村の最東端。木々に隠された小さな小さな家から、その煙はあがっていた。
 トゥールはドアをノックする。
「すみませー…うわぁ!」
 言い終える前に扉が開き、壮年の男性が顔を出す。こわばった顔をしていた男性は、トゥールを見てため息をついて、 少し疲れたように笑った。
「…ああ、旅の人か…驚いただろう。とりあえず、中に入りなさい。」
「…はい。」


 部屋はこじんまりとしていたが、この村の中で唯一、埃のかぶっていない家だった。
 男性は入れたばかりのかまどの火で、四人にお茶を入れてくれた。
「…実はこの村は、エルフの呪いにかかっています。ここから西に、エルフの隠里があるのだが…」
「エルフは気位が高いと聞いていますが、むやみに人に呪いなんかかけないはず…どうして?」
 サーシャの言葉に、男性はため息をつく。
「…それは、私の友人が、エルフの少女とエルフの宝を持ち出して、駆け落ちしたからなのです。」
「駆け落ち?」
「ふーん、エルフの宝か。」
 トゥールとセイがそれぞれ別の所に反応する。
「…私の友人とエルフの娘のアンは、愛してあっていました。ですが、双方の親…特に アンの親は決して許さないと言い…結局二人は駆け落ちしたのです。」
「なんでエルフの宝を取っていったんだ?別に身一つで逃げりゃいいのによ。」
 セイの言葉に、苦渋の顔で男性は答える。
「…自分の意思を示すためだと、アンは言っていました。自分だけで逃げれば、人間が さらったように見えると。ですが、里の限られた者しか知らない宝を持って逃げれば、 アンが自分の意思で逃げたと分かると。…ですが、逆効果でした。エルフの女王は 友人がアンをそそのかして、アンに宝を盗ませたのだと怒り、二人の居場所を教えろと迫ったのです。 ですが、誰もその場所を知りませんでした。 村の皆は友人とアンが駆け落ちした事すらも、知らなかったのですから…そして、村は眠らされたのです。」
「なぜ、貴方は眠っていないのですか?」
 トゥールの言葉に、男性はうつむいた。
「私はその時、友人とアンに怒りを覚えてエルフの里に乗り込もうとした友人の父親を 説得するために、村を出ていたのです。そして帰ってきて…村の皆の姿を見て、全てを悟りました。 …どうかお願いです!エルフの宝を探してください!」

 涙ながらに頼む男性に、トゥールが引き受ける前にと、セイが口を出す。
「おいおい…その宝がどこにあんのか分かるのかよ。宝には詳しいけどよ、そんな話聞いた事ねーぞ。」
 男性は首を振る。
「どこにあるかは知りません。ですが、アンは最後に私に寂しそうにこう言いました。『宝をお金に変える事が 目的じゃないから、宝はこの近くに置いて行きます。…もし、お母様が真実を悟って反省した時は… どうか宝を返してさしあげて。』と。ですからこの近くにあるはずなんです。それが あれば、少なくとも友人が宝目当てでやったわけじゃないことが証明されますから…。」
「わかりました、できるだけやってみます。村の中にはないんですよね?」
 トゥールの言葉に光明を見出したように、顔を上げる男性。
「は、はい…私に探せるところは探しましたから…!ただ、あんまり村の遠くにはいけませんでした。 もうその頃には魔物がすごくて…。」
「結局、お二人はどこに行ったの?それが分かれば一番早いと思うんだけど…?」
 サーシャの言葉に、男性が再び首を振る。
「それも分かりません…私たちに迷惑がかからないようにと、決して口にはしませんでしたから… それにアンがいては、人里で生活するのは難しいでしょうから、探すのは難しいかと…。」
「そう…」
「どうか、お願いします…罪のない村の人々を…もう、眠りから解き放ってください…。」
 罪悪感でいっぱいの心の響きだった。この男性は何度もその日の事を思い出し、何度も 後悔したのだろう。いっそ一緒に眠ってしまえればそれを感じることもできなかったのだろうに、 もう何年もこうやって苦しんでいる。
「もう少しだけ、我慢してください。」
「…はい、エルフの隠里は、ここから西…。西には洞窟があるのですが、その北です。 何か分かるかもしれません。」
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