結局四人は相談の末、ラダトームから船で西回りに周っていくことになった。西回りに行くことには大して意味がない。 単に最初に行った洞窟が西側にあったからだった。
「つまり最初はドムドーラに行くわけだな。」
「そうなるね…。別に逆でもいいんだけど。あ、真っ暗だから何も見えないし、セイには活躍してもらうことになるよ。」
「うえー。」
 トゥールのにこやかな言葉に、あいまいな声で返しながら、セイはうんざりした表情を見せた。


 そうして、船は真っ暗な中、ひたすらに進んでいく。セイは時々鷹の目で周囲を探りながら船を動かす。地図とコンパスがあるので、 四六時中見てなくてもいいのだが、こうまで真っ暗だとなんとなく不安になるのだ。
「セイ、大丈夫?」
 背中に小さな声がかかる。誰だと聞くほど薄情ではないセイは、振り向かぬまま小さく笑う。
「なんだ、リュシア眠れないのか?」
 ラダトームで購入した時計によると、今は深夜にあたる。むろん、この空では時間も何もあったものではないが、一応食事の時間などは 時計に合わせることにしていた。
「……目が覚めたから。真っ暗で落ち着かなくて。」
「ま、いいけどよ。ちょっと風に当たったらちゃんと寝ろよ。」
「セイも、あんまり魔法、使うの良くない。」
「へいへい。」
 そう返事しながらも、セイは隣に来たリュシアをじっと見た。
 この旅を始めて一年近くたつが、16歳という成長期にも関わらず、リュシアはあまり成長したようには見えない。それは 同じく成長期のセイがぐんと成長したせいだろうか。もともと童顔のリュシアとの外見年齢の 差は広がるばかりだ。そういえば、実年齢もそろそろ19になっているはずだった。
「…?」
 じっとこちらを見るセイをいぶかしげに見るリュシア。その表情はかわいらしくも幼い。だが、それとは別の表情を 時折見せることがある。…それは確かにリュシアの心が成長した証なのだろう。
「…いや、なんでもない。」
 意識するとすこし照れる。真っ暗なので顔が赤らんでもわからないだろうが、こちらの精神状態がもたない。
(平常心平常心。)
 そもそも旅の仲間というものは、家族も同然で、その家族への恋心を自覚するなど、あまりにも心臓に悪い。トゥールは 良くやっているなどと少しずれたことを考えた。
「あのね。」
 セイはこれ幸いと、口を開いたリュシアの言葉に意識を集中する。
「なんだ?」
「…髪の毛、伸ばしてみようかな。…全部終わったら。」
 リュシアの言葉に一瞬驚き…そしてあることを思い出し、苦い思いが沸き起こる。
「な、なんでだ?」
「…セイが、前言ってた。終わったらしたいこと、考えろって。…だから、ずっと考えてた。サーシャの 髪、綺麗だから、おんなじ風に伸ばすの嫌だったけど、今は嫌じゃないから…変かな?」
 その言葉に、セイはほっとする。ラダトームの王子に髪を褒められていたこととは、どうやら無関係のようだった。
「いや、…いいんじゃねぇ?別に今からでも伸ばせばいいんじゃねぇの?」
 セイの言葉にリュシアは首を振る。
「いいの、終わってからのお楽しみなの。…セイに前、褒めてもらったからセイに言いたかったの。」
 にっこりと笑うリュシアが可愛くて、思わず抱きしめたくなる。
 そして、それと同時にバラモスと戦ったときの、あの血潮の暖かさを思い出した。
「…どうかした?」
 怖い顔になったセイにリュシアは驚く。その声にセイは我に返り、微笑んだ。
「いや…楽しみだから、とっとと終わらそうな。」
 もうあんな目には合わせはしないと、横ではにかむリュシアを見ながら、セイは決意を新たにした。


 ようやく次回から探求に出ますよ。旅はあえて西回りになります。ちなみにガライは無視することとなりました。 だってあのイベント、1の補完イベントで本編とは関わりがないんだもの…。
 次回はドムドーラ。イベントも少ないですしさっくりまいります。


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