朝日を背後に浴びながら、ラーミアは進んでいく。
「なぁ、トゥール。この後どうするつもりなんだ?」
「ん?」
「穴に飛び込んで、その後だよ。」
 セイに言われて、トゥールは少し考える。
「そうだね、ゾーマは『闇の世界を支配するもの』『やがてこの世界も闇に閉ざされるであろう』って言ってたから、元々 穴の中も、僕達の世界に近かったんじゃないかって思ってるんだ。だから…多分人がいるんじゃないかって思ってる。 まず、人ができるだけ多い場所に行って、状況を把握して…一緒に戦ってくれる人を探すつもりだよ。アリアハンの酒場 みたいな場所があるといいんだけど。」
「…なんだ、ちゃんと考えてるんだな。」
「そりゃね。元々、…サーシャとリュシアが、本当に僕と一緒に来てくれるか分からなかったし、一人で旅立つなら そうしようと思ってたんだ。…だから、最初の旅立ちの時と一緒だよ。」
 その言葉に、セイはトゥールにヘッドバッドをかける。
「一緒じゃないだろ。」
「ごめん、セイがいてくれて、心強いよ。…それでも仲間が見つからなかったら、二人で魔王に挑むことに、なると思う。 もちろんそのまま突撃するわけじゃないけど。」
 笑っていたトゥールが、真顔になってそう言った。
 辛い戦いになることは予想がついた。おそらく、例え一人だったとしてもトゥールは行くのだろうとセイは思う。
「ま、挑んでどうしても負けそうなら、俺がお前かついで逃げてやるよ。」
 セイはわざと軽口を叩くように言うと、トゥールが一瞬目を丸くして、そして大爆笑した。
「な、なんだよ?」
「ううん、ちょっとね、昔を思い出してさ。」
 あれは、旅立ち前のこと。
”まぁ、強そうな洞窟に無謀に挑もうとするなら、はなっから一緒には入らないぜ?”
 そう言っていたセイからずいぶんと違ったものだと、なんだか嬉しくなったのだ。
 セイもそれを思い出したのか、少しすねたように話題を変えた。


「…朝だな。」
「そうだね…。もう起きてるかな。」
「そうだろうな。多分…ばれてるだろうなぁ。」
 セイの言葉に、トゥールは机の上に託した手紙を思い出してため息をつく。
「二人とも今頃、怒ってるかな…。」
「…リュシアは泣いてるんじゃねぇか?」
 そう言って、二人は重い気持ちになる。だが、それでもトゥールは顔に笑みを浮かべた。
「…まぁ、帰ってこられたら、いくらでも怒られるけどね。」
「まぁ、そうだな。いくらでも、泣かれるけどな。」
 また、会うことができるなら、とセイは笑う。二度と帰らないつもりはないのだが、やはりその 覚悟を背負っている「らしくない」自分に笑ってしまったのだ。
「でも、…サーシャも神父やって幸せそうだったし、リュシアはようやく、自分で納得して家族になれたみたいだし、 良かったよ。…ずっとリュシアは、そんなつながりを求めてたみたいだから。」
 血がつながっていなくても、家族だとようやく思えるようになった風に見えた。
「…家族ねぇ。でもまぁ、確かに幸せそうだったな。そういや、あの二人姉妹なんだよな。不思議だけど 案外はまってたな。」
「…ちょっと悔しいけどね。僕だってずっと妹みたいに思って、ずっと一緒だったのにさ。」
 トゥールがそう言うと、セイはからかうように笑った。
「ま、お前がサーシャと結婚したら、本物の兄になるんじゃねぇの?」
 その言葉に、トゥールは顔を赤くする。
「ぼ、僕は別に、そんな………、じゃあそれで、セイがリュシアとくっついたらサーシャはセイのお姉さんだね。」
 思わぬ反撃に出られたセイは、一瞬言葉を詰まらせる。
「…別に、俺は、リュシアにそんな風に思ってるわけじゃなくてだな…。」
「ふーん、ほー。別にいいけどねー。」
「お前だってどうなんだよ。」
「僕は勇者だからね。特別な誰かなんて作れないんだよ。」
 すまし顔でそう言い放ったトゥールの頭に、セイはこぶしを力いっぱい押し付ける。それにトゥールが反撃して、二人は じゃれあった。
 そのまま二人は笑いあう。ゆっくりと体を温める太陽の下で、今だけは憂いを忘れるようにと。
 その眼下には、大きな空虚がぽっかりと口を開いていた。


 トゥールとセイの夜逃げ編です。夜逃げの割には和やかなのですが。こういう男同士の会話って大好きです。 そういえば、結局弥生が出てきただけでしたね。登場人物3人。珍しいまでにすっきりとした話です。
 次回はサーシャとリュシア編に行きます。果たして男達のたくらみにどう対応するでしょうか?

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