神の金属で作った鐘を鳴らしたような、美しいラーミアの鳴き声が、トゥールたちの耳に残る。 「伝説の不死鳥、ラーミアは蘇りました。」 「ラーミアは神のしもべ。心正しき者だけが、その背に乗ることが許されるのです。」 巫女達が感慨深げにトゥールたちにそう告げた。 (正しき者って、自信ねーぞ、俺。) (大丈夫だと思うよ。きっと。) トゥールとセイが目線でそう会話する。それに気づいてか気づかずにか、巫女達は外へと手をさした。 「さぁ、ラーミアがあなた方を待っています。」 「外に出てごらんなさい。」 トゥールたちは巫女達に頭を下げながら、外へ出た。そこには先ほどの神秘的な鳥が、じっとこちらを見つめていた。 ラーミアの目は、黒く澄み、じっとこちらに訴えかけていた。 「…僕達を乗せてくれますか?」 ラーミアは頷きはしなかったが、なんとなく『良い』と言っている声が聞こえたような気がして、トゥールはそっとラーミアに 触れた。 「乗っていこう。」 「…大丈夫なのか?」 セイは不安そうに聞くが、トゥールは笑う。 「大丈夫だと思うよ。まぁ、駄目だったら駄目で考えようよ。」 「そうだな。…まぁよろしくな。」 ぽんぽん、と軽く羽毛を叩いて見ると、その柔らかさに驚かされる。王の布団と言われても支障ない…いや、むしろ それ以上だった。 「こんにちは。よろしく。」 リュシアはそっとその羽を撫で、にっこりと微笑んだ。ラーミアはわずかに羽を動かして応える。 「応えてくれたね。乗ろうか。」 トゥールはそう言って、その羽にしがみついた。大きな鳥によじ登るのはさぞ大変だと思ったが、不思議なことになんの 労力もいらず、するすると上に登っていけた。 「不思議なもんだな。普通の鳥なら表面の羽は硬いもんだがな…気持ちいいな。」 「寝てしまいそう。気持ちいい。」 三人が上に登っても、サーシャはためらうように横に立っていた。 「どうしたんだ?サーシャ?」 「えっと、乗ることは覚悟していたんだけど…その、いざ乗るとなると、恐れ多くて…。伝説の不死鳥、ルビス様の精神の欠片に 守られた神鳥に私が乗ることなんて、許されるのかしら…。」 セイの呼びかけに、サーシャは一度そう答え、 「そんな事言っていても仕方ないものね。魔王の城にはラーミアの力が必要なんだし。…どうかよろしくお願いいたします。」 サーシャはいやに馬鹿丁寧に頭を下げて、そっと登り始めた。 四人が登り終えたのを確認するように、ラーミアは先ほどと同じ、えもいわれぬ美しい声で鳴くと大きな翼を広げて、 大空へと飛び立った。 ラーミアは四人を乗せて、高く、高く飛び立っていく。景色がどんどん小さくなり、空にどんどん近くなる。 下を見るとものすごい勢いでレイアムランドが消えていく以上、恐ろしいスピードが出ているはずだが、トゥールたちは それを感じなかった。何かで守られているのだろう、空気は暖かく、さわやかな風を感じるくらいだった。 「すごい、本当に飛んでるわ。」 サーシャが感動したように空を見上げる。ルーラでも飛べるが、あまりにも早すぎて、『飛ぶ』という感動が得られないのだ。 「本当だ。早いし、なんだか気持ちいいね。」 「…お布団みたい。」 トゥールの言葉に頷いて、リュシアは羽毛に埋まった。それがまたほわほわとリュシアの体を包み、 安心させてくれる。青い空の下、本当に夢の中にいるような心地だった。 「…まぁ、それは同意するんだが。」 セイが若干さめた声を出す。三人が、ほぼ同時に答えた。 「うん、分かってる。」 「気づいては、いるんだけどね…。」 「…気になってた。」 四人は顔を見合わせ、そして同時に言った。 「「「「どこに向かっている?」」」」 そう、ラーミアはただひたすら、一点を目指すように迷いなく進んでいる。トゥール達の意思を聞くこともなくだ。 「…普通に考えたら、…魔王の城なんだろうな…。さっき雪の中でさまよってせいで疲れてるんだがな…。」 「さすがに今から戦うのは避けたいね。とりあえず降りるまで待ってみて、そこからルーラで戻ったらいいんじゃないかな?」 「ルーラで戻ったら行方不明にならないかしら…?それにまたラーミアが来てくれるかしら…?」 「帰れなかったら怖い。」 四人が困り顔で顔をつき合わすのを尻目に、ラーミアはただ一点を目指し、飛び続ける。そして。 「ああ!見て!皆!」 サーシャが、遥か眼下を指差した。そう、遥か下にありながらも、はっきりと分かる物。 「魔王の城…。」 感慨深げに、トゥールが言う。今ラーミアが居る場所から少し西。暗い雲に覆われてはいるけれど、ここからでも その禍々しい気ははっきりと分かる。 だが、サーシャが声を上げたのは、それではなかった。魔王の城より少し東。そこには、大きな大きな空虚が横たわっていた。 リュシアが声を上げる。少し震えた声だった。 「ギアガの、大穴…」 かつて、魔王ギアガが開け、闇の精霊王に倒された今なお閉じることなく、全ての災いをもたらす穴。それはあまりにも 大きく、恐ろしい『闇』だった。 「あれがか…。また馬鹿でっかい穴だな。」 「そうだね、ネクロゴンドに出たときは気がつかなかったけど、こんなに近くにあったんだ。…なんだか、塀で囲ってあるようにも 見えるな。」 トゥールが言うと、セイが目を見開いて頷く。 「ああ、確かに。間違って穴に落ちないように、とかか…?まぁ、とりあえず魔王の城に行くわけじゃなさそうだな。」 安心したように言うセイに、サーシャが不安そうにため息をつく。 「それは安心したけれど、じゃあ、どこに行くのかしら?」 「…うーん。ラーミア、どこに行くの?もし、ただ飛んでるだけなら…、そうだな、バハラタ…ここから東に向かって欲しいんだけど。」 トゥールが呼びかけてみるが、ラーミアは相変わらず飛んでいく。 「なんでバハラタなんだ?」 「別にどこでもいいんだけど、魔王の城に近いからさ。」 セイの問いに、トゥールは少し笑いながら答える。 「近さで言うと、イシスの方が近いみたいだけど…暑いしさ。」 「まぁせっかくだ、ゆっくり眠りたいしな。」 セイもそれに同意した。それを横目に、遠ざかっていくギアガの大穴から視線をようやくはずしたリュシアが、ラーミアに 呼びかける。 「どこに行くの?」 ラーミアは応えない。こちらを振り向くこともなく、ただひたむきに進んでいる。その様子を見て、サーシャは 言う。 「…とりあえずラーミアを信じましょう。目的地があるように見えるもの。ただぐるぐると回っているだけなら… 申し訳ないけれど、ルーラして一度避難すればいいわ。」 「そうだね。」 トゥールがそう頷いて決意したときだった。ゆっくりと高度が下がっていくのを感じた。 「目的地についたのか?」 セイがラーミアの行く先を見通す。そこは、大きな岩山に囲まれた、人が決して行くこともできない場所にある、 はじめて見る城だった。 |
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