「と、そんなわけで見つけたんだけど。」 トゥールは布でくるんだ剣の刃を見せながら言う。サーシャはじっとその刃を見つめた。 「うーん…材質が普通じゃなさそうだなとは思うんだけど…、ごめんなさい、分からないわ。多分、王者の剣の刃だとは思うけれど… 」 「いいよ、サーシャは商人じゃないんだし。」 「こんな暗い中で今もちょっと光ってるし…オリハルコンじゃねえの?…とはいえ、どうするか、だな、これ。」 セイの言葉に、トゥールは周りが切れないように丁寧に刃を布でくるみ、しまいこむ。 「とりあえず取っておこうかなって。そのうちラダトームに返してもいいしさ。それより何か分かった?」 「いや、だんだん寒くなってるとは言ってたが、特に変わった情報はないな。」 リュシアが小さい声で、少し嬉しそうに言う。 「…何もなかったけど。…あのね、子供が生まれるんだって。武器屋の奥さんが言ってたの。… 嬉しいね。」 「そうなの。…頑張らないとね。その子にはちゃんと明るい空を見せてあげたいねってリュシアと言っていたのよ。」 サーシャも嬉しそうに頷いた。この魔に支配された中で、それでも新しい命が生まれる。それは何よりも すばらしい情報だと思った。 「…セイ?貴方、セイじゃない?」 出発は明日にしようと宿を取っているその後ろから、女性の声。振り向くと、そこには 赤い髪をなびかせた女性が階段の上に立っていた。セイはその顔を見て、驚いたように女性に呼びかける。 「…レナ?レナか?」 「まぁ、やっぱりセイだったのね!まさかこんなところで会えるなんて思わなかったわ!…どうやってきたの?」 そういって、レナはセイに飛びついた。セイより少し年上のその女性はスタイル抜群で、妖艶な美女だった。 「レナこそなんでこんなところにいるんだ?どっかから落ちたのか?」 「落ちた?違うわ、あたしはお金を払って連れてきてもらったのよ。」 「…ああ、じゃあ、あいつやっぱり諦めなかったのか?」 「…ストップ。いきなり知り合い同士で分かり合わないで紹介してよ。」 トゥールがセイの前に手を出して、二人の会話を止める。セイは抱きついてるレナの腕から逃れ、頭を掻いた。 「ああ、そうか。えっと、レナ、こいつは俺の仲間でトゥールとサーシャとリュシアって言う。もう 前の仕事はやめて、今はこうして旅をしてるんだ。」 レナは三人を見回して、軽く髪をかきあげた。 「まぁ、そうなの。はじめまして、あたしはレナ。昔はアッサラームで人気だった踊り子よ。セイにはその時お世話になったの。」 「…セイ、何したの?」 リュシアがじと目でセイを見上げる。セイは少しあせって答えた。 「いや、レナがいやな客に迫られててな。そいつしつこい男で高飛車でろくでもない奴だったからな。」 「そう、それでセイが追い払ってくれたの。」 嬉しそうに腕を組むレナ。セイは苦笑した。 「で、俺も色々あってアッサラームから出たんだが…また迫ってきたんだな?」 「そうなの。もう、どっから聞きつけてきたのか、セイがいなくなって、『旅人に遊ばれて捨てられたんだろう、俺が 拾ってやる感謝しろ』ってこうよ!まったく50過ぎの脂ぎった男がずうずうしいのよ!」 「…役に立てなくて悪かったな。」 さりげなく腕をはずし、セイが笑いかけるとレナは意外そうな顔でセイを見上げて、穏やかな顔で話を続けた。 「…それで毎日迫られて煮詰まってたあたしに、知り合いが魔法使いを紹介してくれたの。 絶対追いかけられない所に連れて行ってやるって。最初はびっくりしたわ。こんな別の世界があるなんて。…それも 魔物に支配されて真っ暗で。…でもここはいい町よ。元々旅人が多い町らしいけど、よそ者のあたしも受け入れてくれた。 魔王は心配だけど、それは元の世界でも一緒だもんね。だからあたし、この世界で生きていくつもり。」 「そうか…結局俺、役に立てなかったみたいだが、まぁ幸せそうで良かった。」 安堵したセイに、レナが前で手を合わせる。 「それなんだけどー、せっかくだからお願い聞いてくれない?」 「なんだ?聞けることなら聞くぞ?」 「あたし、必死だったから、なんにも言わないで来ちゃったのよ。だから、もしできるなら座長にあたしは無事だって 伝えてくれない?もうあいつはいないと思うけど…。」 セイはトゥールをちらりと見る。トゥールはそれを見て頷いた。 「ああ、いいぞ。どうせ出発は明日だからな。」 「ありがと、あたしへの返事はいらないわ。」 レナは一歩下がってまじまじと眺め、微笑んだ。 「…セイ、あんたいい男になったわ。」 「そうか?まぁ、あれから背も伸びたし筋肉もついたからな。」 「それだけじゃないわ。…心に余裕ができたって言うか、顔がりりしく男の顔になったわ。」 そう言うと、レナはセイの唇に軽く口付けをして、そのまま手を振りながら去っていった。 「…………。」 セイは唇にレナの口紅を移したまま、凍りついた。 |
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