がつん、と低く響く洞窟の音色が、その洞窟が深いのだと示していた。
「…なんか嫌な感じだな…こりゃ、近くに水源があるかもしれねー、気を付けろ。」
「気を付けろって、どういうこと?」
 セイの言葉に、トゥールが首をかしげる。
「下手に壁つつくと、そっから水が溢れて溺死ってこともあるってことだ。ま、岩壁は丈夫そうだけどなっと。」
 セイはそう言うと、飛び上がって暗闇から現れた敵にナイフで切りかかる。
「もう、話してないで、早く片付けましょうよ。」
 サーシャが、槍で傷つけた敵をリュシアがナイフでつく。
「よっと。」
 トゥールが、その後ろにいた敵の頭を剣で叩き、そのまま切り裂いた。モンスターはゆっくりと地へと伏す。
「洞窟嫌…戦いにくい。」
 魔法で巻き込むことを考えると、タイミングを逃してしまうのだろう、リュシアがぽつりとつぶやく。もともと リュシアは接近戦が苦手なのだ。
「きゃ…あ、水…いやね。天井から水がしたたり落ちてるわ。湿気もすごいし…。」
 ところどころに鍾乳管が釣り下がり、そこから水がしたたる。下が水浸しになって滑りそうになる。
(でも、ちゃんとやってたなぁ。)
 この暗い洞窟で滑らない足場を選び、天井や壁に武器をひっかけないように戦う。狭い通路でぶつからないように 剣を向ける。実践を積んだせいだろうか。それとも、もともときちんとトレーニングしたせいだろうか。 トゥールたちはセイが目を見張るほど成長していた。
(まぁ、俺の時とは年齢が違うけどな。)
 捨てた過去の事をチラッと思い出して、首を振ってそれをまた捨てた。
 セイは、足元を照らして注意を促すトゥールの髪を、乱すようにぐしゃぐしゃとかきむしる。
「さって、さっさと行って、宝とやら拝ませてもらおうぜ。」
 なんとなく、口元をほころばせながら、セイは階段を降りて行った。


 ぴ…ちゃん…ぴっちょ…ん。
 反響する雫の音が、ここが巨大な地底湖だと知らせる。そこにリュシアの小さな小さな 呟きが、和音のように響く。
「すごい…」
 洞窟の最下層に、見渡す限りの巨大な湖。それは海へと続いているのだろうかと 思わせるほどに広かった。
 降り立ったのは、その中央の小さな島。不思議な形の岩が、円形に並んでいる。
「途中にあった回復の泉の事を考えると、どうやら神への儀式に使われていたところなのね…。」
 サーシャの言うとおり、そこは神秘的な場所で、神の祈りを捧げるのにふさわしい場所だと 言えた。
「ここが最下層だよね…これまでにその宝って言うの、なかったと思うけど…?」
 何もなさそうに見えるその小さな島を見渡しながら、トゥールが心配そうに言う。だが、 セイはいち早くその島の中央に駆け寄った。
「いや、これじゃねぇの?」
 それは、宝石箱だった。ずいぶんと古いのだろう。湿気にさらされ、さび付いていた。
 三人が駆け寄ってくる。セイの手元を覗きこみ、さびた宝石箱が開くのを静かに待った。
「…ルビー…だな。かなりでかいな。」
 その中に入っていたのは大きな赤いルビーだった。周りに金とサファイアの 装飾が施されている。その輝きは、ただの最高級の宝石を凌駕した、魔力的なものを感じさせる。
「綺麗ね…。」
 サーシャの横で、リュシアもこくこくと頷く。
「…あれ?まだ、何か入ってない?」
 トゥールが横から手を出す。箱と同じ大きさに折られた紙が、底にきちんと収まっていた。
 トゥールはその文面に目を通し…淡々と読み上げた。
「…お母様、先立つ不幸をお許しください…。わたしたちはエルフと人間。この世で許されぬ愛なら、 せめて天国で一緒になります。アン。…アンさんの、遺書、だね…。」
 その言葉は、湖の上を響き、洞窟に染み渡る。
 宝石の美しさに見とれていた二人の顔が、一気に青くなる。リュシアの目に涙が浮かび、 そっとトゥールの腕にしがみついた。
 セイはルビーをもてあそびながら、湖面を見つめる。
「ここから湖に身を投げたってことか。多分、あの友人とか言う男に言ったのも、全部 嘘だったんだろうな。最初から死ぬ気で、遺書を探してもらうための嘘だったのか。」
「どうして…自殺なんて…駆け落ちして、幸せになろうとは思わなかったの…?」
 悲痛な声を出すサーシャに、セイはむしろ納得したように頷く。
「まぁ、男はともかくエルフの方は逃げようってたって無理だろ。目立つし、下手すりゃ 見世物に売られちまうだろうし。」
「こうするしかなかったって言うの?」
 にらむサーシャの視線をさらりと受け流し、セイは笑う。
「そんな顔すんなって。綺麗な顔が台無しだぜ?んなわけねぇだろ?男が甲斐性なしだったんだよ。 認められたかったら、殺される覚悟で女王に懇願しにいけっつーんだ。」
 サーシャはセイを見上げる。ひょうひょうとしたセイの言葉に、どこか苛立ちを感じているようだったからだ。
「…そうね。アンさんも…もっと、本当は他に道があったはず、なのよ…。それでも…神よ… 許しと癒しを司る優しき神よ…どうかこの者たちの魂を、幸福へと導きたまえ…。」
 サーシャは跪き、手を組んでそっと祈った。その祈りは広がり、波紋のように散らばって行った。


 リュシアの涙も収まり、トゥールはずっと撫でていたリュシアの頭から手を離す。
「ありがとう、サーシャ。祈ってくれて、僕も嬉しい。」
「聖職者として当然よ。さあ、早くノアニールの人たちを助けましょう。この宝石と手紙があれば、 村の人たちを助けられるはずでしょう。」
 サーシャがルビーを持っていたセイの方を見る。セイは、その宝石を手放しがたく思っているらしい。
「…いや、これ本気ですげーな…確かにうれねーけど、でも裏の好事家に回せば一財産だ。」
「セイ…売らないよ。返すんだから。」
 トゥールは眉をひそめて、ルビーに手を伸ばす。だが、セイは宝石を手放さず、じっと見ている。
「でもなぁ…手紙さえありゃ、十分じゃ…ん?」
「どうしたの?」
「なんか、宝石の中に、妖精みたいな影…が…」
 ルビーの影に、妖精がちらつき、うろうろと動き回る。そしてそれはやがて目の前に現れ…その後ろに、 赤い光景を浮かばせる。

 …泣いている子供。罵倒する声。狂乱する悲鳴。打撃音。すすられる涙。さしのばしては 払いのけられる手。…そして…

「…イ…セイ……セイ!!もうキアリクはかけたわ。大丈夫?」
 ルビーを見つめていたセイの体が突然震え、そして動かなくなった。目を閉じることもなく、 指一本動かない。…それは麻痺の毒に症状に似ていて、サーシャは急いで回復の魔法をかけたのだ。
「…たす、かった…悪い…それ、見つめないほうがいい…悪い、夢を…見る。」
 セイの顔は真っ青だった。それでも、もうルビーを見ていたくないらしく、袋にしまいこむ。
「悪い。心配かけた。帰ろうぜ。この宝、とっととエルフにつき返したほうがいい。…もしかしたら、 二人が死んだのは…いや、何でもねぇ。」
 セイが具合の悪そうに言いよどんでやめる。それはとても珍しいことだったが、よほど 悪い物でも見たのだろうと、追求するのはやめた。そしてリュシアの脱出の呪文を使い、四人は洞窟から 出た。


 ノアニールの後編です。…終わってないけど。このあと、女王イベントがあるけど!
 まぁ、インターバルになるので、ここで一旦切ります。
 ちなみに女王の王錫は、夢見るルビーと同じ物、という設定です。あのまま行くと、トゥールは 麻痺させられて、そのままぽっくりです。嫌な死に方です。
 ちなみにゲームにはエルフの兵士はいません!そもそもあの村にいるのは 女王なのか、村長なのか。女王っぽかったので女王と書きましたが、なんとなくポワン様と 同じくらいの位のような気がします。そうすると村長なのか?
 しかしポアン様くらい豪華な所に住んでくれたら やりやすいのですが。せっかくなので。ゲームよりは豪華に彩って見ました。
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