うすうす気がついていたことを突きつけられ、トゥールは目の前が真っ暗になった。
 すでに、サーシャの口調に変わっていることにも気がつけない。
「そんなの、変だ、だって……」
「聖なる守りに与えた役割は4つ。一つ目。勇者が円滑に世界平和に導けるようにその手伝いをし、 手助けとなる神具や他のものに対しての 知識を与えること。これは、ゾーマを倒し、世界平和へと導くための鍵としての役割。」
 トゥールの言葉を遮って、ルビスは淡々と述べていく。
「そうしてあとの三つは違うわ。これは、その先の話し。このアレフガルドを後々まで救うための役割。……この弱い世界の人間 の力を強めるための役割。この世界の人間と、強い人間が交わることで、この世界の人間の力を高めていくこと。 この世界の聖なる守りとなるように。」
「交わるって、種馬かなんかじゃねーんだぞ!!」
 セイが立ち上がる。それをトゥールが手を持って引き止めた。
「説明になってないよ。それでどうして貴方がサーシャの体にいる必要があるんですか。」
「トゥール、貴方は強いわ。けど、それが遺伝するかはわからない。遺伝しても、この世界の人と交われば段々弱まっていく。 その血でこの世界を一人で守るほどの強さではないと思ったの。……そこで思い出したの。貴方の世界で、精霊と 結びつくことで、普通のよりも格段に強い力を秘めた子を生み出した一族がいたことを。」
 その言葉に、リュシアの体が震えた。
「わ、た、し…?」


「そう、貴方の一族よ、リュシア。闇の精霊王と交わり、人では持ち得ない力を持った一族。それならば、きっと 世界を守る力になると思ったわ。けれど、これ以上精霊王は減らせない。かといって、こちらの世界には精霊王は いない。一番強い精霊は……いうまでもなく私。精霊ルビスよ。けれど、私はこの世界を作り出した創世神 でもある。だから血肉をもつことが出来ないし、子供も作れないわ。そして人の体に長時間入り込むこともできない。 なにより、私はもうじき封印されようとしていたの。 ……だから、私が入るために、人の器を清め、私がずっといられるようにすること。その体を一時的に 預けるかりそめの意識を持たせること。これが二つ目の役割。」
「かりそめ……。」
 体を震わせながら、トゥールはそうつぶやいた。
「私が貴方に触れ合わなかったのは、三つ目の役割の弊害だったのね。トゥールに付き従い、魅了すること。 トゥールを魅了するために、他の方を見ないように……貴方と触れ合うことで、快楽をもたらすようにしたことが、 苦悩だったようね。」
「そんなことで、そんなことで、僕が、」
「体の感触というのは、人が思うよりずっと心を支配するものなのよ。心が思いあっていれば触れ合うと心地よい。 そうして逆も同じ。かりそめの意識とはいえ、その意識もトゥールを 想ってもらわなければ、上手くいかないしし、一緒に旅をすることもままならないと思ったのだけれど……初めてだけ あって色々予想と違ってしまったみたいね。」
「………」
 ぐるぐると、色々な感情が回り、もうトゥールは何も言えなくなっていた。
「……後一つ、何?」
 結局それを促したのはリュシアだった。ルビスは小さく頷くと、辛そうに口にする。
「四つ目は私の封印が解けたあと、私の器となり、その意識と記憶を心の闇に溶かして消えること。……その全ての役割を 終え、神具は仕事を終えました。……ごめんなさい。貴方達がかりそめの意識そのものだけを望んでいるのなら、 ……貴方達はもう会えない。二度と。」
 ルビスは頭を下げる。
「仮の意識は、私の中に、心の、魂の奥深く、安寧の地で安らかに解けて私の魂の一部となった。貴方達が全ての 役割を終えて、大地の闇へと還るように、あの子も私の中へと還った。そうして 真なる聖なる守りとなった。……そこは人間が行き着く場所とは違う場所。だから、たとえ 死んでも、もう二度と会えない。」
 ルビスがそう付け加えたのは、後追いを防ぐためだろう。そんなつもりはなかった。だが、その言葉を 聞いて、三人の目の前は真っ暗になった。


 震えた声で、なんとかセイがルビスをにらみつける。
「……そんな、勝手なことを言いやがって……。」
「ごめんなさい。本当は気づかせてしまうはずじゃなかった。こんな辛い思いをさせるつもりじゃなかったの。 けれど、考えなおして欲しいの。私の中には、確かにあの子の魂の全てがある。意識も記憶も 全て私の中に溶け込んでいる。……体も心も同じなら、それは同じ人間だわ。想いも、変わらない。ここに いるのは、確かにサーシャなの。何も変わらないわ。」
「違うんだ……貴方はサーシャじゃない。」
「……ルビスだったときも、私は貴方を見ていた。本当ならこんなことをしなくても、他の精霊に任せればよかったかもしれない。 でもそれをしなかったのは、……生まれる前から、ずっと貴方が好きだった。ずっと、ずっと想っていたから。 この想いは、ルビスも、かりそめのサーシャも同じよ。……私では、駄目?」

 ……告白すると。
 ずっとこんな瞬間を夢見ていた。
 いつか、全てを果たし、『サーシャ』が、自分に好きだと言ってくれる瞬間を、ずっと夢想していた。
 目の前で好きだと言ってくれている『サーシャ』は、頬を赤らめて、少しはにかんだ表情をしていて。本当に 美しくて、かわいらしくて。それは夢見ていた光景、そのままだった。
 でも、言って欲しかったのは、欲しい言葉を言ったのは。
「消えろ!消えてくれ!!!」
 トゥールはほとんど泣きながら叫んだ。
「もう、僕の前にその姿で二度と現れるな!!!」
「……トゥール……。」
 切ない声でそう言うと、サーシャの体がそのまま地に落ちた。眼を閉じて意識を失っている様は、眠っているようにも 見えた。
 リュシアが駆け寄って触れようとするが、それを見てトゥールが叫んだ。
「触るな!!!」
 トゥールは急いでサーシャの側により、リュシアを押しのけるようにして抱き上げた。
「誰も、触らないでくれ……。」
 その体から伝わる快楽は、哀しいほどに体を貫いた。


 ネタバレ編でした。長い文章お疲れ様です!。
 さて、ここで一つ。ルビスが語った世界の成り立ちは公式設定に反しています。本来は上の世界→アレフガルド です。ラダトームで「我々の祖先はギアガの大穴を抜け、この地に移り住んだそうだ。」と語っている 男の人がいるので……。この男の存在に気づいたのは、トゥールたちがアレフガルドに来てからな んですよ…。もうどうしようもなかった感じです、はい。
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