ラーミアは、その城の横へと降り立った。四人はおそるおそるラーミアから降りる。
 四方はやはり岩山で囲まれていて、人間ではどうしても入ることができないであろう場所だった。
「…もしかして、ここが本当の魔王城とかじゃねーだろうな…。」
 セイが冗談めかしてそんなことを言うが、もちろん本気ではない。
「まさか。魔王バラモスがここまで清浄な気に溢れた場所に住んでいるわけがないわ。」
「…だね…。とりあえず、…入ってみる?ラーミアが導いてくれたんだし。多分、普通のお城じゃないとは 思うし。」
 トゥールの若干ためらいがちな言葉に、リュシアが頷いた。それに続いてセイが頷き、最後にサーシャがためらいながら 頷いた。

 トゥールがそっと大きな扉を開ける。アリアハンやロマリアのような大国にも負けない立派な大扉。音もなく 抵抗なく開いたその向こう側から、どこかくぐもった声がした。
「ようこそいらっしゃいました、勇者様。ここは天界に一番近い、竜の女王様のお城です。」
 そうして出迎えたのは、二頭の馬だった。
「…え、っと…。」
 トゥールは戸惑いながら周りを見回す。セイは小声でつぶやいた。
「馬が普通に話してるとか、天界ってなんだとか竜の女王って誰だとか、何でトゥールが勇者なのか知ってるのかとか …なんかもーどっから突っ込めばいいのかわからねぇ…。」
「…エドさんと同じ。ちょっと不思議な声。でも、他に居たなんて驚いたの。」
 リュシアの言葉に、スーの村で出会った不思議な馬を思い出す。
「なにか関係あるのかしら…。」
「まもなく、案内の者が来るはずです。今しばらくお待ちください。」
 馬がトゥールにそう言うと、トゥールはようやくその馬達に向き直った。
「えっと、その、どうして、僕が勇者だって分かったんですか?」
「この城は、見ての通り行き来することのできぬ山に囲まれております。空を飛ぶことができない人間が訪れることが できるとしたら…それはラーミアを蘇らせた勇者に他なりません。」
 トゥールの声に答えたのは澄んだ女性の声だった。顔を上げると、そこにはエルフの女性が立ってた。エルフは 驚くほど丁寧な礼をする。
「このような場所へ、良くぞいらっしゃいました。よろしければどうぞ、こちらへいらしてください。」
「あ、はい、ありがとうございます。」
 トゥール達はエルフに導かれ、城の中へといざなわれる。その後を歩きながら、トゥールは躊躇いがちにエルフに尋ねた。
「あの、失礼だと思いますけれど、竜の女王様とはどのような方なのですか?」
「竜の女王様は、ルビス様からこの世界を預けられ、この世界をルビス様に代わって守護していらした 偉大なるお方です。」
 女性は気分を害した様子もなく、トゥールに笑いかけながら答えた。それを聞いてサーシャは暗い顔になる。
「ルビス様は、…この世界にはいらっしゃらないのですか?」
「…ご存知ではないのですね。…今、ルビス様はこの世界を離れられ、 他の世界にいらっしゃっておられます。…本来ならば、これほど留守になさることはないのですが…。」
 女性は顔を暗くする。トゥールたちを見て、はかなく口にする。
「…何事もない平和な世界ならば良かったのでしょうが、大穴が開けられ、魔が忍び寄るこの世界を竜の 女王様はルビス様のお力なしで守りきることができませんでした。…そのせいで勇者様方に負担をかけたと 気に病んでいらっしゃいます。」
「いえ、そんな…僕達こそ守ってくださっているのに、女王様の存在すら知らずに申し訳ないです。」
 トゥールが急いで言うと女性はホッとしたように笑った。
「長の無理がたたり、女王様の体は弱っていらっしゃいます。…ですが、女王様はどうしてもその体で卵を産むと おっしゃっていて…。」
「…おい、いいのか?そんなところに俺達が行っても。トゥールだけの方がいいんじゃないのか?」
 セイが躊躇いがちに言う。産屋に男が入ってはいけないというのは、いくら無頼者のセイとはいえそれくらいはわきまえている。
「お気遣いありがとうございます。ですが、女王様が皆様をお望みなのです。…私ごときがこのようなお願いをするのも 恐縮なのですが、どうか女王様をよろしくお願いいたします。」
 女性は大きな扉の前で立ち止まると、トゥール達に深々と頭を下げた。トゥール達は顔を見合わせる。そしてトゥールは若干弱弱しく その扉を叩いた。


 涼やかな声が聞こえた。
「どうぞ、こちらへいらしてください。」
 それは聞き覚えのない声。トゥールは首をかしげながらも扉に手をかけて開けた。
 そこには、美しい緑色の竜がこちらを優しげに見つめていた。
 竜というのは、大体にして威圧感を与えるものだが、目の前の竜にはそれがない。ただ包み込むような優しさを 持った目が、全ての心を癒してくれるようにさえ感じる。
「…まぁ…。」
「お邪魔します。…はじめまして、…トゥールです。」
 トゥールはおかしな挨拶をする。竜の女王ははころころと笑ってみせた。
「はじめまして。私は竜の女王。精霊女神ルビス様に代わり、この世界を預かっていた神の使いです。 こんなところまで来てくださってありがとうございます。」
「…いえ、ラーミアがここまで案内してくれましたので…。」
「そうですか。ラーミアはルビス様の精神を受け取りし者。そのラーミアがここまであなた方を連れてきたということは …全てをご存知なのですね。このように酷なことをなさってまで…。」
 竜の女王はどこか遠い目をしていた。そしてこちらに向き直る。
「まずはあなた方に詫びなければなりません。世界を預かりながら私の力が及ばぬばかりに、バラモスをここまではびこらせて しまい、ましてあなた方にここまで苦労をかけ、そしてこの先を預け、任せてしまうことを。」
 竜の女王は四人の目を見て言った。トゥールは恐縮しながら答える。
「いえ、僕自身で選んだことです。皆も…きっとそうです。僕達は、神様や精霊よりずっとずっと力がない存在だけど、 それでも世界の一員なんです。だから守りたいんです。」
 トゥールの言葉に、女王はふんわりと微笑んだ。そして今度は恐ろしいまでに真剣な表情を四人に見せた。
「…あなた方の行く末は、困難と苦痛に満ちています。大切なものを失い、 涙の海と後悔の茨にさえぎられ、心のあちこちに傷を作るでしょう。 必ずや後悔する…そう知っていてもあなた方は魔王と戦う勇気がありますか?」
 突然そう聞かれ、一瞬戸惑う。だが、トゥールはすぐに頷いた。続いて三人がほぼ同時に頷く。 すると女王の前に両手大くらいの光の玉が生まれた。
「そうですか…。ではあなたに光の玉を授けましょう。」
 その光の玉はゆっくりと空を舞い…サーシャで目の前に止まった。
「…わ、私?!」
「…貴女ならばきっと使えるはずです。…あるいは、使うときが来ないほうが良いのかもしれませんが。」
 サーシャは躊躇い、戸惑いながらもそっと手を伸ばす。光の玉はサーシャの手の中にすっと納まった。
「…女王様…」
「一時も早く平和が訪れることを祈ります。あなた方は必ず成し遂げられると信じています。…忘れないで下さい。 精霊が自然を司り、神族が天と地と海、そして命を司るならば、貴方たち人は希望を司っているのですよ。」
 女王はサーシャ達にそう言って、神々しく微笑んだ。




 ラーミアと竜の女王編。…といいながら竜の女王編はもう一話続きます。竜の女王出産編?& 決戦前夜編ですね。
 オーブの割り当てには若干のこだわりが…。サーシャを何色にしようか迷ったのは内緒ですが。リュシアにはぜひ 緑のオーブを掲げて欲しかったので。ちなみに男が二個、女が一個なのは力の差です。…重そうですよね、 あれ。「ふくろ」に入ってたら重さフリーなイメージがあるのですが。四次元ポケット。



 
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