その日は夜からお祭り騒ぎだった。城からは予定通り食事と酒が振舞われ、王もなんとか顔色を 取り戻し、国民達へ挨拶をしていた。おそらく兵士の葬儀はひそかに執り行われたのだろう。
 城での宴にトゥールたちも参加して欲しいとの要請も来たが、四人とも断った。

 一人月を仰ぎながら、宿屋で酒を飲むセイ。
 あの時、この町に来てから本当にいろんな運命が変わったと自嘲しながら飲む酒は、本当においしかった。

 母の肖像画の前で、サーシャは旅のことを語った。そして、その先のことも。
「そうか…。」
「行ってくるわ。どうしてもいかなくてはならないの。…どこなのか、どんなところなのかも、分からないけれど…」
 サーシャの決意を込めた言葉に、コラードは微笑する。
「どうせ行くなら、死ぬ気で行って来なさい。」
 その言葉に、サーシャがぷっと吹き出した。
「そうね、そうするわ。でも二人での最後の夜に、こうしてゆっくり話せてよかった。父さんも死ぬ気でルイーダさんを 幸せにしてね。」
 ゆったりとした時。それは今までずっと当たり前のように過ごしてきた時であり…、おそらく二度とない、大切なときだと 二人には分かっていた。

 ルイーダはリュシアを抱きしめた。
「まぁ…そう、だったの…。」
 滅びた村。たった一人生き残った娘。その再会と別れを聞き、ルイーダの胸に16年間の思い出がこみ上げた。
「…家族のいない私に、リュシア、貴方が与えてくれたものは、本当に、本当に大きかった。…もし 願うなら、そんなたくさんのことを話して差し上げたかったわ…。」
「…ママも、行こう?いつか、連れてくの。村に。」
 腕の中で見上げながらそういう愛しい娘を、その実母の代わりにと、そして自分の気持ちを込めて、より強く抱きしめた。

 その夜、トゥールは母と祖父と、旅の思い出を語った。 そして…トゥールはおそるおそる大魔王ゾーマのことを話した。

「…まぁ…。」
「勝手なこと、言ってごめん。でも僕はほっておきたくないんだ。他人事じゃないし、なによりわざわざ アリアハンに話しかけてきたのは…僕が目当てだったと思う。…だから。」
 少し落ち込みながらもはっきりと言ったトゥールを、母はそっと抱きしめた。
「いいのよ、トゥール。貴方はもう16。立派にひとり立ちしていったんだもの。それにね、ガヴァディールの女は 家で待つのが仕事なのよ。」
「…母さん…。」
「だからね、トゥールが元気で自分のやりたいように生きるのが母さんの幸せなのよ。だからね、そんな顔しなくてもいいのよ。」
 どんな顔をしていたのだろうか。トゥールにはわからなかったが、トゥールは顔をぬぐう。そこには、本当に 優しく微笑む母の顔があった。
「うん。ありがとう。」


 そして次の日。朝から教会ではささやかに結婚式が行われた。母の形見という、少し古い型のウエディングドレスは、 様々な装飾がなされており、ルイーダの体を清楚に飾っていた。
 その横には、淡い青のドレスを着たリュシアがいた。両親がないルイーダのたった一人の身内として、 ルイーダの手を取り、共にヴァージンロードを歩いていた。
 その先にいるのは、タキシードを着たコラード。そして、祭壇に正装したサーシャがいた。
 頭には、赤い宝冠。白い法衣に神の御印のペンダント。それはまさに至高の賢者であり、まごうことなく神の代理人だった。
 頭にある宝冠は、サーシャ自身の物ではない。少し古びた、母の形見。
 それを見て、コラードは微笑して「ありがとう」と小さく礼を言ってきた。
 サーシャは賢者ではあるが、僧侶として結婚式を執り行えるほどの技量はない。父の様子を何度も見てはいるが、自分で取り仕切るには 無理があると分かっている。
 だが、明日式をして欲しいというリュシアとサーシャの言葉に、ルイーダが出した提案がそれだったのだった。
 サーシャは当然断った。だが、明日突然城の神官をお願いするわけにもいかない。そして町がお祭り騒ぎのこの中で、 上手く式を執り行えるとしたら…それは賢者となったサーシャだろうとルイーダが熱を持って言ったのだった。
 そしてそれを断りきれず…サーシャは緊張した面持ちで立っている。ただ、一歩一歩歩いてくるルイーダとリュシアに、 目の前にいる父に、神からの幸福が授からんことを祈りながら、サーシャは微笑んだ。


 なんとか式を終え、幸福な二人が外に出ると、参列客が二人を追って教会の外へと出る。そのとたん、 サーシャがその場に座り込んだ。
「サーシャ?」
 トゥールが駆け寄ると、サーシャは疲れ果てた笑顔で答えた。
「…緊張して覚えてないけれど…ちゃんとできてたかしら?」
「うん、すごく立派だったよ。」
 事実、誓言を口にするサーシャは、華麗にして荘厳でこの世のものとは思えないほど美しかった。
「ありがとう…。いいわよね、こういうのって。人の節目に少しでも誰かに幸せを祈れるのって素敵だわ。… それに…父さんが、本当に幸せそうで、照れくさそうで…なんだか、凄く嬉しくて幸せ。」
 まるで世界中の花が咲き誇ったような笑顔で、サーシャはそう言った。

 その横ではリュシアがぼろぼろと泣いていた。
「…親の結婚式で泣くなよな…顔がぼろぼろだぞ。」
 セイが呆れたように言うが、リュシアの涙は止まる様子を見せない。
「ママも、みんな、しあわせ、で、うれし…昨日、リュシアと、いっぱい、話して、リュシア…。」
 要領得ない言葉で何かを必死で伝えるリュシア。…それは本当に幸せな姿だった。
「ルイーダさんたち外でリュシア達のこと待ってるんじゃない?行った方がいいよ。」
 トゥールの言葉に二人が頷く。リュシアはなんとか涙をぬぐい、サーシャは裾のほこりを払って立ち上がる。そして 二人は並んで外へと出る。トゥールとセイはその後をゆっくりと追った。
 白いドレスを着たルイーダと、それに寄り添うコラード。そしてその横で幸せそうに微笑むサーシャとリュシアは、不思議な ほど『家族』だった。

 そして、その日は平和と二人の結婚とで町はお祭り騒ぎだった。トゥール達の所へも人は詰め寄せたが、なんとかそれを 交わしながら四人はささやかに祭りを楽しんだ。


 そして、その夜遅く、書き物をしているトゥールの部屋の窓を、何者かがノックした。



 ゾーマ様光臨!!のお話。ゾーマって後だしボスの割には存在感があるのは、こういう威圧感 からなんでしょうね…。
 これを書くためにドラクエ3をやっていて、ゾーマは一言もそんなことを言っていないのにアリアハン 王が「大魔王」とゾーマのことを称したのが怪しすぎると思いました。なんでバラモス倒したことを知ってたのかとか 疑問がつきません。案外魔族だったんじゃないだろうか。

 そんな戯言は置いておいて、コラードとルイーダの結婚式です。女性が取り仕切る結婚式というのは見たことが ないのですが、この世界では女神信仰ということで。
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