兵士に促され、部屋に入ると一人の老人が迎えてくれた。
「ふむ、…そなたら上から来たのか?」
「は、はい、…分かりますか?」
「若いわりに日に焼けておるし、今この国には黒や青の髪の者はほとんどおらんでな。」
 その言葉に、セイは笑った。この銀の髪が逆にありふれていると言うのもおかしな話だ。
「あの兵士もそれが分かってたのか?」
「いや、一般の者には上の世界のことなど何も知らんよ。…ま、ともかく座りなされ。わしは上の世界の 研究をしつつ、お前さんらのようなもんに色々教えとる学者じゃ。」
 学者に促され、椅子に乗った本を退けながら、四人はそれぞれ置かれた椅子に座った。

「見ての通り、この世界は今、危機に瀕しておるでな。魔物が跋扈し、この大陸を治めるはずの国王にしても、 他の村のことは何もわからん。じゃから旅人が来たら話を聞くために王の下に案内するようにと命じられておるが…、 その中で『上から来た』者だけはわしのところへ通せと言っておるんじゃよ。…おそらくあの兵士達は何かの暗号の ように思っておるんじゃろうて。」
 トゥールはそれで納得した。おそらく『上』という語感から身分の高い人間だと誤認したのだろう。
「それで、おぬしらは一体なにもんじゃ?」
「あ、僕、トゥール・ガヴァディールと言います。」
「ふむ…おぬしが上の世界の人間であることは、ほぼ間違いないようじゃな。この大陸に苗字を持った人間はおらんからのう。」
「そうなのか?」
 セイが驚いたように目を見開く。
「まぁ、外の世界にはそういう風習があるところもあるそうじゃが、ここではせいぜい王家の人間が国名を名乗るくらいじゃな。」
「じゃあ、お貴族さんはどうなるんじゃ?こっちの方じゃ、家名にこだわるのが当然なんだが。」
「ま、役職なんかを名乗ることが多いのう。」
 老人がそう答えたとき、突然部屋の奥から轟音が聞こえた。


「なんだ?」
 四人はとっさに構えるが、老人は驚いたように椅子から飛び上がった。
「王子!いらしてたんですか?」
 本棚の奥の方へと走っていく老人。やがて、少し埃のかぶった青年が、老人と一緒に現れた。
 年はトゥールたちと同じくらい。細身の体に明るい色の髪。どちらかといえば美形と言える顔には人の良さそうな 笑みが浮かんでいる。立ち振る舞いに品を感じるあたり、ここの王子なのだろう。
「すみません、失礼しました。」
「大丈夫ですか?お怪我は?」
 サーシャがそう声をかけると、その美貌に一瞬驚いたように固まったが、やがて笑みを戻した。
「はい、大丈夫です。お気遣いありがとうございます。客人の前でみっともない真似をしてしまいました。 私はエルネストと申します。…ここにいらしているということは、あなた方は上からの方ですか?もしよろしければ、 お名前をお聞きしてもよろしいですか?」
 腰の低い人だと思いながら、トゥールは四人を順に紹介する。
「僕がトゥール。こっちがサーシャ、セイ、リュシアです。」
「…トゥール、先ほど名乗っていらっしゃった…トゥール・ガヴァディールさんですか?」
「はい、?そうですけど…?」
 王子はじっとトゥールを見た。やがて、王子は頭を下げ、話を戻した。
「失礼しました。…それで、この城には何か御用が…いえ、この世界には…何か御用があっていらしたんですか?」
 王子はどこか緊張しているようにも見える。それを不思議に思いながらも、トゥールは本題に入ることにした。
「…僕は、ゾーマを倒してこの世界を救いに来たんです。」
「なんじゃと?!」
 老人は驚きのあまり声を上げる。王子も驚いたようだったが、やがてじっとトゥールを見て息を吐いた。
「そう、ですか。この城にいらしたということは、何かお役に立てることがあるのでしょうか?」
「いえ、はじめてこの世界に来たときに、王様に会って来たらいいと言われたもので…。」
 トゥールにそう言われ、王子はしばらく考え込んでいたようだったが、やがて丁寧に頭を下げた。
「私達にできることがあるのならば、なんでもご協力いたします。 ですがその前にもしよければ、父に会っていただけないでしょうか?詳しいお話はその後でいたしましょう。」
「王子!それは…。」
 老人があせったように立ち上がる。だが、王子は困ったように笑った。
「…分からない。だけど僕は、少しでも父の力になりたいんだ。…トゥールさん、サーシャさん、リュシアさん、セイさん、 どうかお願いします。」
 王子はそう言って丁寧に頭を下げた。


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