「わー、久しぶりの太陽だね。」
「夕焼けって綺麗だったのね。」
 あの後、ドムドーラで宿を取り、その後四人でアッサラームまでルーラすることにした。
「本当だよね。ここで宿をとっても良かったかもね。」
「でもアッサラームでしょう?やっぱりちょっと落ち着かないわ。物騒だもの。」
 トゥールとサーシャはことさらにはしゃいで見せる。…後ろ二人の雰囲気が、若干凍っているのを 見てみぬふりをするためだった。
「…………。」
 リュシアはじっとセイを見上げ、そして何も言わず目をそらすと言うことを、ひたすら繰り返していた。
「………。」
 なぜか、ちょっとだけ、むしょうに腹が立つ。
 何が悪いと言うわけではないのだが、セイが悪いと言うわけでもないのだが、どこか落ち着かない。
 トゥールとサーシャが一緒にいたときとは、また違う。
(…でも、どこかで味わったこと、あるような感じ…。)
 そもそも何が気に入らないのか分からないのが、自分でも気持ちが悪いとリュシアは思いながらも、 この行き場のないむしゃくしゃした思いをどこにもぶつけられずにいらいらしていた。

 見られたセイはと言うと、頭の中が空回りしていた。
 あのキスを見られてから、明らかにリュシアの機嫌が悪い。何か言うわけではない。が、 目が妙に怖いのだ。
 これがやきもちだと言うのならば、若干嬉しいのだが、ただ単にそういうふしだらなことに拒否反応を 示しているという可能性の方が高いと思った。
(…汚い、とか思われてるよなぁ…。)
 レナにとって、あのキスは子供にするご褒美のような感覚だったのだろう。セイにとってもそのような 感覚であるし、想いのこもっていない相手とのキスなど物の数にも入らない。されたことなど数え 切れないほどあるし、した事だって少なくはない。
 だが、リュシアが同じ感覚を持っているとは到底思えない。どうフォローしたらいいのか考えあぐねていた。
(そもそも、何も言ってこないからどう言えばいいのか…。)
 何か文句でも言ってくれれば、弁解なりなんなりできるのだが、ただこちらを見ているだけでは急いで フォローするとむしろ自意識過剰で恥ずかしい。
 そうして結局、二人はただ重い空気をまとったまま、ひたすら無言でお互いをちらちらと見ているのだった。

((空気が重い…))
 珍しくトゥールとサーシャの気持ちが一つになり、額に汗しながら、全体の空気を盛り立てようとする。
「じゃ、じゃあ、行こうか。えっと、ベリーダンスの劇場で、いいの…かな?」
 トゥールが明るくそう言うと、後ろのリュシアから、重苦しい空気が湧き出す。セイはそれを分かっていながら、 乾いた声で言った。
「…いや、今は練習してるから入れねーんじゃ…ないんでしょうか…。」
 最後がおかしな敬語になったのは、リュシアが目が怖かったからだった。その目に驚きながら、サーシャは 声をこわばらせて強引に話を続ける。
「えっと、じゃあ、夜になれば、いいの、かしら?それまで待つのがおっくうね。町の中は雑然としてるし…。」
 サーシャがそう言ったとたん、リュシアが聞いたことのない呪文を唱え始めた。
「えっと、リュシア?何の呪文?」
 トゥールの声にこたえず、リュシアは呪文を完成させる。
「ラナルータ!!」
 するとどこからともなく湧き出した闇が空を覆い、太陽を隠す。そうして緩やかに月が東から昇り始めた。
「「「?!」」」
「リュシア、これ、何?どういうこと?」
 夜を呼ぶ呪文など、聞いたこともない。だが、リュシアは小さくつぶやいた。
「…闇を操って、空の精霊を誤解させて時間を操る呪文。昼に使えば夜、夜に使えば昼になる。」
「それって、凄く迷惑なんじゃ…。」
「…もう、リュシアしか使えないから。…早く済ませるの。」
 大きな呪文を使って、すっきりしたような表情で、リュシアはぼそりとつぶやいた。
(((怖い…)))
 やつあたりで時間さえ変えてしまう少女に、三人は冷や汗をたらした。

 その後、座長の所へレナの無事を伝えに行き、大喜びした座長がお礼として渡してきた水着の所有権を めぐり、四人は困惑することとなった。


 何気に顔が広すぎるセイ。ネタ確認のためにプレイしていてレナを見たとき、「あー、こりゃ レナはセイの知り合いだわ…」と思い、今回の女難を味わっていただく羽目になりました。
 タイトルは某コミックCDより。あれほどの女難じゃなくてすみません。まぁさすがにセイは女装はきついと 思われます。武闘家だし。
 ちなみに水着はサ「私こんな肌が出るの着られないわよ?」リ「……恥ずかしい」 ト「僕だって持ってるのだけでも恥ずかしいよ!」セ「いや…俺も…(いつもならどうでもいいが、今は これを所有するのが怖い)」という感じで、結局サーシャが売りに行きましたとさ。


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