これは、侵入者を排除するというよりは、気力を尽きさせるのが目的なのではないだろうか。それとも ただの嫌がらせなのだろうか。
「……おれは、この先に、またあの床があったら、帰るぞ……。」
「……ここからまた帰るほうが大変だと思うわよ……。」
 すぐ後ろにびっしりと敷き詰められた回転床を見ながら、サーシャはセイにそう言った。
「…ちょっと、酔った…。」
「大丈夫?」
「平気……。普通に歩いてれば治るから。」
 ぐるんぐるんと回ったせいで、リュシアの顔色は少し悪い。額に手を当てて、サーシャが優しく言う。
「無理しないで。敵も出るんだから。」
 ふるふると首を振りながらリュシアが先に進むと、幸いその先は長い廊下だった。
「よし、行くか。あとどれだけ続くんだかな。」
「これからが本番なんだけどね。」


 そうして、目の前の扉が、これ見よがしに開く。
「いかにも罠って感じだよな。」
「この向こう側にゾーマがいるのかしら。」
 そう話す皆の耳に、きぃんという金属音が聞こえた。
 それは聞き覚えのある音。剣とモンスターの硬い表皮がぶつかり合う音。
「誰か戦ってる?」
「まさか、こんなところに人がいるわけねぇだろ、モンスター同士がなんかしてるんじゃねぇか?」
 四人は小声でそう言い合いながら、音のした方へと歩む。

 そこは、小さな湖になっていた。そこに橋が架かっている、優雅な作りだった。
 そして、その橋の向こう側。湖の向こう側で、一人の男がモンスターと戦っていた。
 立派な体躯。その背中には血がにじみ、手足のあちこちが悲鳴を上げているのを感じ取れた。
 ヤマタノオロチのような七つの頭を持つモンスターはトゥールたちが相手をしたこともないほど強大だが、 男の目はするどくモンスターをにらみつけ、一歩も引く様子がない。
 男は首の付け根に深々と剣を差し入れ、モンスターは激しく吼える。
(…………)
 トゥールはまるで、凍らされたようにその場に止まった。

 あの腕に、抱かれたことがある。あの背中に負ぶさったことがある。あの手を握り、共に歩いたことがある。

 もう9年も前の話だが。それでも分かった。分かってしまった。
「オルデガ……様?」
 一瞬、自分が口にしたのかと思って、声のした方を見ると、サーシャが雷に撃たれたような顔をしていた。
「助けなきゃ!!」
 サーシャが我に帰り、オルデガの元へと走り出す。だが、その服のすそをリュシアがつかんだ。共に 走ろうとしたトゥールもそれを見て止まる。
 サーシャはそれを振り払おうとさえして、叫ぶ。
「リュシア?!なに?オルデガ様を助けないと!あのままじゃ!!」
 戦いは見るからにオルデガの劣勢だった。それでもいまだ戦い続けていることすらも奇跡だろうか。
 だが、そんな必死なサーシャに、リュシアが首を振る。リュシアはサーシャとトゥールの顔を見ることを避け、 うつむいた。
「……駄目なの?」
「何がなの?」
 リュシアは涙を床にぽたぽたとこぼしながら、声を絞り出した。 「……あれは、わたしのお父さんとお母さんと同じ。ここに漂う魔力が、姿を映しているだけのものなの。 トゥールの、お父さんじゃ、ないの……。」

 それはつまり。
 ここにはすでに、命はおろか、魂さえも。

 そうして、ついに、終わっていた戦いが映し終わった。深手を負ったモンスターが男に食らい付き、 力いっぱい地面に叩きつけると、その場から音もなく消えた。
「…………!」
「オルデガ様ぁ!!」
 そこにはただ、一人の男の血が、まるで壁画のように広がっていた。


 ゾーマの城。実のところ、実際に回転床がトラップとしてあっても対してダメージにならないような 気がします。戦いには不便でしょうが、移動するだけならジャンプして斜めによけたらよけられそうな気も しますし、回転した後で斜めに飛べばすむだけのような。
 次回はオルデガ編。と、次に行けるかな……四回も戦闘連続で書くのもあれなので、戦闘に関しては さくっと飛ばして行きたいと思います。

前へ 目次へ トップへ HPトップへ 次へ
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送