二階には水が張られ、そして花がたくさん生けてあった。その部屋の中央に、玉座がすえてある。
 そしてそこに座っているのはエルフの女王のように見えた。
「…貴方は…?」
「よくここまでたどり着きましたね、勇者トゥール。再び(まみ)えたこと、 嬉しく思います。」
 四人とも、その声には聞き覚えがあった。四人は頭を下げる。
「バラモスの時はありがとうございました。」
「いいえ、あのようなことしかできなくて申し訳ありません。こちらこそルビス様が作ったあの世界を守ってくださってありがとう ございます。」
 そう答えた優しい声に、トゥールはどうしても覚えがある気がして、おずおずと尋ねる。
「あの…もしかしたら…その…夢で『全てを司る者』と言っていた…方、ですか?」
 トゥールの言葉に、三人はいぶかしげな目を向けるが、精霊は困ったように笑う。
「はい、貴方とは夢で2度かお会いしましたね。…私は全てを司るルビス様の代行者。 あんな風に夢で貴方を試すようなことをしてしまったこと、お詫びいたします。」
「いえ…。あれは、僕が勇者にふさわしいか試していたんですか?…勇者になるものは…父さんも夢を見たのですか?」
「いいえ、貴方は特別ですから。」
「特別…?僕が?どういうことですか?」
 精霊は困ったように笑ったが、トゥールがじっと答えを待っていると、精霊はかつて夢で自分に話しかけたのと同じように 話し始めた。

「トゥール、もうご存知でしょう?ルビス様が封印されてしまった事は。」
「はい、僕が生まれる前からですよね?」
「ええ、ルビス様が完全に封印されこの世界が闇に包まれてしまったのは、17年と10ヶ月と3日前のこと。 けれど、それより以前から、長きに渡り続いたゾーマとの戦いでルビス様は疲弊し、徐々に力を失っていかれたのです。 姿を見せる余裕もなく、私にもほとんど声をかけてはいただけませんでした。」
「竜の女王様も、…もうずっとお姿が見ることができないとおっしゃっていらっしゃいました…。」
 サーシャがそう言うと、精霊は驚いたように目を見張り、小さくため息をつく。
「そうですね…上の世界に姿を見せることもできなかったのですね…。私たちが心配していたある日… ルビス様が私にこうおっしゃいました。間もなく自分は封印されるだろうと。…その前に最後の希望を私に託すと。 …それは、勇者の息子としてやがて生まれる運命を持つトゥール、貴方のことです。」
「僕、ですか?生まれる前に?」
「ルビス様は、トゥールには勇者になる素質があると。そしてきっと、トゥールが自分を助け、世界を救ってくれるだろうと。 だから、これから封印される自分に代わって、加護を与えて欲しいとそうおっしゃいました。 私はトゥール、貴方がルビス様の加護にふさわしい人物だと見極めるために、夢を見せ、そして勇者の儀式とともに 勇者としての力を与えました。そして、貴方はここまでたどり着いた、ルビス様がおっしゃるとおりに。 トゥール、貴方は、ルビス様に見出され、加護を与えられた唯一の勇者なのです。私は貴方に与える最後の物として、 これを授けます。どうか、ルビス様を、この世界をよろしくお願いします。」
 そう言って、精霊は手を掲げると、その手の内に一本の杖が現れた。
「雨雲の杖です。ここから東に、聖なる祠があります。そこに行けば、そこにいる精霊が道を示してくれるでしょう。」
 差し出された雨雲の杖を、トゥールは受け取る。
「ありがとうございます。…いくつか聞きたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」
「ええ、私に許されていることでしたら。」
 精霊はにこやかに頷いた。
 サーシャを始め三人とも、聞きたいことはあふれるほどあったが、それはトゥールに任せようと決めていた。その 決意が熱を持った視線となってトゥールに集まる。
 なんとなく苦手だったその視線を感じ取りながら、それが嫌じゃないなぁとトゥールは苦笑する。その苦笑を見て、 精霊は不思議そうな顔を顔をした。

「えーっと…。」
 精霊の話したことは、情報量が多くてトゥールは頭の中で整理をしていくの少々時間がかかった。そして、
「えっと、父さん…あの、父さんがここに来たと聞いたんですけれど…。」
「貴方の父、勇者の加護を受けたオルデガですね。ですが、私はお会いしておりません。オルデガは私に会うことなく、 この祠を出て行きました。」
「…どうして、父さんを呼び止めて、この杖を渡さなかったんですか?父さんは、…今の父さんは僕なんかより きっともっと立派な勇者のはずです。」
「いいえ、貴方は特別です、トゥール。貴方と他の勇者では、加護でもその意味が違います。いいえ、 貴方以外は勇者でないと言ってもかまいません。貴方だけが真の意味で唯一の勇者なのです。」
「……どういう意味ですか?」
 妙に喉が渇いて、トゥールは唾を飲み込んだ。
「ルビス様は封印されてしまいましたが、それでもきっと、その封印の隙間を縫ってルビス様は貴方のことを見守り、 手助けをしていらっしゃるはずです。感じませんか?」
 にっこりと笑う精霊の言葉に、トゥールは答えなかった。
「貴方でなければならないのです、トゥール。貴方だけが真に、ルビス様の望まれたものなのですから。」
 精霊は駄目押しするように力強くそう言った。


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