終わらないお伽話を
 〜 その人の名は 〜



「それでね、サーシャが、ホイミ教えている間に、リュシアが文字の表作って、お絵かきしたの。下手だけど。 そしたら皆、手伝ってくれてね、毎日これ見て覚えるよって。」
 食事を取りながら、リュシアが嬉しそうにそう語る。どうやら子供達とのふれあいはとても楽しかったらしい。
「でも、ホイミの習得ってそう簡単じゃねーだろ?」
「まぁね。でも天性の物を持っている子供っているから。そうじゃなくても、基礎の基礎だけでも教えて、毎日 頑張ればできるようになるかもしれないし。それにね…この世界には職業の枠がないみたいなの。」
 サーシャの言葉に、男二人が目を見張る。
「職業がないって…えっと、僧侶とかいないってこと?」
「もちろん、神官や神父なんかはいるでしょうけど、私達みたいに、回復呪文は僧侶にしか使えないっていうのが ないみたい。ただ、魔法が使える人間は、私達の世界ほどありふれていないみたいで、それだけで特別の ようだけれど。だから、私みたいにメラとホイミを同時に使えると言うのはそれほど驚かれなかったわ。 それにね、一人だけいたの。わずかだけれど、魔の力を生み出せた子が…。」
 サーシャは嬉しそうに目を閉じた。
「それにね、色々なことが分かったの。ここには六大精霊みたいな大きな存在がいないみたいなの。 精霊女神ルビス様、それに従う神と精霊達。私達と同じようで、どこか違う…少し不思議な 感じだったわ。」
「…不思議…あのね…聞かれたの。古い言い伝えがあるって。雨と太陽が合わさるとき虹の橋が出来るって。 でも、太陽ってどんなのって。」
 リュシアが、静かに話し出す。その言葉に、トゥールもどこかしんみりした。
「そっか、見たことないんだよね。僕達には当たり前のことなのに、不思議だね。」
「早く見せてあげたいわね、本物の太陽と雨と、虹を。」
 サーシャの言葉に、トゥールは力強く頷いた。
「ま、それはいいとして、今日は城の方へ行くんだろう?」
 パンを飲み込んだセイが、話の流れを変えた。
「うん、旅人だと王様が会ってくれるって。この状態じゃ他の地方の状況はあんまり伝わってこないから色々 聞きたいんだって。」
「わかったわ。すぐ支度するわね。私達のせいで遅れてごめんなさい。」
 食事を終えたサーシャが、最後にそう締めくくった。


 城は、町の奥の丘の上にあった。なだらかな坂を上っていくと、黒い霧の切れ間から、城と向かい合うように 別の城が建っていることが分かる。…なんの城かは聞くまでもない。ゾーマの牙城だった。
「…なんだか見張られているみたいだね…。」
「でも、実際そうなのか?バラモスだってお前のこと知ってたんだろうし、わざわざ 見なくても分かりそうだけどな。」
 セイの言葉に、トゥールは少し考える。
「じゃあなんでだろうね?」
「どうなのかしら?でもヨファは島って言ってたし、バラモスの城も島にあったわ。その あたりが何か関係しているのかしらね。」
「…闇の力が…たくさん吸われてる…。」
 リュシアが呆然と眺めながら、神託者のような面持ちでつぶやいた。

 やがて、白い城が近づき、城門近くの兵士達がこちらを見た。一瞬サーシャの美貌に目を見張るが、職務を 思い出したようだ。
「なんだお前達は、…見かけない顔だな。」
「この城に何の用だ。」
 トゥール達は顔を見合わせ、少し戸惑いながら口を開いた。
「えっと、僕達旅人なんですけど、王様に会うようにって言われて。」
「旅人だと?どこから来たんだ?」
 いぶかしげに聞く兵士に、どこまで話していいものかと思ったが、少し小さな声で口にする。
「えっと、上から、なんですが。」
 トゥールのその言葉を聞くと、兵士の態度ががらりと変わった。
「なるほど。では、専門の者のところに案内いたします。」
 言葉も態度もがらりと変わった。四人は目を丸くする。トゥールはセイに小さくささやいた。
「…どこまで知ってるんだろう?」
「どうなんだろうな。…勘だが、多分なんか勘違いしてるんじゃねぇの?」
 兵士の案内に従って、トゥール達は城の中へと入る。廊下を歩き、階段を登り、案内された場所は、ひとつの書庫のような ところだった。


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