肩にこつん、と何かが当たり、サーシャは覚醒する。見ると、リュシアが安らかに眠っていた。 サーシャも眠っていたのだろうか。それとも意識を集中させていたのだろうか。よく分からなかった。
 リュシアは無意識に体を起こし、そしてやはり耐え切れず壁に頭をつけて眠ってしまった。
(ベッドに戻してあげるべきかしら…。)
 ふと後ろの部屋を気にすると、漏れていた声が聞こえなくなっていた。サーシャはそっと立ち上がり、 扉に手をかけた。


 そこには、神々しいばかりに輝く卵。触れると暖かい。命の輝きに満ちたそれは、本当に美しかった。
 サーシャは視線を移す。そこには疲れ果てたように体を横たえる竜の女王がいた。
「……。」
 女王は目を開けた。そして弱弱しく目でこちらを見る。サーシャは悠然と笑った。
「ご苦労様でした。やすらかに眠りなさい。」
 女王は力なく微笑んだ。そしてゆっくりと目をつぶり…そのままそのゆっくりと、光にとけていった。
 サーシャは悠然と笑ったまま、ゆっくりと扉を出て、戸を閉め…そのままうずくまった。
「サーシャ?」
 いつから起きていたのだろうか。リュシアが驚いたようにこちらを見ていた。
「リュ、シ、ア…。」
 サーシャはぼろぼろと泣き出した。
 何もできない自分が、たった一つできること。…それは死にいく女王に安らぎをあたえるふりをすること。
『誰か』がなんなのかわからない。だが、竜の女王は卵を産み、死んでいくことを悔いていた。それを許してあげたかった。 『誰か』に代わって。
 たった一度だけ交わした会話を思い出して。できるだけ超然と笑って。ぼろが出ないように言葉少なく。
 …騙せただろうか。それとも、優しい女王は騙されたふりをしてくれただけだろうか。
「どうして、私なの。女王が信じてくれたなら、どうしてあそこにいたのは、女王が望んでいた人じゃないの。」
「サーシャ…。」
「どうして、一生懸命頑張って、こんなのって…。」
 ぼろぼろと泣き続けるサーシャを抱きしめ、リュシアは頬を寄せた。
「…悲しい、ね。」
 その頬から一筋の涙がこぼれる。それを見て、サーシャはまた泣き出した。


 城の皆の厚意を丁寧に断り、四人は早々に城を後にした。どこでもいい、と向かった先はバハラタで、四人はそのまま 宿屋に戻るとそのまま倒れこむように眠ってしまった。

 サーシャが目覚めると、テーブルにはサンドイッチとミルクが置かれていた。働き者の小人に感謝しながら、 それをお腹に収めると、なんだかホッとしたような気分になる。
 服を見ると、いつもの服のままだった。苦笑してざっとシャワーを浴びる。そしてまだ生乾きな髪のまま 外に出た。


「おー、サーシャ、起きたのか。」
 外で空を見ていたのはセイだった。
「セイ。…ご飯ありがとう。ずっと起きてたの?」
「いや?宿屋来てすぐ寝て、一旦起きて、飯食うついでに他のやつらに飯を届けてもう一回寝た。」
 その言葉を聞く限り、どうやらセイもあの城では眠れなかったらしい。
「そう、ありがとう。なんだかすっきりしちゃったわ。」
「うん、僕も。」
 ひょっと横からトゥールが顔を出した。
「トゥールも起きてきたのか。」
「うん、体も洗ってさっぱりしたよ。ものすごく寝たしね。あ、ご飯ありがとう。」
「ついでだ、気にすんな。やっぱ宿のベッドはいいな。揺れねーし。」
「そうだね。体も伸ばせるし。」
「お城のベッドのふかふかだったんだけどね。」
 三人が笑っていると、そこに最後の一人が顔を出した。
「おはよう。…もうすぐ、夕方。」
「おお、起きたか。」
 ぱたぱたと歩いてくるリュシアに、三人は手を振った。
「ご飯、おいしかった。」
「そうか、良かったな。」
「…気持ちいい、空。」
 薄いオレンジに染まろうとしている空は、芸術のようにも見えた。
「そうね。綺麗だし、それでいて明るいし。」
「…行こっか。」
 トゥールが唐突にそう言ったが、三人はそれをなぜか唐突だとは思わなかった。
「…いい空かもしれないな。」
「出るにはちょっと変な時間だけどね。」
「でもいっぱい寝たし、すっきり。」
 やわらかく笑いながら、三人は同意していく。トゥールも同じように笑う。
「まぁ、どうせ、あの城の周りってなんか暗かったから、昼でも夜でも一緒っぽいしね。」
「んじゃ、ま、行きますか。」
「そうね、準備してきましょう。」
「頑張ろう。」
 本当に当たり前のように、四人は部屋に戻り、荷物を整えて宿を出た。

 淡いオレンジに、ゆっくりと朱がさしていく。
 それはまさに、旅立ちにふさわしい、鮮やかな光景だった。




 なんで竜の女王が死んじゃったのかなーということで、色々みつくろってみた回です。主役二人がめずらしーく 活躍。そしてめずらしーくセイがほとんど出てきません。最後に小人さんしてますが。
 リュシアは相変わらずリュシアだなと。マイペースというかどこまでわかってるんでしょうか、この人は。
 トゥールが産屋がどうの、と言ってますが、多分ドラクエの世界は基本的に産屋に男は入らず、の世界の はず。5とか見てるとそうだ。立会い出産とかないんじゃないかな、きっと。


 そして旅立ち。緊張と緩和、みたいですね。なんというか死地に挑戦、という気負いがまったく感じられない 出発になってしまいました。思いついてふっと行くような。もうちょっとこう、決意とかないのか。

 次回はいよいよバラモス城です。一話で終わる、かな?

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