町の入り口にある人影を見つけた瞬間、リュシアは走り出した。 わき目も振らず、その胸へと飛び込む。 「ママ!!」 「リュシア!!お帰りなさい。」 ルイーダはもちろん、両手を広げてリュシアを迎え入れるとそのまま抱きしめた。 「ママ、ママ、リュシア、リュシアね…。」 「リュシア、お疲れ様、よく頑張ったわね。」 「いっぱい、いっぱい、話したいこと、あるの。」 「ええ、たくさん聞かせて頂戴。」 そんなほほえましい母子の会話の横で、ようやく追いついたサーシャがにっこりと笑った。 「ただいま、父さん。」 「お帰り、サーシャ。頑張ったね。すっかり美人になって、驚いたよ。」 今まで父親に言われたことのない言葉にサーシャはすっかり面食らう。 「…そうかしら?」 「目が旅立ち前とぜんぜん違うよ。」 そこでようやく、容貌のことでないことに気がつく。 「ありがとう。旅に出て、自分の欠点をたくさん知ったわ。それが一番の成長だと思うの。…父さんは、結婚したの?」 サーシャの言葉にコラードは少し頬を赤くして首を振った。 「していないよ。…二人がいないのに、そんなことはできないよ。」 「私の事なら気にしないで。もうこうして旅立ったんだもの。父さんも父さんじゃなくて一人の人間として幸せに なって欲しいわ。」 微笑して言ったサーシャの言葉に、横で聞いていたらしきリュシアが反応する。 「…ママ、リュシアも、…わたしも、そう思うの。ママたくさん頑張ってくれたし、誰と結婚してもわたしの ママだから。」 そういうリュシアをルイーダはもう一度優しく抱きしめた。 「ありがとう。」 「良かった、二人がそう言ってくれるならいつでも式をあげられるよ。」 ルイーダとコラードはお互い顔を見合わせて微笑みあった。 その横でトゥールは本当に久々に母の顔を見た。 「お帰りなさい、トゥール。」 「ただいま、母さん。」 ちょっとそこまで買い物に行っていたような、いつもどおりの挨拶だった。だが、二人の顔に浮かんだ笑みが、万感の思いを 表している。 「出迎えてくれて嬉しいよ、ありがとう。でもどうしてここにいるのさ?」 「王様がね、神からのお告げだと国民に教えてくださったのよ。町中皆がトゥールの帰りを喜んでいるわ。」 「神から…そっか。」 おそらく、ここまで運んできたあの声だろう。トゥールにはあの声に聞き覚えがあった。 「さぁとにかく一度、きちんと王様にご報告してきなさい。それからゆっくり旅の話を聞かせて頂戴。」 「そうだね。…行こう、三人とも。」 トゥールの呼びかけに、リュシアは養母からそっと離れ、サーシャは父に一言二言告げてトゥールの横についた。そして。 「俺も行くのか?」 少し後ろで見守っていたセイが、少し嫌そうにそう言った。 「そうだよ、僕たち四人で頑張ったんだからさ。」 「当たり前じゃない。セイがいなかったらきっと今頃ここに立っていないはずよ。」 「…セイ、一緒にいこ?」 三人に次々と言われ、セイは面倒くさそうに、そして少し照れくさそうにトゥールたちの近くへと歩んだ。 「…ま、勇者の凱旋なんて柄じゃねぇが、付き合うくらいならさせてもらうか。」
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