終わらないお伽話を
 〜 決別のとき 〜



 久々に四人で戦ったのは、リムルダールの町の近くの野原のことだった。
 リムルダールの町を囲む水路の回りを、リュシアの旋律が響き渡る。
 リュシアの手のひらから放たれる光が、セイの傷を癒していった。
「おおー、不思議なもんだな。リュシアに傷を治してもらうのはなぁ。」
 相変わらずリュシアの呪文はもはや歌に近い旋律だが、やはり魔法使いのそれと違い、どこかあやふやで 頼りない旋律で、まだまだ攻撃呪文ほどの美しさは感じられない。
 そのせいだろうか、サーシャの呪文と比べると、若干効きが悪いように感じられた。
「…終わった、遅くてごめん。」
 そう言うリュシアの頭にある、赤い宝冠がどことなくぎこちない。
 リュシアは賢者になっていた。そうしてその力を試すために、四人はわざわざルーラでついたあと、そのまま町に 入らずに、こうしてモンスターと戦ったのだった。

「いや、たいしたもんだ。あとは慣れだろ。」
 怪我をしていた腕をぶんぶんと振り回しながら、セイがそう言うと、サーシャとトゥールも横で頷く。
「そうよ、そのうち私なんかよりずっと上手く出来るようになるわ。」
「回復の手が一人でも多いって言うのはいいよね。……次はゾーマなんだし。」
 すぐ横には、ゾーマの城が高くそびえているが、その間には深い海があり、近づけそうにない。
「その前にそのゾーマの城に行かないとなぁ。あのプレートがあればいいんだよな?」
 セイの言葉に、トゥールがルビスからもらった『聖なる守り』を取り出す。
「らしいね。よく分からないけど。……何が起こるの?」
「と、言われても……ごめんなさい、もう聖痕もなくなったし、よく分からないのよ。多分オーブを見ても 何も分からないわ。」
 トゥールの問いに、サーシャが首をかしげた。
「……つーか、結局どういうことなんだ?何があったんだ?」
「私も、よく分からないんだけど……せっかくだから町に戻りましょう。私も話したいことがあるし。」
「そうだね。はぐれメタルも倒したし。そろそろ十分だと思うよ。」
「あの、……ごめんなさい。付き合ってもらって。」
「そんなことないわ。私も久々に体が動かせて嬉しかったし……こうして四人で戦えることが本当に 幸せなのよ。」
 そう言って本当に幸せそうに笑うサーシャは、ルビスほどの神秘性はなくとも、それ以上にかわいらしく、 リュシアは感激したようにサーシャを抱きしめた。
「リュシアも!」
 そのすぐ横で、男二人は微妙な笑みを浮かべた。
「……なんかこの二人、ものすごく仲良くなってない?」
「まぁなぁ……、いいことじゃないか。」
「まぁね。」
 そう言うセイとトゥールの横で、サーシャとリュシアは二人で幸せそうに笑いあっていた。


 四人はそれぞれ部屋に一度戻り、トゥールの部屋へと足を運んだ。
 四人はそれぞれコップを持ちながら、椅子に座る。サーシャはことんと小さな音を立てて、テーブルに コップを置いた。
「えっと、さっきの質問だけれど、聖なる守りというのは簡単に言えば、この世界の人間の世界を守る力を全体的に底上げさせるために、 ルビス様をその身に宿らせ、強い子孫を生み出し、繁栄させる道具。その為に強い花婿を守り、ルビス様の 元へ導くものね。私は、その為に作られたの。」
「……今もそうなのか?聖痕はなくなったんだよな?なんか神の道具だとか鍵だとは言ってたが、今はただの人間なのか?」
 セイの言葉に、サーシャは(くう)を仰いでしばし考える。
「んーー、一概にそうは言い切れないんだけれど。とりあえずトゥールに触っても以前のように変な感触は ないし、トゥールの武器防具や他の神具を見ても、以前のように親近感みたいなのとかは 感じないから……。だから今見ても何も分からないわ。そういう意味ではただの人だと思うけれど。」
「……どこか違うところ、あるの?」
「正直なところ、普通の人間だったことがないから分からないんだけれどね 。多分神の器としての機能は変わっていないんじゃないかしら。」
 そういわれても、トゥールたちには自分達と変わらなく見える。もちろん、並外れた美貌や端整な体つきなどは 神の器と言われれば納得はいくのだが。
「そんなもんか?俺達と同じに見えるがなぁ。」
「17年かけて変えられたんでしょう?いまさらすぐに元には戻れないと思うのよ。もしそれが出来るのなら、元々 私みたいなのを作らなくても、勇者の恋人に乗り移ればいいわけだし。」
「出来ないって言ってたけどね。確か。人の体に長期間入れないって。」
 トゥールの言葉に、サーシャが小さく笑う。
「それはきっと、ルビス様がお試しになったということよね。できないと分かっているのだもの。」
 その言葉に、三人はぽかんと口をあけた。
「ああ、そうか……いやでも、誰にだ?」
「あら、メルキドで言っていたじゃない?前にいたという伝説の勇者、ロトが聖なる守りを持っていたって。 私はロトに会ったことがないもの。ではその聖なる守りは誰だったかと考えれば、ルビス様しかいないわ。 そもそも、わざわざルビス様の御名前を出さずに『聖なる』なんてぼかしてあるのも、その辺りが理由なんじゃないかと 思うのだけれど。」
「理由って?」
 そう問い返すトゥールの言葉に、サーシャは少し言いにくそうに応える。
「おそらくルビス様は、ロトにも自分がルビス様だとおっしゃらなかった。人として寄り添うことをお選びになったの でしょうね。それが世界のためなのか、それともロトを好いていらっしゃったのかは分からないけれど。 聖なる守りはルビス様の愛の証という意味なのよ、きっと。」
「うーん、僕二番目かー。」
 サーシャがあせったようにフォローする。
「いやでも、ルビス様がトゥールのことを愛していらっしゃったのは本当よ?」
「うん、わかってるよ。まぁ、きっと僕達とは違う次元なんだろーけどね。」
 トゥールはにこやかにそう言った。


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