終わらないお伽話を
 〜 かたみと約束 〜



「あー、久々にゆれないベッドで眠れそうだな。落ち着けそうだ。」
 セイが嬉しそうに伸びをする。
 ここリムルダールは、湖の中央に作られた美しい町だった。水に守られているせいだろうか、人々は 他の町よりも幾分、落ち着いているように見えた。
「聖水の例もあるわ。水は全てを清め、守ってくださるもの。壁に囲まれて空気がよどんでいるメルキドとは まったく違うわね。」
 美しい湖を見て、サーシャは少し浮かれたように町へと向かう。トゥールとリュシアも微笑んで、町へと向かう。 まずは宿を取り、ゆっくりと体を休める予定だった。
「あの!!貴方、貴方ですね!!」
 横から飛び出してきた男が、それを止める。
「な、なんですか?!」
 男はトゥールの前に立ちはだかり、そしてしっかり腕をつかんだ。逃すまい、といわんばかりにだ。
「お前、トゥールになんの用だ?」
 セイが若干呆れたように言う。同じようなことが二度続くと、さすがにうんざりしてきた。
 男は、四人を見回すと、一人一人指しながら言う。
「僕は、ずっと貴方を待っていたんです、7年間ずっとです!青い髪の麗人と白い髪の精悍な男性、黒い髪の可憐な少女を 連れた貴方を…、勇者オルデガの息子の貴方を、ずっとここで待っていたんです!」
 その言葉に、弾かれたようにトゥールは男を見た。
「父さんの?貴方は、誰ですか?」
「僕は、オルデガさんと一緒に旅をしたものです。…オルデガさんが残していった荷物を、貴方に渡したい。…どうか 宿まで来てください。」


 その部屋は、宿の客室ではなく、従業員として与えられている部屋らしく、5人が入るとほとんど身動きが取れないほど 狭かった。
 5人は四苦八苦してなんとか楽な体勢を取ると、男に話を促した。
「…もう、8年近く前のことになります。旅をしていた僕が、モンスターに倒されそうなところをオルデガさんが助けてくれたんです。」
 男はぽつぽつと、しかしよどみなく話し続けた。
 危ないところを助けてくれたオルデガと、リムルダールまで旅をしたこと。魔王を倒そうと旅をしていると 聞いて驚いたが、同時にオルデガならできると思ったこと。そうして命を助けてもらったお礼に自分も一緒に行くと行ったこと…。
「ですが、オルデガさんは首を振りました。…当然ですね。今なら分かります。僕では足手まといにしかならなかったでしょう。 なにせ、僕がやられそうだったモンスターをオルデガさんはほとんど一瞬で倒してしまったんですから…、でも、 当時は一人よりは二人の方がいいと、回復する手がある分だけ助かるはずだと言って聞かなかったんです。」
 そうして、ある日、目が覚めるとオルデガの姿はすでになく、荷物が若干残されていただけだった。
「本当にささやかなものでした。おそらくオルデガさんには、いらない物だったのでしょう。でも僕は、せめてこの荷物を守って、 魔王を倒したオルデガさんにいつか渡そうとずっと待っていました。…でも、帰って来ませんでした。」
 男は悔しそうに歯噛みする。
「……僕が無理やりでも着いていったら……何か違ったのか。……今は分かりません。でも、僕ができる事は、この荷物持ってここで 待ち続けることだけでした。……ようやく、今日でそれが終わります。受け取ってください。」
 そう言って持ち出したのは、両手に乗るほどの袋だった。トゥールがのろのろと開けると、中からは一冊の本と、指輪が出てきた。
「……あの、僕が父さんの息子だと分かったのは、父さんが?」
 なんだか何を考えていいか分からず、トゥールは思考停止した頭からそれだけを引きずり出した。
「……いえ、オルデガさんは過去の事は何も覚えていないとおっしゃっていました。この町の中央に予言を与えてくださる巫女が いらっしゃいます。その方が言ったんです。青い髪の世にも稀なる美女と白い髪の精悍な男性、黒い髪の可憐な少女を連れた 若者が、待ち人の息子だろうと。その者にこれを渡すことが私の大願を果たすことになると。」
「……そうですか、ありがとう、ございます。」
 手の中にあるものが重いのか、軽いのか良く分からない。ただ、なんとなくそれをもてあまし、トゥールは無造作に 袋の中に入れた。




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