「もう、大丈夫。……降ろして。」
 リュシアが少し頬を染めてそうつぶやいたので、セイはリュシアを降ろす。
「もうなんともないのか?」
「うん、何も感じない。ちゃんと、戦えるよ。」
 リュシアは嬉しそうに微笑む。そして、
「それは、良かった!じゃあ、さっそく行くよ!!」
 後ろから迫ってきたマクロベータに切りつけながら、トゥールはリュシアにそう呼びかけた。


「下がって!!メラゾーマ!!」
 飛び掛ってくるラゴンヌに、サーシャは真っ先に火の玉をぶつける。顔先に見事命中したが、その火をものともせず、 ラゴンヌはサーシャに飛び掛った。
 その爪が、まさにサーシャの顔を切り裂かんとしたとき、その手がすっぱりと王者の剣によって切られる。
「王者の剣の威力をたっぷり味わわせてあげるよ!」
 そうしてその勢いのまま、その巨体にはあまりに小さな羽を切り裂く。
 だが、ラゴンヌはまだ気力を失わず、トゥールに歯を向ける。そこを、
「叩き落してやるよ!!」
 ずっと何匹かのメイジキメラと戦っていたセイが、ラゴンヌの頭を踏み台にして、空中に上がる。そして群がってきた メイジキメラを爪ではたき、腹をえぐった。
 それが着地したとき、
「離れて!!イオナズン!!!」
 皆がモンスターから離れたのとほぼ同時に、全てを真っ白に埋め尽くすすさまじい爆発が塔を埋め尽くし、震わした。

 セイはリュシアの前に座り込み、自分の耳を何度もこすりながら言う。
「……リュシア、塔の中ではもうちょっと控えてくれ。」
「……ごめんなさい。初めてだったから。」
 まだ耳の奥でくわんくわんと鳴っている。すさまじい魔力が敵を消滅させたのはいいが、室内で放つにはあまりに 凄すぎた。
「……まぁ、さすがにうっとうしかったしな。しかしまぁ、意地の悪い塔だよな。回転床にダメージ床。おまけにミミックかよ。ご丁寧 にあちこち穴が開いてて、すぐに外に落ちちまうようになってるしよ。……まさかリュシアみたいなやつの 呪文であけたわけじゃねぇだろうな。」
「それはさすがにないみたいだけど……、残念、こっちは行き止まりみたいだ。」
 先を見に行ったトゥールが戻ってきて言う。
「ご丁寧に行き止まりの手前にも回転床があって、外に落ちるようになってたわよ。……多分、さっきの階段しか上に 行く道はないと思うわよ。」
 サーシャの言葉に頷き、四人は道を戻り階段を上る。

「……、ものすごい悪意を感じるんだけど、僕。」
 そこには、大きな吹き抜けに、壁のない廊下が伸び、その先には宝箱が一つ。そして、その廊下は回転床が付けられていた。
「そういや、さっき大きな部屋があったな。あそこに落ちるんだろうな。骨が落ちてるわけだ。俺が行って来ようか?」
「ううん、僕が行くよ。いざとなったらリレミトで逃げることにするから、ここで見てて。」
 そう言って、トゥールは細い廊下…いや、通路を歩いていく。横から突風が吹き、トゥールの体が揺れる。回転床に揺られ、体が 通路からこぼれそうになる様を、三人はハラハラしながら見ていた。
「心臓に悪いわ……。」
「見てるより俺がやった方が気が楽だ。」
「でも、セイ、呪文使えないから、キメラ出てきたら危ない……。」
 三人が祈るように見守る中、トゥールはなんとか宝箱の前に着き、警戒しながらも宝箱を開けた。
「なんだ?」
 トゥールの体が一瞬、柔らかな光に包まれる。そして、気がつくと、トゥールの体に青く美しい鎧が纏われていた。
「……光の鎧、ね。ここに伝わる最後の伝説の防具。こんなところにあるなんて……。」
 そうして、トゥールは狭い通路を堂々たる威厳をもって帰ってくる。この真っ暗な部屋で、美しい鎧に包まれているトゥールは、 まさに勇者そのものの体現者だった。


「廊下の先には階段も何もなかったよ。もちろんルビス様も。」
 トゥールは目の前を凝視しながら、そう言った。
 目の前は行き止まり。そしてこの四階から上に行くルートは見つからなかった。
 そもそも、先ほどの吹き抜けのところ以外は狭く、隠し扉などもありそうにない。
「外から見たら、あと一階ありそうなんだがな……。ここも天井そう高くないし、どっかに入り口があるはずなんだが……。」
「……もしかして、また落ちる系?」
 果たして先に進むために、重要アイテムを取るために、何度落ちてきただろうか。誘いの洞窟から始まり、ラーの鏡、やまびこの笛 …考え始めたらキリがない。
「でも、あそこは違うと思う……。」
 鎧の辺りを指差し、リュシアは言う。そこの下は、セイが言っていた通り、どくろがいくつか落ちている広い部屋だった。
「じゃあ、回転床の辺りかしら……?」
「けど、外に追い出されるだけだったと思うんだがな……。」
 そう話していたとき、トゥールが何かを思いついたように口を開く。
「わからないけど、一箇所気になる場所があったから行ってみてもいい?」
「あったの?じゃあ行ってみましょう。ヒントが何もないんですもの。でもどこが?さっきの広い部屋?」
 四人はまた敵を蹴散らしながら、トゥールの導きにしたがって移動する。
 そうして着いたところは、三階の行き止まりだった。

「……別に隠し扉はなさそうだがなぁ。」
 行き止まりの壁を調べながら、言うセイに、トゥールは首をふる。
「この回転床、おかしいなって。こんな何もない行き止まりの手前に作ったって、 だれも入る気にならないじゃないか。だから、何かあるならこの奥か……下。」
 リュシアがそっと覗いてみると、裏庭のようなところが見えた。
「……行けなくは、ないと思う。」
「じゃあ、試しに行ってみるか。あてもないしな。」
 セイはそう言うと、ロープを取り出した。


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