そうして、一夜が明けた。それは、三人にとって眠れない夜でもあった。
 明けない夜の中、それでもようやく人が起き出した時間に、セイはひょっこり帰ってきた。窓の外からそれを 確認した三人は、部屋を飛び出し出迎えた。
「おいおい、なんだ、珍しいな、こんな時間に起きてるなんて。」
「帰ってきた!!……帰ってこないかもって思ってた。」
 ほとんど涙ぐみながら、リュシアはセイに駆け寄り、服のすそをつかんだ。
「は?なんでだ?おい、泣くなよ?俺なんかしたか?」
「泣いてない……泣いてないもん……。」
 そういいながら、ぐすぐすと鼻をすするリュシアと、それに動揺するセイ。トゥールとサーシャはそれを遠巻きに 見ていた。困り果てたセイはトゥールに声をかけた。
「おーい、トゥール、助けてくれ。」
「嫌だよ、なんなら僕も参加しようか?」
 真顔でいうトゥールに、セイは心底困った表情で言葉を返す。 「それは気持ち悪いからやめてくれ。俺が何をした?」
「あのタイミングで出て行かれたら、そのまま上に帰っちゃったのかと思うじゃないか。」
「あれ、俺帰らないって言ってなかったっけ?」
 セイの言葉に、三人は声をそろえた。
「「「言ってない。」」」
「……悪い。」
 セイは心の底から三人に頭を下げた。トゥールは片手を腰に当てながら、小さく息を吐く。
「まぁ、僕はこの世界に来る前に色々言ってもらってるからね。そんなに心配はしてなかったけど。でもサーシャと リュシアはそうじゃないしね、大人しく怒られておくといいと思うよ。」
 その横で、サーシャは頬に手を当ててにっこりと微笑む。
「心配というか……上に帰るのは仕方ないとは思っていたわ。言うときから覚悟はしていたもの。 だから帰って来てくれて凄く嬉しいわ。……やっぱりちょっとはた迷惑だと思ったけれど。」
 そうしてリュシアは、目をごしごしとこすると、
「……怒ってないけど、……怖かった。」
「悪かったな。」
 セイはそう言って、リュシアの髪をぐしゃぐしゃとかき回した。


「それでどこに行ってたのさ?」
 トゥールのもっともな問いに、セイは少し考える。
「俺、それも言ってなかったっけ?ここには結構知り合いがいるからな。もうすぐ帰れなくなるぞって伝えに言ってたんだよ。 まぁ、分かってたけど誰も帰らないってな。そんでまぁ、ちょっと話してたら遅くなっちまった。悪かったな。」
「そうだったの。でも、芦彦さんとか、一度だけでも帰ったりしなくてもいいのかしら……?」
 サーシャの言葉に、セイは少しだけ寂しそうに笑う。
「まぁ、なんだかんだ言っても、一度出てきたら帰れない土地だからな、あそこは。それに幸せそうだから いいだろ。カンダタも帰らないって言うのは驚いたけどな、釈放されたらこっちの世界をぐるりと回ってみたいって 言ってたな。レナは元々嫌な奴に追われてたしなぁ。」
「……良かったね。」
 リュシアがにっこり笑う、その笑顔にセイは顔を引きつらせた。自分が口を滑らしたことに気がついた。
「ああ、良かったよな。まぁ。」
「うん。……わたし、寝るね。セイ、おやすみなさい。」
 リュシアは、にっこりと、恐ろしい笑顔を見せた。
「あ、ああ、おやすみ。」
 ひらひらと手を振るセイと、あくまでもにこにこと笑いながら答えるリュシアを見て、トゥールとサーシャは 微笑みながら顔をあわせた。
「……僕も寝よう。明日は聖なる祠だね。」
「そうね、私も眠たいわ。おやすみなさい。」


 その孤島の礼拝堂は、相変わらず静かにトゥールたちを迎え入れた。
「……ついにいらっしゃいましたね。聖なる守りを持つ真の勇者よ。そしてその仲間達よ。」
 あの怒涛のようにこちらに説教をした男が、今は神妙は表情でひざまずいていた。だが、 四人は気がついていた。その視線と尊敬の先が、トゥールにはないことを。
 サーシャが申し訳なさそうにうつむいたのを見て、サーシャと男を遮るように、トゥールは男の 前に立ちはだかる。
「……ここにルビス様はいらっしゃいませんよ。……そうして聖なる守りはここです。」
 トゥールが差し出したプレートを見て、男は一瞬唖然とした。
「……なんと!そのようなこと!与えられた使命にそむいて生きるとは、なんという、」
「僕の仲間に文句は付けさせません!!!」
 トゥールは男の言葉を打ち消すかのように怒鳴った。
「僕は聖なる守りを持っている、貴方の言葉を借りるなら、僕は真の勇者だ!ルビス様が決めた。ルビス様が 選んでくださった。違いますか?その仲間に文句がありますか?……僕は僕の 仲間を傷つけるに人間には、たとえ神だとしても容赦はしません。」
 射るような目で男を見つめ、男はトゥールとサーシャ、そして聖なる守りを繰り返し見続け、そうして腰を上げた。
「……太陽の玉と雨雲の杖と聖なる守りを持ち、こちらへ。」
 トゥール達は返事もせず、男に付き従った。リュシアとセイがそれぞれ太陽の玉と雨雲の杖を持つ。男は それを確認し、空中に両手を差し伸べた。
「来たれ、聖なる加護よ。今こそ、雨と太陽が合わさるとき。」
 男がそう言うと、聖なる守り、太陽の玉と雨雲の杖が光り、男の手の先へと浮かび上がった。
 そして、ゆっくり二つが重なると、それは美しい雫をかたどった、アクセサリーに変わる。
「そなたにこの、虹の雫を授けよう。」
 男がそう言うと、その虹の雫がすうっとトゥールの手の中に落ち、聖なる守りとぶつかりしゃらんという音を立てた。
「もはやここには用がないはず。行くが良い。」
「はい、ありがとうございました。」
「……ルビス様を封印から解き放ってくれたこと、感謝する。……それと、すまなかった。」
 最後の言葉は、サーシャに向けられたものだろう。
「……ルビス様の慈愛、私は生涯忘れません。私は、この世界を守るために全力を尽くします。」
 サーシャはそう言って、男に深々と頭を下げた。


 そんなわけで事情説明編でした。ついでにお騒がせセイ登場。
 ドラクエ3では、ギアガの大穴が閉まることを知ってるか知らないかで結構別れると思うのですが、 今回はサーシャがルビス様側ってことで知らせてみました。穴に入るところで覚悟はしていると 思うのですが、帰れないのか……とゾーマを倒した後で絶望させるのも嫌だったので。
 そんなわけで次回は、ゾーマ城へ突入です。


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