トゥールの誠実かつ真面目な性格が読み取れるその手紙には、今までの旅の思い出や、これからの 想い、母への気持ちが込められていて、サーシャはそれを読み続けることに罪悪感を覚えるほどだった。
 これを自分に読ませたメーベルの意図を見逃さない程度に読み飛ばしていくと、最後に妙に字が荒れている ことに気がついた。
”そして、最後に。母さん、サーシャとリュシアに伝えてください。どうかこのアリアハンで待っていて 欲しいと。コラードさんとルイーダさんの傍で、この国を、新しくできた一つの家庭を守ってください。 そして、ごめんなさいを伝えてください。これは僕のわがままです。僕がこうしたいからするのだと。 今まで本当にありがとう。”
 まるで急き立てられるように書かれたその文章は、自分達の予感が当たっていたことを示していた。

 かくん、とサーシャの体が沈んだ。
「サーシャ?」
「サーシャちゃん、大丈夫?」
「…リュシア…おば様…。」
 震える声で、サーシャがつぶやく。サーシャの顔はまるで雪のように白かった。
「どうしたら、いいのかしら…。トゥールが、トゥールが、いないなんて、私、何の意味も…私は、トゥールのために…」
 力なくそうつぶやくサーシャ。リュシアは一瞬考えてから、叫んだ。
「セイのとこ行こう!」
 リュシアはそのまま隣の宿屋へと駆け出した。
 こんなときには、セイだ。どんな困難でも必ずなにか手を考えてくれる。そうでなくてもこの混乱した考えを まとめてくれる。四本の細い糸だったパーティーを一つの太い綱にしてくれたのは、他の誰でもないセイなのだから。
 宿屋に入り、聞いていたセイの部屋の扉をもどかしくひねる。…そしてそれはなんの抵抗もなく開いた。
 テーブルの上には、宿代より少し多いお金。きちんと片付けられた部屋。…他には何もない。ただの宿屋の…空き部屋だった。
 リュシアの顔が、真っ青になる。トゥールがいなかったと分かったときよりも、もっともっと胸がえぐれるような 想いがした。
「…どうして…。」
 それまで、どうして気がつかなかったのだろうか。
 手紙の宛名が、サーシャとリュシアだけだったことに。


 とぼとぼと帰ってくると、サーシャはまるで時が止まったかのようにその場に座り込んでいた。
「…サーシャ…セイ、いなかったの。セイ、も、リュシアを置いて、行っちゃったの…。」
 涙声でそう言うと、リュシアはサーシャに抱きついた。
 ほとんど呆けていたサーシャの顔が、その温かみでほんのりと色づき、目に力が戻ってくる。
「追いかけ、なくちゃ。どうしても、絶対に追いかけなくちゃ…。」
 サーシャの言葉に、リュシアも頷く。
「うん、行かなくちゃ、駄目。もうリュシア、嫌だ。…戦いたい。」
 そう、決意を込めた目は、サーシャの停止しかかった魂すら揺さぶるほど、美しかった。
 サーシャは固まった手を強引に動かし、自分の頬を叩く。
「…ありがとうございました。追いかけます。」
 そういうサーシャたちに、メーベルは困ったような、それでいてどこか嬉しそうな笑みを浮かべた。

 サーシャたちは、町の外へと出た。あまりに長居すると人の目に着いてしまうからだった。
「追いかけなくちゃ!早く、行かないと…。」
 妙に興奮しているリュシアの横で、サーシャは考える。
「でも、どうすればいいの?ギアガの大穴は孤島にあったはずよ。周りの海はバラモスに汚染されてるでしょうし…。」
 現実的に考えれば、その手段がない。
「空から見たとき、降りてればなんとかなったのに。」
 リュシアが悔しそうにそう言った。
 ルーラは一度足を踏み入れた場所にしか行けない。
 近くに行くだけならできる。対岸の祠も、バラモス城も足を踏み入れている以上、ルーラで行くことはたやすい。 だが、そこから先が問題だった。あの場所は、すでにバラモスに『支配』されている。 ラーミアだからこそゆけたあの場所に船など浮かべようものなら、おそらく解けてしまうだろうことは、サーシャには 『分かって』いた。
「…やっぱり空でも飛べないと無理よ。けど、空を自在に飛ぶ魔法なんて聞いたことがないし、人に 翼はないし…。」
 サーシャのその言葉に、今まで考えこんでいたリュシアが、勢いよく顔を上げた。
「行こう、サーシャ!!」
 手を伸ばしてくるリュシアに、サーシャが混乱する。
「行くって、どこに?」
 そう言いながらも伸ばしてきたサーシャの手を、リュシアはすばやく掴み取ると、そのままルーラの呪文を唱えた。
「空が飛べた場所。」
 リュシアは小さく、そうサーシャにつぶやいた。


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