命を、無事果たされる日が早く来ると良いな。」
 明朗な男のその言葉に、サーシャはあいまいな笑みで頷いた。




 微妙ーな表現になってしまいました。そしてなんとかネクロゴンドの洞窟への理屈をひねくり回しました。 …ゲーム中では商人の村でその情報が聞けるんですよね…拾い忘れました。いや、ちゃんと別に 拾っとこうと思ってたんですが、それもすっかり忘れてました。てへ。拾いそびれた伏線が悲しい…。
 そんなわけで次回ラーミア復活です。頑張れ、もう少しだ!!


 
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