勇者の盾の威力は、帰り道でも十分に発揮された。 「すごいね、これ。軽いしちっとも戦いの邪魔にならないや。」 そう言って振り回すトゥールの腕に、盾は当たり前のようにくっついていて、よく似合っていた。 (それも、当然よね。) サーシャは思う。この盾は…オルデガにはきっと似合わなかっただろうと。そんなことをすんなりと考えた。この盾はずっとトゥールを 待っていたのだ。 「でもこれ…ラダトームのお城のものなんだよね。」 遠目に映る城を見ながら、トゥールは残念そうにそうつぶやく。 「あの王子様に聞いてみたら?誰にでも装備できるものじゃないし、譲ってくださるのではないかしら。 できることならするって言ってくださっていたし、太陽のことを聞くときにたずねてみましょうよ。」 「そうだね…だといいな。…でもどうして父さんはこれが装備できないって思ったんだろう。勇者の盾なのに…って、そうか、 自分が勇者だって記憶もなかったんだよね。…セイ、どうしたの?」 トゥールがそういう横で、セイは少し顔をゆがめていた。 「あいつ、嫌いなんだよな…。」 「いい人だと思うけど?でもそうか、セイは王族とか嫌いだよね。」 トゥールになだめられても、まだ不機嫌そうにしているセイに、リュシアははにかみながら小さく告げる。 「…リュシアは、あの人好きよ?…ちょっとトゥールに似てる。」 「そうかしら?私はそう感じなかったけど。」 サーシャの言葉に、リュシアは小さく首をかしげて、慎重に言う。 「自分のできること、一生懸命やろうとしてるとこ、似てるって思った。」 その言葉を聞いて、セイは小さな小さな声で苦々しくつぶやいた。 「…やっぱ嫌いだ、あいつ。」 すぐ隣にいたトゥールはそれを聞き取って、小さく笑った。 「もちろんですよ。もし持ち去られた他の武具…王者の剣と光の鎧と言うのですが…もしあったらさしあげます。」 王子は快くそういって了承してくれた。 「いいんですか?」 「ええ、元々、ロトから譲り受けたものですからね。…ああ、でも 王者の剣は破壊されてしまったと噂に聞いているのですが…。」 「ロトの勇者…?」 サーシャは首をかしげる。王子が頭を掻いた。 「そういえば皆様はご存じなかったのですね。この世界で有名な英雄の名前です。英雄の代名詞とも言えますね。 きっとロトも皆様に使っていただけて喜んでいると思いますよ。」 「ありがとうございます。ところで、あの、以前お話した太陽と雨の話なのですが…。実は、この城に太陽があると 聞き、何か関係あるのではないかと思ったのですが。」 トゥールの言葉に、王子は目を見張った。 「太陽がこの城に…ですか…?そういえば…ちょっと待っていてください。」 王子はそういうと、近くの本棚から一冊の本を取り出し、ページを探り出した。 「言われて初めて気がつきましたが、確かにこの城は太陽の石という宝があります。そしてこの世界にはもうひとつ雨雲の杖という宝があるそうなのです。」 「太陽の石、雨雲の杖…ではやはり、この伝承はそのことなのでしょうか?虹の橋についてはわかりますか?」 サーシャに言われて、王子は少し困ったように首をかしげる。 「残念ながら虹のことについては…。この本によると、太陽の石が人の手にあるとき、雨雲の杖は人ならざる者の手にある、とあります。…ですから 太陽の石はお渡しできるんですが、雨雲の杖がどこにあるかはわかりませんし、その二つをあわせる…おそらく揃えるという意味だと 思いますが、そうした時何が起こるかはわからないんです。」 トゥールは少し考えて、頷く。 「いえ、それだけわかれば十分です。…もしよろしければ、太陽の石をお貸しいただけますか?」 「もちろんです。どうか、よろしくお願いします。もし他に何かあれば…いえ、なにもなくてもまたいつでも 城にきてください。」 王子は熱を持った目でそう言いながら、太陽の石をリュシアに手渡した。 王子に託された石は、オーブと同じくらいの大きさで、ほのかに暖かいものだった。太陽と言われればそういえなくもないが、サーシャが 間違いなく太陽の石だというので、おそらくそうなのだろうとトゥールは思った。 「しかしまぁ、結局雨雲の杖ってのを探さないとだめなんだな。…めんどうくせぇな。」 「…オーブは六つだけど、こっちは後ひとつ。」 ぼやくセイに、リュシアが慰めるように言う。だが、セイはため息をつく。 「しかしなぁ、人の手にないってことは、神だの精霊だの…最悪モンスターが持ってたらどうするんだよ?」 「…んー、でも僕なんとなくわかった気がするんだよね。これも勇者と同じなのかなって。」 「何が?」 「この世界では精霊っていう大きな区切りはないみたいだし。僕らの世界で勇者も神と精霊と人に認められたように、こっちでも 認められたらもらえるのかなって…。まぁ、どうやって認められるかはわからないんだけど。」 トゥールは困ったようにそういうが、その言葉にサーシャは何かに気がついたようだった。 「どうしたの?サーシャ?」 リュシアがそれを促すが、サーシャは首を振る。 「…いいの、なんでもないわ。…もしトゥールの推測が当たっているなら、おのずからわかる事よ。…道は開かれているのだから。」 |
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