家を出て、少し埃っぽい外の空気を吸う。
「…トゥール、お前の職業、勇者って書いて便利屋って読むんじゃねーだろうな。」
「でも、セイ。エルフの宝って見てみたくない?」
「う…いや、それは…。」
 笑顔で行ったトゥールの言葉に、セイが言葉を詰まらす。
「盗賊の世界で長いセイが、見たこともないエルフの宝。あげることはできないけど、 見るだけでいろいろ知識とか増えるんじゃない?きっとすごくすごく綺麗だと思うよ。 誰も手にした事のないエルフの秘宝を、その手に取って見たくない?きっと、 これが最後のチャンスだよ?」
 悪意なくにこにこと笑うトゥール。その言葉はセイの心に突き刺さる。
「…助けてあげたい。許されない恋…可哀想…。」
 先ほどの話に同情したリュシアが、涙目でつぶやく。トゥールに言い負かされそうな自分に 腹を立てたセイが、八つ当たりにリュシアをにらむ。
「リュシア、お前、文章話そうって気はないのか?」
「うう…。」
 泣きそうになったリュシアをかばうように、サーシャはセイを殴りつけながら、笑う。
「そうね…できる限りはしたいわ。別に命に関わることじゃないんだし、 一緒に行きましょうよ、セイ。」
 セイは苦笑して手をあげた。降参のポーズだ。
「別に行かないなんて言ってねーよ。はいはい、ご一緒させていただきますぜっと。なんなら サーシャ、一緒に駆け落ちするか?」
「オルテガ様となら考えなくもないわよ?」
 セイの軽口に、サーシャが笑顔を崩さず答える。セイは苦笑してその場を流した。
「じゃあ、とりあえずエルフの里に行って見ようよ。大丈夫だよ、必ず呪いから解いてあげられるよ。」
 トゥールの最後の言葉は涙目のリュシアに語りかけた言葉だった。リュシアは頷いた。


 それは確かに隠里というのにふさわしかった。セイの『タカの目』がなければ見つける事すら できなかっただろう。
 緑に隠された小さな集落。ノアニールからさほど遠くないにも関わらず、緑の色が違った。ずいぶんと 濃い。
 そしてその緑を写し取ったような髪の女性が、こちらをじっと見ていた。
「あ、人間だわ。ここはエルフの隠里。人間が来る場所じゃないわよ。」
 良く見ると、耳がとがっている。確かにエルフのようだった。
「あ、あの…。」
「あ、いっけなぁい、人間と話しちゃいけないんだったわ。じゃあねー。」
 そう言うが早いか、ふっと姿を消した。まるで緑に溶けるように。

「おい…?」
「多分、木々に自らの姿を隠してもらったのね。多分、そのあたりにいると思うわよ。とりあえず、 この奥に里があるのは事実でしょうし、早く行きましょう。」
 セイの疑問に、サーシャがあっさりと答える。
「詳しいな。」
「よく、アリアハンのお城に遊びに行っていたから。私だけじゃなく、トゥールやリュシア、…ギーツもね。」
「トゥールは勇者候補だったとして…まさか他の三人も勇者の資格があったとかか?」
 意外そうに言うセイに、トゥールが笑った。
「ううん、その中で神の儀式に残ったのは僕だけ。そうじゃなくて、四人とも両親が幼い頃からいなかったから。 お城の人たちが面倒見てくれたんだよ。僕たち、兄弟みたいなもんだったのかも。…まぁ、父さんのおかげかもしれないけど。」
 つまり、勇者として旅に出されたオルテガの代わりを、城の兵士たちが引き受けたということだろう。 トゥールだけではあからさまなので、他の片親の子供たちも一緒に。この三人の妙な結束感もその為だろう。
「はー、すごい優待だな。」
「オルテガ様は、本当に素晴らしい勇者だったもの。トゥールみたいなできそこないとは違うわ。」
 セイの少し呆れた言葉に、うっとりしながらサーシャが笑う。
「トゥールは立派なの…。」
「いいえ、オルテガ様に比べたら、トゥールなんて勇者に換算するのが申し訳ないくらいよ!せめて オルテガ様の足元に立つことができたら、勇者と呼べるかもしれないけど。」
 ぽそりと、しかし力を込めてつぶやいたリュシアの言葉に、サーシャがきっぱりと否定した。リュシアは それ以上何も言えず、黙りこんだ。
 トゥールはすでにサーシャの言葉に慣れているのだろう。あまり気にした様子はなく、先を促す。
「父さんの話はもういいから行こうよ。ありがとう、リュシア。かばってくれて。」
 トゥールの言葉に、リュシアはぱっと明るくなる。幸せを かみ締めているように、目をつぶった。


 ノアニールの前編です。
 …壮年の男性は、SFC版では学者。FC版では老人なのですが、 なぜ起きてるのかの説明が一切ないという…私うっかり7のイベントと間違えて、室内にいたから助かったのかと思ってましたよ…
 次回はエルフの里と西の洞窟。大の苦手な洞窟の描写です。…頑張ろう。

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