「ルビス様だ!」 「ルビス様がメルキドの町を救いにきてくださった!」 「ルビス様がこの町に降り立った!」 「信心深い我らを救いに来て下さった!」 「神官様のおっしゃった通りだ!!」 「ルビス様、我らをお救いください!」 「ルビス様!」 やがてその声は大合唱になり、トゥール達を包む。 「ち、違います、私はルビス様じゃありません!」 サーシャがそう叫んでも、その声は歓声にかき消される。声が聞き取れるように、四人が顔を寄せた。 「…やっかいだね…。」 何故そんな勘違いをしているのかは分からないが、自分が正義だと確信している集団ほど手ごわいものはない。 ましてや善良な一般市民だ。うかつに攻撃することもできない。 「…しかしどうするよ、まさか蹴散らすわけにもいかねーだろ。」 「…ルーラで逃げる。」 リュシアの意見が一番良い気がした。サーシャが暗い顔をする。 「でも、どうしてこんなことになったのかしら…?この町だけならいいけれど、他の町にも広まってたら…?」 「ともかく、暴動が起こる前になんとかしないと怪我するぞ。一旦引き上げよう。」 セイの言葉にリュシアが頷いて呪文を唱え始める。その時だった。 「何をしておるか!!」 大きな大きな老人の声が、全ての歓声を打ち破った。 全員が、一点を見る。固まっていた人々がゆっくりと道を開ける様は、まるで神話のようでもあった。 やってくるのは威厳に満ちた老人。おそらくは、神殿の偉い人なのだろうとトゥールは思う。 老人はトゥールたちの前に来て、深々と頭を下げた。周りがざわつく。老人は頭を上げると、大きな声で 言った。 「すまなかった、旅の方。この混乱は全てわしのせいだ。わしが言った予言を、皆の者がこんな風に解釈 してしまったらしい。」 「……いえ、その。えっと僕達は……。」 「旅の方であろう?」 「……はぁ、まぁ……。」 邪気なく言われるその言葉に、トゥールはそんなため息めいた返事を返したが、セイはその横からじろりとにらんだ。 「どういうことだよ、じーさん。説明しろよ。」 「それはそうだが、その前に、町の衆を納得させねばな。…ふむ、そちらのお嬢さんだな?確かにお美しい顔を しておられる。…よろしければ、お手を拝借できますかな?」 「え?あ、はい。」 サーシャが手を差し出すと、老人はその手を取る。そしてじっと顔を見上げた。 「…ふむ、ふむ、なるほど。」 「あの?」 「ありがとうな、娘さん。」 そう言って老人は手を離すと、町の皆の方向へ向き直った。 「町の衆よ、大神官の名にかけて言う。この方々はただの旅の方だ!!」 その言葉に町の皆はざわめくが、やがて落胆して肩を落とし、その場を去っていった。 事情が説明されたのは、四人が神殿の大神官の部屋に案内され、お茶を出されて落ち着いてからだった。 「まず、おわびしよう。ご迷惑かけて申し訳ない。」 「いえ、こちらこそ助かりました。」 「いえ、全てはわしが招いたこと。無気力な町の皆に希望を与えようとしたばかりにこんなことに…。」 大神官に頭を深々と下げられ、サーシャは急いで首を振った。 「いえ……、この町に入ったときから、この町に漂う絶望は感じておりました。あんな風に囲まれては困りますけれど、 何かお力に慣れたなら嬉しく思います。」 「……優しい娘さんだな。ありがとう。ところでこのご時世、おぬしらのような若い者がなぜこの町に?」 「それはあの、僕達がゾーマを倒すために旅をしているからなんです。」 トゥールが驚く大神官に事情を説明する。最初は半信半疑だった大神官だったが、やがて真剣な表情に変わる。 「……そうか、わしが町の皆に言った言葉も、あながち間違いではなかったと言うことだな。」 「言った言葉?」 「そうだ…。”ルビス様は今、封印されているとしても、あのゾーマごときに封印され続けるわけがない。やがて かならずこの世界を救ってくださるはず。その為に、我らは精進しなければならない……”励ますつもりで言った 言葉だが、すでに気力を失っていた町の衆には待っていればやがてルビス様がこの町に光臨して救ってくださる、と 思ったようだ。」 「それであの騒ぎか。しかしまぁ、神頼みもいいところだな。」 セイが半ば呆れたようにつぶやく。 「まぁそういいなさるな。力あるものにはわからんことだよ。…さて、そなたらはゾーマを倒しに魔王の城へと向かうのだな?」 「あ、はい。」 「そうか…魔王の城に渡るには太陽の石、雨雲の杖、聖なる守り、この三つを携え、聖なる祠へ向かうが良い。かつての 勇者、ロトはそうして魔王の城に渡ったと伝えられている。」 四人は一瞬ぽかんとした顔になると、 「なるほど、これはそのための道具だったのか!」 「聖なる祠って精霊が言ってた東の祠だろ?」 「つまり虹の橋がかかって魔王の城に進めるのね。」 「……でも、聖なる守りって何……?」 妙に明るい顔で内輪で話しだすトゥール達を、大神官は止める。 「まぁ待ちなさい。それから察するに、太陽の石と雨雲の杖の事はご存知なのだな?」 「はい、持ってます。」 トゥールが答えると、大神官はまたしても驚く。 「なんと!それはそれは…。太陽の石は人の世界に、雨雲の杖は精霊の世界に。そして聖なる守りはルビス様ご自身が お持ちとの話だ。……ゆえに、それを手に入れるためにはおそらく、ルビス様の封印を解く事は必要なのではないか?」 「その方法はご存知ですか?」 「…ここから北東にあるの塔。そこにルビス様が囚われているとの噂は聞いたことがある。……だが、解放する方法は……。」 「そうですか……。いえ、でも探してみます、ルビス様をお救いする方法を。」 沈痛に首をふる大神官に、トゥールは明るくそう言った。 「そうか、ありがとうございます。何も力ない者ですが、ここでそのご無事をお祈りしております。」 大神官は丁寧に頭を下げ、トゥール達はそれに答えて町を出た。 |
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