朝のさわやかな日差しが、セイの目を焼く。
「…さすがに太陽が黄色いな…」
 あの幽霊騒動の後、セイは一人で飲みに酒場へ向かう。 幽霊が空にあがったのを見たと伝えると、酒場はそのまま祝杯モードになり、結局 朝まで酒につき合わされたのだった。
「いつまで飲んでいたの?」
 二日酔いを心配して、サーシャがオレンジジュースを差し出す。セイはそれを飲み干して 甘さに顔をしかめた。
「夜明けには寝たぜ。別に二日酔いでもないから心配しなくてもいいぜ、 サーシャ。徹夜はこれでも慣れてるんだ。」
 曲がりなりにも盗賊だったのだ。昼夜逆転する生活にも、一昼夜起きている経験にも 慣れている。
「サーシャもお疲れ。昨日。綺麗だった。」
「ありがとう。」
 リュシアの言葉に、サーシャは輝くような笑顔を見せた。この黒い髪の少女は飾る言葉が言えない代わりに、嘘偽りを 口にしないことを、長年の付き合いで知っていた。

「はいよ、旅人さんたち。お待たせ。」
 宿屋の主人がかぐわしい匂いと共に現れ、机の上に焼きたてのパンと、みずみずしい果物を並べていく。
「あんたら、これからロマリアへ行くんかい?」
「いえ、僕達ロマリアから来たんです。」
 トゥールが言うと主人はため息をついた。
「そうか…なぁ、良かったら頼まれてくれないかい?」
「なにをですか?」
「実はなぁ…こっから北にノアニールって村があるんだが…その村が眠りについてるって噂なんだ。」
「眠り…ってどういう意味です?」
 サーシャが顔を傾けると、その美しさに一瞬目を丸くして、それからまた顔を暗くした。
「それがわからん。このご時世旅をする人間なんかほとんどいないからな。病で皆倒れてるのかもしれん。 村の近くにエルフの村があるって噂もあるくらいの田舎だ。ここからじゃ なにもわからん。」
「悪いがおっさん、流行病じゃ近寄る気にもなれねーな。」
 セイの言葉に、主人は顔を振る。
「噂が伝わっている、と言っただろう?この数年で二、三人くらいはノアニールを 尋ねた人間がこの村に来てる。だが、この村は無事だ。おそらくそう心配はないと思うが…」
「わかりました。できるだけはやってみます。」
「おい!」
 トゥールの言葉に、セイが声を上げる。だが、トゥールはきっぱりと続けた。
「でも、たとえば鳥が落ちてたり、モンスターの調子がおかしかったりした場合は、僕たちは 引き返します。それでもいいですか?」
 トゥールの言葉に、主人は頷いた。
「ああ、それならそれでこっちも警戒する必要がある。無理はしなくてもいい。頼んだよ。 それじゃ、これはおまけだ。」
 みずみずしい野菜のサラダを置いて、主人は台所へとひっこんだ。


「…お前のその無料奉仕は趣味か?」
 ばりばりと音を立ててサラダをかじりながら、セイはトゥールに聞いた。
「でもセイ、セイがシャンパーニュの塔に行くのは反対なんだから、あとは北に行くしかないじゃないか。」
「はいはい、お前は善人だよな。変人並のな。」
 そう言ってはみたものの、サーシャもリュシアも疑問に思っていないあたり、勇者を生み出す アリアハンの国民性によるものなのかと、セイはぼんやりと考えた。
(でもまぁ、リュシアはトゥールに惚れてるから、トゥールの行動には従うだろうし、 サーシャは僧侶だから奉仕には慣れてるのかもしれねーな。)
「でもセイ。僕はセイも十分善人だと思うよ。」
 そう言われて思い当たる節がなく目を丸くするセイ。善人という響きがこそばゆい。
「…トゥール…寝ぼけてない?」
 サーシャが眉間にしわを寄せながら、疑わしげにみつめるが、トゥールはにこにこと笑うだけだった。

「あ、そうだ。無料奉仕と言えば、これ。」
 サーシャは袋から不思議な武器を取り出した。
「朝、礼拝の前にお墓の前に行って見たんだけど…ほら、夜地面が光っていたでしょう?そこに こんなものがあったの。」
 どうやらあの幽霊が言っていた鉄の爪らしい。手の甲に取り付けて、鋭い爪で切り裂くのだろう。
「…このまま置いておけば、あの方の名誉が失われるし、思わず持ってきてしまったんだけれど…」
「盗って来たのか。いい腕してるな、サーシャ。なんなら相棒にならないか?」
「私には装備できないけど、これで引っかくくらいはできるわよ?」
 そっと手を伸ばしたセイに、サーシャが鋭い爪をみせつける。セイは笑って手をひっこめた。
「うん、いいんじゃないかな、サーシャ。僕はサーシャがもらうのが一番良いと思うよ。 あのおじいさんも喜ぶと思うし。」
「そう?じゃあ、そうしておくわね。もしかしたら何かの役にたつかと思うし。」
 大きな袋にそれを入れながら、サーシャは素直に頷いた。


 本編では軽ーく笑い飛ばす武闘家に、今回はシリアスをやっていただきました。
 …というか、何で本編のあの人はあんなに明るいのに化けて出てるんですか?なんの未練があるんですか? というか、死因はなんですか?!
 セイとサーシャのからみは多かったのですが、他のからみが少なかったなーと思い、トゥールとセイ、 サーシャとリュシアのからみをちょっと多めにしてみました。

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