少年は一瞬手の中のお金を見た後、当然のごとく顔を真っ赤にして怒り出した。 「馬鹿にするな!!俺は哀れまれて金恵んでもらう気はねぇって言っただろう!!!」 サーシャ達三人もぽかんとそれを見ていたが、トゥールはにやりと笑う。 「やだな、誰があげるなんて言った?それは前金だよ。」 「「「「は?」」」」 四人の声が重なった。 「僕達は見ての通り旅人なんだ。今、この町についたばっかりで、町を散策してたところなんだけど。 君はずっとここに住んでるんだろう?案内してくれないかな?それとこの国の王様の事とか、魔物の事とか、 そのあたりのことを教えてほしい。終わったらあと20G、ついでに料理がおいしくて居心地のいい宿屋を 紹介してくれたらあと10Gプラスするよ。どう?」 手の中にあるお金は、それだけでしばらくは仲間と食いつなげる。ましてそれが倍になれば、弟に甘いものも 買ってやれる。少年はトゥールを見上げる。 「…何か騙す気じゃないだろうな?」 「まぁ、僕達がよそ者だから怪しいのは否定しないよ。だから前金を渡したんだよ。怪しいと思ったらここで 逃げてくれてもかまわないし。」 「なんで俺を雇おうと思った?」 「この町に詳しそうだったからね。どうする?」 少年はトゥールを見て、それから手の中のお金を見る。それを何度か繰り返した後、お金を丁寧にしまいこみ、 にこやかに笑った。 「俺はヨファ!生粋のラダトームっ子だ!あんたは?」 「僕はトゥール。こっちはサーシャと、」 「セイとリュシア、だろ?すって悪かったな!」 明るくそう言われ、トゥール達は顔を見合わせて笑った。 ヨファにゆっくりと町を案内されながら、子供視点からの様々な情勢や噂話を聞いた。 「にーちゃんたち、本当に何にも知らないんだなー。どっかの貴族のボンボンか?」 「ん?僕の家は代々きこりの家系だよ。ずっと山にこもりっきりなんだよね、きこりって。」 「私はずっと神に仕える勉強をしていたようなものね。」 トゥールとサーシャの言葉に、ヨファは納得したように頷いた。 「そっか、仕方ないなぁ、説明してやるよ。俺も詳しくは知らないけど、もう何百年も前から、この世界を手に入れるために、 ゾーマとルビス様が争ってたんだって。」 「ルビス様…。」 この世界にも、ルビス様がいることには変わりないのだと、トゥールは少し不思議な気分になる。 「それで、ずっと戦ってたんだけど、俺が生まれるより前に……ルビス様が負けちゃって、世界は真っ暗になったって。それで… それよりちょっと前に…近くの海の島にゾーマが城を作ったって言ってた。城から見えるんだって。」 「ルビス様が、負けた?!それは…。」 サーシャが息を呑む。ヨファは良く分からない様子だった。 「どっかに…封印されたとか聞いた。この国にも…魔物が攻めてきて、お城の武器を奪って、いっぱい人が 死んだって。俺は覚えてないけど。」 「…でも、その割には綺麗だよね、町とかお城とか。もっとぼろぼろでもいいのに。王様が立て直してくれたとか?」 かつて魔王に滅ぼされたテドンに比べると、むしろ不思議な気がした。だが、トゥールの言葉に、ヨファは苦虫を噛み潰した ような顔をした。 「あんな王様、ただの馬鹿だ!!怖いからってずっと城にいて、何にもしないんだ!!…時々、皆にご飯とかくれるけど、 でもそれだけだ。…役立たずだ。」 その大声が聞こえたのだろうか。遠くから小さな声がした。 「にーちゃん?」 「にーちゃんどうしたの?」 「何してるの?」 「そいつ誰?」 奥まった廃屋から小さな子供がわらわらと出てきた。男もいれば、女も いるが、みな、ヨファより小さい子供達だった。ヨファはそれを見て、あせりながら押し留めるように声をかける。 「にーちゃんは今仕事中!お前らは家に戻っておけ!!」 だが、子供達は納得がいかないようにヨファに、やがてトゥール達になつき始めた。 「えー、なんでだよー。」 「にーちゃんいつもの仕事なの?」 「うわぁ、すごく綺麗な人だ!!ねぇねぇ、お姉ちゃん、人間?それとも精霊?」 「わー、髪が黒いー、おもしろいねー。」 「ねーねー、にーちゃん、その剣本物?」 一瞬驚いたが、その無邪気な様子に四人は顔をほころばせた。サーシャがしゃがみこみ、目の前の男の子と目線を合わせた。 その目は、他のラダトームの大人たちよりずっと輝いていて、サーシャは少し嬉しくなった。 「ふふふ、残念ながらただの人間なの。」 「そうなの?お姉ちゃんみたいな綺麗な人、見たことないよ?」 「ありがとう。でも本当に、お腹がすくただの人間だから、こんなのも持ってるわよ。」 そう言って、人数分のお菓子を手渡す。周りの子供達は皆そのお菓子に群がった。 その様子を見ながら、セイはヨファに尋ねる。…気がついていた。どの子も、ヨファとはあまり似ていない。 おそらく孤児の集団なのだろう。 「…弟か?」 「うん、弟で仲間だ。お前たち、俺はまだ仕事だから、おとなしく家で待ってろよ!!」 ヨファはそう叫んで、トゥールの手を引っ張った。 「行こう、ここは町の一番端っこだから、あとは逆方向から回るだけだ。」 周りを見ると、おそらく魔物などに壊された区間なのだろう。壊れた家屋に、疲れ果てたような人々が 眠っているのがちらりと見えた。 「お前、あいつらを一人で食わせてるのか?」 「…俺以外仕事できる奴がいないんだ。仕方ないだろう?誰も助けてくれねーし。」 セイの言葉に、ヨファは少しさめた大人の目をしてそう言った。 ヨファは、少し脇道にある小さな宿屋の看板を指差した。 「この宿がいいんだって。安くて飯が旨いって評判なんだ。」 「…そうだね、お城にもお店にも行きやすいところにあるし。ありがとう。」 トゥールは財布の中から約束どおり、30Gを渡した。 「…トゥールにーちゃん、ありがとう。それからリュシアねーちゃん、盗んで御免。」 リュシアは首を横に振る。 「セイにーちゃんもありがと。サーシャねーちゃん、お菓子くれてありがとう。じゃあね!」 ヨファはそう言って、元気よく手を振りながら去っていく。トゥール達はその姿が見えなくなるまで見送った。 |
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