メルキドから船を出し、雨雲の杖をもらった祠を左に見ながら、船を聖なる祠へを進める。
「とは言っても、あの大神官さんの話が本当なら、何もできなさそうだけどね。」
「まぁ、誰かいるんじゃないか?なんもなかったらそのままリムルダールに行けばいいんだし、無駄じゃねえだろ。」
「でも、本当にこの世界も上の世界と一緒なんだね、……色々と。」
 トゥールが妙に感慨深げに言う。
「太陽の石と雨雲の杖、それと聖なる守りよね。……確かに勇者の儀式そっくりよね。この世界ではそうやって 勇者になったのかしらね。その、勇者ロトとか言う人も。」
「だね。ずっと昔の人みたいだけど。」
 穏やかに笑っているトゥールを見て、サーシャは胸をなでおろす。どうやら大丈夫らしいと。町に 入ったとき、不機嫌そうだったトゥールを見て、少し不安だったのだ。
「あっちに灯りが見える。……セイ、あれ?」
 リュシアの言葉に、セイが船頭へと寄る。見てみると、確かになにやら人気のなさそうな場所に祠があった。
「やれやれ、精霊ってのはやっぱり人嫌いなのかね。寄るこっちの身にもなってみろよ。」
 呆れたように言うセイに、三人が笑う。

 サーシャが笑ったその横顔をトゥールは見ながら、手を握り締める。
 ギアガの大穴に落ちる時、つないだ手は震えていた。
 今の自分では、サーシャは守れなかった。抱えて走ることもできない。
 やがて全てを終え、勇者をやめれば……本当に触れることができるのだろうか。震えさせずに、守ることが できるのだろうか?
 いまだここで語り継がれる勇者ロトや、……地上で語られている父の名のように、勇者トゥールは消えないのでは ないだろうか?
 伝説になることなんて望まない。
 トゥールの夢は、二つ。
 一つは父のような英雄になり、父が目指していた世界の平和をつかむこと。
 そして、二つ目は……。
「トゥール?」
 ぼんやりしているトゥールをいぶかしんで、リュシアがひょっこりと姿を見せた。
「ああ、ごめん。」
 微笑もうとするトゥールの頭を、リュシアは背伸びして撫でる。
「トゥール、頑張ってる。わたしたちと一緒にがんばろ?」
 こんな構図は初めてのような気がして、トゥールは心からの笑みを浮かべる。
「ありがとう。頑張ろうね、リュシア。」


 そこは、小さな礼拝堂のような場所だった。ルビスを意味する聖記号が数多く記され、その礼拝堂の中央に一人の神官が いた。
 サーシャはなんとなく雰囲気が、あのシルバーオーブをくれた老人に似ていると思った。
「…なるほど。確かにお前は太陽の石と雨雲の杖を手に入れたようだな。」
「は、はい。」
 どこか厳しい表情の神官に、トゥールは緊張の面持ちで頷いた。
「だが、真の勇者ならば、聖なる守りを持っているはずだ。」
「……それは精霊ルビス様がお持ちだと聞きました。ルビス様は封印されているのですよね?」
「馬鹿もん!!ルビス様があのゾーマなどに負けるはずがない!たとえ封印されていたとしても、必ず、必ず 何かしらこの世界をお救いになる手を打っていらっしゃるはず!あの偉大なるルビス様なら、必ず封印されていたとしても この世界を見守り、真の勇者に救いの手を差し伸べていらっしゃるはずだ!!!」
「え、あ、はぁ……。」
「なんと情けない、あの精霊がこの様な不心得者に雨雲の杖を渡したと言うのか、いや、それともいまや地上にはこのような 者しかおらんというのか、この地上を愛し、慈しんだルビス様の偉大さを知らない者ばかりだというのか!!」
 もはや神官にはトゥールが見えていないようだった。ただその不安をぶつけ、叫び続けている。
「あ、はい、じゃあ、また来ます!!」
 とめどない言葉の洪水に耐えかね、トゥールはそれだけ叫ぶと、同じくうんざりしている三人とともにその場から逃げ出した。


 いるよね、こういう人……という話。人も精霊も暴走したらあまり変わりありません。
 他人のせいにするにせよ、一生懸命生きているんだよ、と。
 メルキドのゴーレム職人を救済して上げられなかったのがちょっと残念です。
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