終わらないお伽話を
 〜 歴史は繰り返す 〜



 ぽつりぽつりと、落とすようにペンを動かしていた。
 たった二日。ずっと待っていた母を置いてまた旅立つこと。母はああ言ってくれたけれど、それでも戸惑いが ないと言えば嘘になる。罪悪感が心に募る。
 自分がしていることが「正しい」ことなのか、自信がもてない。かつての旅立ちの時には その自信を持っていたのに。たった二日しかいられなかったからなのか。それとも。
 それでも、悩みながらも進むしかないことはわかっている。…でも、まだ立ち上がれなかった。

 風とは違う窓の音に、トゥールは紙から目を話した。
「よぉ。」
 窓ガラス越しに、セイが手をあげる。どうやって登ってきたのだろうか。一階の屋根に立ってこちらを見ていた。
「セイ?!」
 トゥールは驚いて窓を開けると、セイは音もなく部屋へと入ってきた。
「悪いな。さすがに開けるのは面倒でな。」
「いいけど、どうしたのさ、こんな時間に。」
 今はほとんど深夜に近い。お祭り騒ぎも収まり、町も眠りについている時間だ。
「あー、うん、まー、な…。」
 セイは頭を掻き、少し悩んだ後、まっすぐトゥールを見つめた。
「いいや、単刀直入に言うぞ。…お前、一人で早朝に出て行くつもりだろ。」


 セイの言葉に、一瞬トゥールの時が止まった。
「…な、なに言って…。」
「やっぱりな。ばればれだ。」
 まったくごまかせてないトゥールの反応を見て、セイは深くため息をつく。
「ゾーマのことは町には隠して行くんだろう?にもかかわらず昼の一番目立つときに俺達が武装してラーミア乗って どっか行ったら怪しすぎるだろうが。…置いていくつもりだったろ?」
「…まだ、決めてないんだ。」
 トゥールは観念したように小さくそう言った。

 トゥールは椅子に座った。セイも遠慮せずに近くにあったベッドへと腰掛ける。
「…分かってるんだ。」
 トゥールが小さくつぶやいた。
「僕がしようとしているのは、父さんが、ずっとどっかでそうなりたくないって思っていた父さんと、同じ行動だって。 父さんは凄い人だけど、尊敬しているけど、でも同じにはなりたくなかったのに…。」
 ぎゅ、と両手を握り締めるトゥール。それでも脳裏に浮かぶのは、二つの情景。
 バラモスに腹を爪で貫かれたリュシアに、足を乗せられ、骨を折られていくサーシャ。
 そして、正装したコラードとルイーダの横で幸せそうに微笑む二人。
 …どちらが正しいのか。そんなことは、決まっていて。
 命をかけて戦ってきた、つもりだった。
 それでも、あの姿を見て、感じて…自分が傷つくより辛いことがあると知った。
「…サーシャは賢者になることと、父さんの行方を知りたがってた。リュシアは自分の両親を知りたがってた。 サーシャは賢者になったし、父さんは本当に火山に落ちてるみたいだし。リュシアの出生もわかった。… もう二人が僕と一緒に旅をする理由なんてないんだ。」
 そう言いながらも、どこかで悩む自分がいる。
 自分は勇者だと、ずっとそう徹してきた。そうあるべきだと思っていた。なのに、今明らかに戦力ダウンになる 選択を考えようとしている自分。
「間違ってるのは、分かってる、でも僕が、嫌なんだ、あの二人があんな風になるのを、見たくないんだ…。」
「正しいと思うけどな。」
「え?」
 セイの言葉に、トゥールは顔をあげる。ベッドの上で、セイは少し困った笑みを浮かべていた。
「…サーシャも夢が叶ったし、リュシアも家族で暮らせるんだろう?…わざわざあんな思いさせることはねぇよ。 居場所があるんなら、そこにいさせてやった方がいいさ。」
 手の中で、か細く聞こえる吐息。流れていく、冷たい血。思い出すとそれだけで、背筋が凍る。
「…でも…。」
「それにお前が一番思ってたのは、わざわざここで家族を作って置いて行ったことだろう?お前は違う。お前は …何も言ってないんだからな。」
 その言葉に、何か救われた気がした。仲間とか友とか、そんなことでは言えない何かを感じた。
「…ありがとう、セイ。」

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