裏庭から裏口を見つけ、四人は恐ろしいほど単純な作りの通路をひたすらに登っていく。
 それは細工だらけの先ほどの部屋からすれば、あまりにも短い時間。
 息が詰まるほどの緊張感に、サーシャはなにやら苦しくなってきた。
 ――――ようやく、なのだ。ついにここまでたどり着いた。
 そうして、五階にたどり着く。四方が廊下で囲まれた小さな部屋。その中にある祭壇に、女性の石像があった。
「……これが、ルビス様……?あんまり教会にあるルビス様には似てないね。」
「まぁ、そうそう人前に現れるわけじゃねぇから、教会のは想像なんじゃねぇの?その笛吹いてみたら 全部分かるだろ。」
「……なんだか、見ているだけで時が止まりそう……それになんだか、恐れ多い……。」
 リュシアは若干怖気づいたように後ろに下がる。
「トゥール……、早く、助けてさしあげて……、私はその為にここまで来たんだもの。」
 サーシャの言葉に答えて、トゥールは頷く。
「……大丈夫かな、さっき吹いてもなんともなかったし。」
「ここまで来て何を言ってるのよ、弱虫トゥール。頑張ってよね。」
 優しい笑顔で言うサーシャの言葉に、トゥールの緊張がほぐれる。トゥールは笛を口にルビスの方へと向き直ると、笛に息を 吹きかけた。

 鳴り響いたのは、先ほどと同じメロディ。
 だが、先ほどとはまったく違う力を感じる。まるで春の日差しのごとく暖かく、心澄み渡る音色だった。
 そうして、長くも短い曲が鳴り終わったと同時に、目の前にあるルビスの像から光が漏れ出す。
 その光はだんだん強く、大きくなり、ついには目がつぶれてしまいそうな強い光に変わり、四人は思わず目を閉じた。


 それは、どのくらいの時間だったのだろうか。まるで太陽が沈むほど長い時間だったのか、それとも、星の瞬きの 間くらいの時間だったのか。

 まぶたの裏さえ焼くほどの光が収まり、トゥールはゆっくりと目を開けた。
 他の三人も今目を開けたのだろう。サーシャは目に手を当てているし、リュシアは目をこすっている。セイは何度も まばたきをしていた。
 トゥールも何度か目をこすり、そしてゆっくり周りを見渡す。
「……何も、ないね。」
 光を放ったルビスの像は痕跡すらない。まるで最初からなかったかのように。
「……光ったわよね?トゥールが笛を吹いて……。」
 サーシャの言葉に、トゥールは頷く。
「手ごたえ……っていうのも変だけど、感じたんだよね。像もないし、封印が解けたのは確かだと、思うんだけど……。」
 部屋は静まり返っている。床にはチリ一つ落ちていない。妙に実感がなかった。
「まぶしかったのは、確か。」
「でもなんつーか、さ。封印を解いてやったんだから、こうお礼とかなんかあるんじゃねーの?あと、 ほら、外の闇が晴れてるとか、そうだ、ほら、 聖なる守り?とかはなんかないか?」
 セイに言われて、トゥールは両手を見、そして袋をさぐる。特に何か変化はなかった。トゥールはサーシャに問いかける。
「サーシャは……?何か感じた?」
「何も変化はないわ。でも、なんだかこの部屋が、すごく清浄な気で……ルビス様の力で満ちているのは感じられるわ。だから きっと封印は解かれたのだと思うわよ。」
「ならいいんだけどなぁ……。」
 リュシアは何か変化がないか、像があった辺りをうろうろとしている。セイも周りを見回しているが、何の変化もないようだった。
 トゥールもルビスの像があった祭壇に登り、うろうろしているが、やはり何もなかった。
「うーん、僕もルビス様にお会いできると思ったんだけどな……。」
「ちょっと恩知らずじゃねぇの?何にも言わねーで去るなんざ。」
 そう言うセイに、サーシャが少し怒ったように言う。
「失礼よ、セイ。……ずっと長いこと封印されていらしたんだし、病み上がりのようなものじゃない?だからお顔を見せることも 叶わなかったのだわ。一度戻りましょうよ。ここでうろうろしていても仕方ないわよ。」
 サーシャはそう言って、トゥールの腕をつかみ、引いて促した。


 その手を、トゥールは振り払う。見たこともないほどの怖い表情でサーシャをにらみつけ叫ぶ。
「お前は何者だ!!」



 ついにルビスの塔までつきました。
 皆様のご想像通り、次回はクライマックスになります。嫌なところでとめてごめんなさい。
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