終わらないお伽話を
 〜 願望性暴走症候群 〜



 目指すメルキドの町は、岩山を超えた先、大きな山脈に抱かれた土地にあった。
 巨大な城塞に囲まれた城塞都市メルキドは、中央に巨大な神殿を備え、それを囲む町全体が神殿の一部とされ、 神殿都市とも呼ばれていた。
 それゆえに町の人間の信仰も篤いと言われているのだが……。

「暗いな。」
「暗いね。」
「暗いわね。」
「暗い。」
 入った瞬間、まるでのしかかるような重圧の空気。それは全てこの町が生み出しているものだった。
 店という店が空っぽで、歩いている人間がほとんどいない。それはまるで廃墟に見える。ラダトームですら感じられた 活気が一切ない。
「…絶望しているのかしらね。ルビス様が封印されたことに。」
 信仰が篤いからこそ、この封じられたような空を見るたびに絶望するのだろうか。打ち捨てられた家が、店が、物が、 人々の自暴自棄さを物語っていた。
「とっとと出よう。情報も集められそうにないし、これじゃ補給もできねぇだろう。」
「…そうだね。とりあえず町を適当に一周してみて、出ようか。」
 なんとなく不機嫌にトゥールはそう言って、歩き出した。


 サーシャが立ち止まって周りを見回す。相変わらず人通りはほとんどない。
「?…」
「どうしたのさー?」
 トゥールが明るくサーシャに尋ねる。
「…なんでもないわ。…それよりトゥールこそどうしたのよ。さっきまでなんだか機嫌悪くなかった?」
「…今だって悪いけどね。もどかしいよね。」
 トゥールは自分の両手をじっと見て、手をわきわきさせる。
「…変なトゥール…。」
 サーシャはそう言って、また振り向く。…さっきからまとわりつくような視線を感じるのだ。
 そしてやはり、誰もいない。
「…サーシャ、どうしたの?」
「誰もいないから怖いのかしらね…?」
 そう首をかしげていると、セイが突然サーシャの肩を抱いた。
「おら行くぞ!」
 ぐいっとサーシャの肩を押すと、そのまま早足で歩き出す。サーシャが普通に歩いていたのでは間に合わず、わけも 分からず小走りになる。
 横を見ると、トゥールがリュシアを引っ張っていた。リュシアも不思議そうにトゥールを見上げている。
「町の人たちが窓の上からずっとこっちを見てる。…多分、サーシャを。」
 だから人影がなかったのだと納得しつつ、反射的にサーシャは返す。
「ど、どうして……。」
「知らないよ。」
 トゥールがそう答えたとき、足音がした。複数の足音だった。
「広いところへ行くぞ!」
 セイが肩を放し、走り出す。それを追いかけるようにサーシャたちも走り、大きな広場へと出た。

 広場の中央に来て振り返ると、後方から大勢の足音がする。姿もちらほら見え始めた。どうやらこの町の 住人のようだった。
「僕達になんの用だ!」
 遠くでも聞こえるように、トゥールが大きな声でそう叫ぶ。戦いなれたトゥールの威嚇を込めたその声は、 人々を怯えさせるのに十分な威力を持っていた。
 やがて、町中の人々が無言で広場を囲み始める。トゥール達は剣に手を添え、ルビスの銅像を背にして立つ。
 町の人間の雰囲気は、あのギーツバーグの時のように殺気立ってはいない。ただ、どこか緊張感を もって人々はこちらを見ている。
 それを確認して、四人は目線で確認しあう。やがて、三人の視線がサーシャに集まると、サーシャは頷いた。
「あの、皆様、何か御用ですか?」
 その玲瓏な声が広場に響いたとたん、町の人々は横の人間を話し始める。興奮した面持ちで、その声がだんだん 大きくなる。
 そうして、おそらく勇気ある誰かが、サーシャにこう叫んだ。
「ルビス様だ!!」





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