目を覚ました、つもりだった。
 トゥールは急いで体を起こす。目をこする。…だが、何も見えない。辺りは真の闇で、目がおかしくなりそうだった。
 体を探って燃やせるものを簡易のたいまつにする。明かりがつくとホッとした。
「…サーシャ!」
 すぐ隣に、サーシャが倒れていた。抱き起こそうとして、一瞬手が止まる。だが、心配するまでもなく、 サーシャはすぐに目を覚ました。
「…トゥール…、良かった。なんとか生きてたみたい。リュシアとセイは?」
「まだ分からない。…とりあえず暗すぎる。明かりを増やそう。」
 幸い荷物は体にしっかりと結わいつけてあった。サーシャも明かりを増やす。
「おーい!トゥールたちか?」
 セイの声だった。
「セイ?こっちは私とトゥールよ。リュシアは?」
「ちっと待て、明かりが…。」
 そう言うと、ぽっと明かりがついた。声の方向とは違う。
「…トゥール、サーシャ、セイ!!」
 明かりがトゥールたちの元へ走りこんできた。リュシアがサーシャに抱きつく。
「大丈夫?リュシア?」
「この闇、変。ちっとも優しくない。星も見えない、夜じゃない!」
 少し興奮気味なリュシアを、サーシャは優しく抱きしめる。そこにセイも顔を出した。
「確かにこりゃ、天然の夜じゃねーな。おかしすぎる。…だいぶ目が慣れてきたけどな。それでも暗すぎる。」
 どうやらここは、森…というより木立の中だった。リュシアが言うとおり、空を見上げても月も星も、 もちろん太陽もなく、ただの闇がぽっかりとあるだけだった。
「…ここでじっとしてても仕方ないね。とりあえず…セイ、どう?見ることはできる?」
「…いや、見るまでもないな。あっちにちょっとしか明かりが見える。」
 セイの言葉に振り向くと、木々に隠れて見えなかった明かりが、ほんのわずかうつった。
「…大丈夫?リュシア?」
「…平気。」
「じゃあ、行こう。できれば誰か、話せる人がいるといいんだけど。」


 明かりの元は、民家だった。どうやらこちらとあまり変わらない家の作りに、トゥールはホッとする。
「…あのー、すみません。」
 思わず言って、トゥールは口をつぐむ。言葉は通じるのだろうか。だが、すぐ返事が返る。
「ん?なんだ?」
 男の声だった。無骨だが、乱暴な感じではない。
「あの、ちょっとお尋ねしたいんですが…。ここはどこですか?」
 妙な質問だと、我ながら思ったが、他にどう聞けばいいかわからなかった。だが笑い声がして、目の前の扉が開く。
「あっはっは、またお客さんか。…また別嬪さんもいるもんだ。 あんたらも上の世界からやってきたんだろう?とりあえず入んな。」
 わかったような男の言葉に、四人は目を丸くしながらも家に入った。

 部屋の中も、自分達の世界と、そう変わりないように思えてホッとする。置いてあった絵本は、自分達の文字と 同じものだった。タイトルは知らない物だったが。
「しかしまぁ、こっちの世界に来て無傷とはなかなか珍しいな。…上の世界から来たんだろう?」
「はい、えっと、多分。」
 問われて、トゥールは頷いた。
「まぁ、俺は上の世界のことなんか知らない。そっちの世界から落ちてくるから、勝手に上って呼んでるだけなんだがな。」
「あの、その上から来る人は多いんですか?」
 サーシャに聞かれ、男は笑う。
「いんや、そう多くはないさ。ここ最近はちょっと増えたが、それでも何年かに一度だ。ついでにあんたみたいな美人は 初めてだね。もっとも俺が知ってるのは俺の家に訪ねてくるやつらだけだがな。どうやら落下地点が 俺んちに近いみたいだな。」
「そうですか…。」
「そうそう、ここはアレフガルド。今は魔王に支配されている大陸だ。」
「魔王に?!…この闇は、魔王、ゾーマがやったことなんですか?」
 トゥールの言葉に、男は目を丸くする。
「あんたら、ゾーマを知ってるのか。そりゃ珍しいな。」
「僕達はゾーマを倒しにここに来たんです。」
 トゥールの言葉に、男は噴出した。
「あっはっは、剛毅だな。そりゃすげぇ。だが無理だよ、若いの。この世界は、もう20年近くこうなんだ。何人も 旅立ったが、誰もゾーマの城までたどり着くこともできねぇよ。」
「…でも、僕はやらないといけないんです。…バラモスはなんとか倒せましたが、やがてゾーマは僕達の世界も 支配するでしょうし…。」
 トゥールの言葉に、男は椅子から転げ落ちた。
「大丈夫ですか?」
 サーシャが急いで立ち上がって、男に手を差し伸べる。だが、男は見ていなかった。
「バラモスを、倒した?」
「バラモスを知ってるんですか?」
「…学がない俺だって知ってるさ!バラモスはゾーマの配下、四天王の一人じゃねぇか!つっても、ずっと前にギアガが 倒されて3人になっちまってるって言うが…バラモスまで…。」
 その言葉に、トゥールも驚いた。
「ゾーマ四天王?」
「…詳しいことは俺には聞かないでくれ。俺が知ってるのはゾーマ四天王がバラモス、ギアガ、バラモスブロス、キングヒドラ って名前だけだ。よし、あんたらついて来い!!」
 男はようやく立ち上がり、トゥールたちを手招きする。トゥールたちが来た方向と逆の扉を開けると、そこは海辺につながっていた。

 少し遠くで、小さな男の子が遊んでいる。その横をしばらく進むと、小さな波止場に船が泊まっていた。小さいが、立派な作りだった。
「この船をくれてやろう。ここから東にラダトームって城がある。王様は会ってくれるはずだ。そこらへんに詳しい 事情を聞いてくれ。」
「いいんですか?だって、この船…。」
「かまやしない。もともとこの大陸を出るために作った船だ。使ってねえんだよ。 ゾーマのせいでアレフガルドは変な壁に閉じ込められちまってるからな。 だからまぁ、あんまり役には立たないかもしれないがな。…頼むな。俺は、息子に太陽が見せてやりたい。」
「分かりました。ありがとうございます。」
 トゥールは頷いた。男は少し照れくさそうに手をひらひらさせると、そのまま家に帰っていった。


 ギアガの大穴編でした。怒るリュシアと、泣くサーシャ。それにめろめろ?な男二人の話です。 こういうとかなり駄目な感じですか、いかがでしょうか?
 四天王は…えーと語呂がいいかな、と。せっかく魔王を一人増やしたので。
 20年近くこうなんだ、と言っていますが、ギアガが穴を開けたのは何百年も前。計算が合わないのでは なく、単にその頃からゾーマの魔の手が徐々に迫っていた、というだけの話です。 わかりにくくて申し訳ありません。


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