終わらないお伽話を
 〜 勇者の盾 〜



 相談の結果、ひとまずカンダタの言っていた洞窟に行ってみようと言うことになった。
「魔王となにか関係があるなら探ってみたいしね。」
「どのレベルの敵がでるか分からないけれど、とりあえずやってみましょう。…リュシア、大丈夫?」
 リュシアは頷く。
「ここは、外にいても一緒だから。」
 闇が支配され、自分を拒む空気はこの世界にいる限り、どこも変わらない。あまり役に立てなさそうなのが辛いが、自分なりに 頑張ると、リュシアは気合を入れた。
「セイ、カンダタは中で何か見たって言ってた?」
「いいや、なんも言ってなかった。」
 セイの言葉を聞き、トゥールは少し考え、三人にこう言った。
「よし、今回はできるだけ敵から逃げることを考えよう。ピラミッドの時は剣でなんとかできたけど、それだけじゃ ちょっと厳しそうだし、余力を残すことを最優先に進もう。」
「そうだな、無理しても仕方ねぇし。…あいつらに効くかね?」
 セイは即座に賛成し、毒蛾の粉とまだらくも糸を三人に渡す。
「とりあえずやれるだけやってみましょう。怪我をしても薬草でしか治せないものね。」
 リュシアはまだらくも糸を手で少しもてあそびながら頷いた。


 洞窟に一歩足を踏み入れたとたん、リュシアの顔が曇る。
「…ピラミッドとは違う感じ。いちゃ駄目っていうんじゃなくて…、もっともっと押さえつける感じがする。」
 排除ではなく、重圧。それが何を意味するのか三人には分からなかったが、そのリュシアの言葉によりいっそう警戒しつつ、 静かに奥へと進んでいく。
「来たぞ!!」
 どすどすと一直線にこちらに向かう足音。それを聞き分け、セイは三人に注意を送る。こちらに吼えるトロルキングに、セイは まだらくも糸を投げつける。
「走れ!!」
 それは上手く顔にからまり、トロルキングをもつれさせた。四人はできるだけ足早にその場を立ち去った。

 そんなことを何度か繰り返し、避けられなかった戦闘を幾度か繰り返した後、四人は最下層にたどり着いた。
「あんまり深くなくてよかったわね。」
 サーシャは安堵の息を吐く。見渡す限り見えるのは、崩れた壁といくつかの宝箱。そして。
「…なんだろう、これ。」
 傷ついた体を薬草で癒しながら、トゥールは目の前にある亀裂をじっと見た。
「…まさかまたこっから落ちろって言うんじゃないだろうな。」
 亀裂の手前にある宝箱の中身が、苦労の割りにたいしたことがなかったことにがっかりしながら、セイは頭をかく。
「その可能性はあるね。…とりあえずこれ、投げてみようか。」
 適当な木切れに火をつけ、トゥールは亀裂に落とす。そのとたん、地面が揺れた。
「きゃぁ!」
「落ちるなよ!!」
 とっさに身を低くし、亀裂に落ちないように踏ん張る四人。そしてトゥールはある気配を感じて、手をあげる。
「うわ!!あつ!!」
 とっさに受け取ったのは、投げたはずの木切れだった。まだ赤々と燃えている。
「…これ、さっきトゥールが投げたの?」
「…だと、思うけど…。帰ってきたってことなのかしら?」
「なんなんだ…?」
 四人は顔を見合わせる。トゥールは近くに落ちていた石に適当に名を刻む。
「もう一回投げてみよう。行くよ。」
 トゥールは軽く石を投げる。…だが、少々勢いがつきすぎたようで、石は軽い音を立てて地面に落ちた。
「…なんだ?向こう岸があるじゃねぇか?お、宝箱が置いてあるな。」
「でもどうやって…、あ、端っこに道があるね。狭いけど。…僕行って来るよ。待ってて。」
「落ちないでね。」
 リュシアの言葉にトゥールはにっこり笑って手を振ると、慎重に向こう側に渡り、やがて 青い盾を持って帰ってきた。

 不思議な青い金属に、金色で不思議な文様が描かれた盾は、どこか気品を感じさせた。
「結構いい盾だな。お前装備できそうか?」
「…うん、大丈夫みたい。軽いし使いやすそうだよ。」
 盾を振り回すトゥールを、サーシャは唖然としながら見ていた。
「……………。」
「サーシャ?」
「勇者の、盾。ラダトームから盗まれた、神に作られた勇者のための防具。」
 あえぐように、そう口にした。
「…大丈夫?」
 トゥールは心配そうにサーシャの顔を覗き込む。サーシャはそのトゥールの顔を、穴が開くほど覗き込み、そして力を 抜いて微笑んだ。
「平気よ。よく似合うわ、トゥール。」
 その言葉に、三人の表情が驚愕に変わる。トゥールは固まり、セイは目を丸くし、リュシアは驚きのあまり手が震えていた。
 それを無理からぬことだとわかっていながらも、サーシャはすねたように声を荒らげる。
「もう!そこまで驚かなくてもいいじゃない!」
 少し顔を赤くして抗議するサーシャが妙にかわいくて、三人は笑う。サーシャは赤くした顔を横に向けて、話題を変えた。
「もう何もないでしょう?早く出ましょうよ。」
「そうだね。行こう。」
 笑い顔をなんとか収めながら、トゥールは赤らんだサーシャの顔をずっと見ていたいなと思った。



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