トゥール達は城を後にした。
 誰もなにも言わなかった。その沈黙が恐ろしかった。
 オルデガが生きていた。そのことはトゥール、そしてサーシャの心に大きな影響を与えたようだった。
 恐ろしく重い空気。触れてはいけないような雰囲気。そんな中、トゥールがようやく口を開いた。
「…父さんは…。」
「ん?」
「…父さんは、そんなに本名が嫌だったんだろうか…。」
 トゥールの言葉を一瞬考え、そして三人は噴出した。
「わ、悪いが、俺も嫌だな。」
「そ、そういえばご本名はポカパマズさんだったわね…。」
「記憶がなくなっても、すごいの。」
 トゥールも笑っていた。
「だよね、記憶がなくなって思い出すのが本名じゃないって凄いなって思ってさ。」
 暗いくらい空の下、四人はそう笑いあった。
 ひとしきり笑った後。サーシャはさりげなさを装って聞く。
「大丈夫?トゥール。」
「ん、まぁね、複雑…だけどさ。これでようやく、父さんも全部のしがらみを捨てて、ただの勇者として 動いて…。」
 そう複雑な表情をして笑った。
 勇者として、そう戦うべきだと思っていた。父はそうやって戦って…姿が見えなくなった。
 自分はどうだろうか。振り向くと、そこには仲間がいて。トゥールはその仲間達に笑うことにした。
「あ、サーシャ姉ちゃん達だ。」
 ちょうど宿の近く。ヨファが声をかけてきた。
「なぁなぁ、おもしろい情報があるんだけど、10Gで買わない?」
 楽しそうにいうヨファに、セイは少し考えて5Gだけ渡した。
「いい情報だったら残りを渡してやるよ。」
「ちぇ…なんか、他所から来た盗賊がここの牢獄に捕まってるんだって。カンダタっていうらしいんだけど、そいつがね…」
「「「「カンダタ?!」」」」
 四人は顔を合わせてそう言うと、ヨファに5Gを押し付け、そのまま以前案内された牢獄へと走りこんだ。


「ん?なんだ、珍しいところで会うな、白刃。」
 薄暗い牢屋で見た顔は、たしかにかつて二度戦ったカンダタだった。
「…金腕…お前こんなところで何してるんだよ…。」
 セイが疲れたように言うと、カンダタは豪快に笑う。
「いやぁ、城に盗みに入ったらつかまっちまってよ。」
「カンダタ、盗賊はやめたんじゃなかったか?」
 トゥールがそう言うと、カンダタはにやりと笑う。
「俺は”もう人をさらったりしねぇ。子分にさらわせたりもしない。盗賊団もやめる。”って言ったはずだぜ?」
「…というか、金腕、どうやってここまで来たんだ?」
 セイの言葉に、カンダタは困ったように言う。
「って言われてもなぁ…、あれから洞窟の宝を漁ったりして旅してたんだが…あるとき凄い地震が起こって地割れに飲み込まれて 気がついたらここにいたってわけだ。いやぁ、真っ暗で驚いたぜ。」
「…キメラの翼で帰れよな…、なんならくれてやるぜ?」
「帰っても特にすることもねぇしな。とりあえずこの近くに変な洞窟があって言ってみたんだが、いやー、 呪文が使えない上に敵が強いのなんのって。で、諦めて城にもぐりこんだってわけだ。」
「…でも、聞いた話だとモンスターに襲撃されて宝物を取られたって話よ?貴方が狙うような宝はないんじゃないかしら。」
 サーシャの言葉に、カンダタはにやりと笑った。
「それがな、裏の情報だがラダトームには太陽があるって話だ。」
「…太陽?」
 リュシアが首をかしげる。何かの比ゆだろうか。
「ま、この世界で太陽って言うからには相当のもんだろう?でもま、結局つかまっちまってな。 洞窟の傷が痛んでたとはいえ、俺もへましたもんだ。」
 明るく笑うカンダタの肌には、あちこち傷があった。サーシャがしゃがみこみ呪文をかけた。
「おお、ありがてぇな。」
「呪文って事はしのびあしが使えなかったってことか?ピラミッドの地下みたいなもんか?」
 セイの質問に、カンダタは肩をすくめた。
「他にも色々盗賊の呪文を使ってみたが、駄目だったな。すぐ逃げてきたから詳しくはしらねぇが、こっから北西だぜ。 なんでも魔王がこの世界に来たときにできたひびわれってのがあるらしいな。」
「魔王が…。」
 トゥールが小さくつぶやいて考え込む。呪文が終わったサーシャに変わるように、セイがカンダタにささやいた。
「金腕、こっから出してやろうか?色々教えてもらったしな。」
「いや、やめとくわ。なんだかんだで待遇は悪くねぇし、しばらくここで療養することにするぜ。お前らは… ここでもやるんだろ?ま、お前らがやってくれた暁にゃ恩赦もあるだろうしな。頑張れよ、白刃。」
 それは本心なのか、それともかつて大盗賊だった人間のプライドなのか。ひらひらと手を振って トゥールたちを追い返した。

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