「良かったのか…?あれで。」
 祠を出、船の上でセイはそう聞いた。
 トゥールは部屋へと入ってしまった。何か思うところがあるのだろう。聞かれたサーシャは口だけで笑って見せた。
「いいの。…聞きたい事はあったけれど…聞いたら、私と、ルビス様のことも答えてくださったのかもしれないけれど… いいの。だって、私はもう決めたんだもの。世界のために、…『勇者トゥール』のために、戦うって。」
 最後の言葉は震えていた。両手を握り締めて自分を奮い起こすように言うサーシャは女神さながらに美しかった。
「…だから、この聖痕がなんであっても…関係ないわ。」
「…サーシャ、大丈夫?」
 リュシアがきゅっとサーシャの腕につかまった。このアレフガルドに来てから、サーシャはなんだかどこかに 消えてしまいそうに思えた。
「どうして?何もないわよ。…それよりトゥールよね。ちょっと行って来るわ。」
 サーシャの後ろ姿を二人で見送りながら、セイとリュシアは顔を見合わせた。
 尋常ならざる使命を背負ったトゥールと、おそらく尋常ならざる運命を背負ったサーシャ。
「…心配。」
「…まぁな。でもま、なんとかなるだろうさ。」
「…大丈夫?」
 不安そうにしているリュシアに、セイは優しく笑いかける。
「大丈夫じゃなくても、大丈夫にするんだろ?…きっとな。どうせ俺達は一蓮托生なんだろうからな。」


 気持ちが悪かった。胃の中がむかむかしていた。
(特別って何でなんだろう。どうして、生まれる前から決められてたんだ。僕だけが望まれているって言うなら、 父さんはなんなんだ。)
 怒鳴ってしまいたかった。でも、きっとそうしてもあの精霊はにこにこと笑うだけだろうと分かっていた。 だからこそ、何も言えなかった。
(勇者って、なんなんだろうなぁ…。)
 世界を救いたい、戦いたい。それだけだ。その先にある自分の未来とか夢のために頑張る、ただそれだけなのに。
「トゥール。」
 ドアがノックされる。トゥールは何も言わず、ドアを開けた。
「…ごめん、サーシャ。何も聞けなくて。」
「気にしないで。もういいの。ルビス様を解放して差し上げれば、きっとわかるはず。わからなければそれでもいいの。」
 サーシャはそう笑った。この世界に来てからサーシャは驚くほど開き直っているようだった。
「いいの?!僕は、…そう割り切れない。だって、父さんは、僕なんかより、ずっと すごくて、いらないじゃないか。サーシャだって、父さんがあんな風に言われて、 でも僕が特別だって、じゃあ、父さんはどうなんだ!」
 思わずそう怒鳴って、トゥールは口を閉じる。これではただの八つ当たりだ。
「…ごめん。」
「馬鹿トゥール。」
 それはまるでいつもの通り、あまりにもいつもの通り言われ、トゥールは顔を上げる。
「分かってるわよ、トゥールがオルデガ様なんかより、ずっと未熟なことくらい。オルデガ様の方がずっと素敵で素晴らしくて、 何でもできる方よ。」
 それは本当に小気味よいほど、ぽんぽんとサーシャの口から強く発せられ、そして、その口調が優しいものに変わる。
「…でも、だからこそ、オルデガ様にしかできないことと、トゥールにしかできない事は 違うんじゃないかしら。たまたまルビス様が、あの精霊様が望んでいらっしゃるのが、トゥールだったと言うだけよ。 勇者じゃなくてもそうよ。セイのできること、私のできること、リュシアができる事は違う。… トゥールは攻撃魔法も回復も戦うこともできるけれど、私たちはいらないの?」
 トゥールは首を振る。それを見て、サーシャは安心したようにいつもの顔に戻った。
「…だいたい、未熟なトゥールがルビス様の意思まで分かるはずないじゃない。考えたって一緒よ。 今も、オルデガ様は一生懸命戦っていらっしゃるかもしれない。なら、やれることをやりましょうよ。」
 トゥールは頷く。そんなトゥールの目をまっすぐに見つめて、サーシャは言った。
「オルデガ様は偉大な方だけれど、…私たちの仲間の勇者は、トゥールなのよ。」
 自分が特別かどうかは分からないけれど。もし父より優れていることがあるとするならば。それは皆がいるということなのだと トゥールは思った。


 前回とは逆に、リュシアあんまり出番がありませんでした。トゥール、サーシャの回ですね。
 この祠は謎が多いです…。オルデガさんがなぜか雨雲の杖を受け取ってなかったり、どうしてこの精霊は(ゲームでは妖精ですが) 「全てを司るもの」とか言っているのか。そもそもなぜ勇者に夢を 見せるのか。そんな謎にこんな形で答えてみましたが、いかがでしたでしょうか。
 次はメルキドです。それほどイベントがないので、さくっと行きます。

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