それは8日目の朝のことだった。宿に芦彦が尋ねてきて、トゥールの一振りの剣を手渡した。 「私が作れる限りの最高の剣だ。受け取って欲しい。この剣は、君に使って欲しいと言っている。」 柄には、まるでラーミアのような意匠。まっすぐに伸びた刀身は黄金色に輝いているようにさえ見える。 持ってみると、それはすんなりと手になじんだ。まるで、生まれたときから持っていたかのように。 「ありがとうございます。」 トゥールは深々と頭を下げる。芦彦は首を振る。 「いいや。私こそありがとう。私はきっと、このために国を出て、ここに来たのだと思うよ。」 芦彦は、疲れきった、だがそれ以上の満足げな表情を浮かべた。 それは、マイラの西の孤島にあった。 このアレフガルドにある唯一の塔。その塔の最上階は一番天空に、そしてかつていた世界に、近い場所。 トゥール達四人は、塔を見上げていた。 「大きな吹き抜けがなかったら5階ってとこか?」 「そうね。この中にルビス様が……いらっしゃるはず。たぶん、その笛で助けられると思うけれど……。トゥール、 吹いてみて。」 「うん。」 温泉の近くから掘り出した笛に、トゥールが口をつける。すると、セイでは反応しなかったその笛は、どこまでも澄み渡る 海のように清らかな音色を奏でる。 「……僕、何もしてないのにな…。」 「魔法の笛。……でも何も起こらない。」 塔を見上げても、特に反応がなかった。 「やっぱり多分、もっと近くないと駄目なんでしょうね。塔に登りましょう。ルビス様を、早く救い出して あげなくちゃ。」 サーシャは気合が入った口調でそう促した。三人も頷いて、塔の入り口へと歩き出す。 だが、その直後。 「大丈夫?」 地面に倒れたリュシアの元へ、サーシャが近寄る。 「…?平気……足にひっかかったの。」 リュシアは立ち上がり、両手を前に伸ばす。 「……ごめん。」 「大丈夫?疲れてるとか?」 トゥールの言葉に首を振る。 「いっぱい温泉入ったから。」 そう言って、リュシアがまた二歩、歩むと何かに躓いてこけた。 少し先にいた二人も、近寄ってくる。 「どうしたんだ?」 「足が悪いの?」 三人は座り込んだリュシアの前にしゃがみこむが、当のリュシアは足よりも、自分の周りの空気が気になるようだった。 「……なんかね、ちょっと押し戻される感じなの。重くて、邪魔…。」 「何もないよ?何か感じる?」 リュシアの言葉に、トゥールも周りを見てみるが、当然だが何の違和感もない。サーシャが少し考えて口にする。 「……もしかしたら精霊用の結界が張ってあるのかもしれないわね。……だからこそ、 場所が分かっていながら、いままで誰もルビス様を助けることができなかったのかもしれないわ。」 「こけさせるくらいじゃ、たいしたことないんじゃねー?」 「リュシアは血が薄いもの。……本来なら反応しないくらいに。ただ、力も強いからそうなっちゃったのかもね。」 サーシャの言葉に、リュシアが不安そうに口にする。 「中に、入れるのかな……?」 「分からないけれど……中に入れないように結界が張ってあるのなら、中は大丈夫じゃない?立てる?支えるわよ。」 そう言って差し出されたサーシャの手に、リュシアがつかもうとしたその横から、セイはリュシアを横抱きにした。 「セイ?!」 「……確かになんか圧力が感じるな。……痛いか?」 「平気。」 「じゃあ、このまま進むからな。きつかったら言えよ?」 リュシアは少し顔を赤くして、こくんと頷いた。 そして、塔へとずんずん向かっていく二人を後ろから見ながら。 「……結構様になってるよね。」 「まぁ、この間の抱き方よりはいいと思うわ。」 トゥールとサーシャは平和に微笑んだ。
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