終わらないお伽話を
 〜 勇者の挑戦 〜



「大丈夫か?」
 キングヒドラが倒れた後、セイは真っ先にリュシアを起こしに行った。リュシアは、ゾーマが現れてから ずっと地に座ったままだったのだ。
 リュシアはセイの腕を借り、無言で立ち上がった。
「座ったままだと危ないよ。どっか怪我したの?」
 トゥールの言葉にリュシアは首を振る。怪我はないが『大丈夫』だとは言えなかったのだ。その言葉は嘘だったから。
「ゾーマには、届かない。」
「どういう意味?」
 リュシアは、この祭壇の上で捧げられる生贄にふさわしい表情をしていた。
「見えたの。ゾーマの周りを、『闇の衣』が囲っている。この世界の全ての闇は、きっとゾーマに無理やりに囚われてる。そして、 闇は、ゾーマを優しく囲んで、わたし達を拒んでいる。だから……魔法も攻撃もゾーマに届かない……闇を、はがさないと……。」
「なんとか、ならないのか?」
 セイの言葉に、リュシアは暗い顔のまま首を振る。
「……無理、リュシアが、取り込まれそうだった。あのまま、あそこに……足が震えて立てなかった。座り込んで、引き込まれるの 抑えるのが精一杯だった。」
 リュシアは震えた手をこぶしにする。もう、バラモスの時のように足手まといになりたくないのに。それでも、あれを 見てしまったら。無理やりに囚われ、もがく闇の苦しみさえ、ゾーマは自らの糧とする。 永遠の苦痛を味わう闇を、衣としてつけているあれを見たら……恐ろしくて泣きそうだった。 ふとんをかぶって泣き出してしまいたい。そんな気にさえなっていた。
 それでも、それを言い出さないのは、最後まで戦うと決めた決意の表れだった。
「しかし、衣をはぐっていってもなぁ。あの衣装をはげば良いってわけじゃないんだろう?」
 リュシアはこくんと頷く。そうではない。だが、見えない者には伝わらない事は分かっていた。
「助けてあげたいの。……でも、わからないの。どうしたらいいのか。わたしも、囚われてしまいそうで、近づけない……。」
 泣いてしまいそうだった。自分の無力さに。
 そんなリュシアを、サーシャは思いっきり抱きしめた。

「大丈夫。リュシアをゾーマになんか、渡しはしないわ。私が必ず助けてあげる。」
「……サーシャ……。」
「どうやってかは、私も分からないけれど。でも大丈夫よ。ルビス様が必ず加護を下さるわ。」
 その言葉に、リュシアは思わず状況も忘れて噴き出した。変わらないサーシャの言葉に安心したのと、他でもない サーシャがそういうことのおかしさにだ。
 リュシアもサーシャを抱きしめる。
「うん、頑張る。信じてる。」
「教えてくれてありがとう、リュシア。私が必ず守るから。」
 そう抱き合うリュシアとサーシャを見て、トゥールとセイはほほえましいような、なにやら嫉妬めいた不思議な気持ちに なる。
「仲むつまじいところ申し訳ないがな。」
 セイが親指でゾーマが去った後ろを指差し、
「新手が来たみたいだぞ?」
 セイの言葉が終わる前に、トゥールは祭壇を飛び降りる。セイ、サーシャ、リュシアとその後に続いて走った。
 どこか見覚えのあるモンスターの下へ。


、大きな一つのこぶが隆々とあり、しわだらけの顔には大きな大きな口が禍々しいほどに赤々としている。 伸ばされた三本の指からは、剣ほどもある爪が光っていた。
 ただ、以前に見たそのモンスターは黄土色だった肌が、へどろのような青緑だった。
「こんなモンスターがもう一匹いるなんてね。」
「吼えるな、脆弱な人の子よ。たとえ我が兄を倒したとて、それは我が兄の油断ゆえ。我はバラモスブロス。おぬしらを倒し、 わしの異形を死した我が兄に見せつけようぞ!!」
 その言葉が終わるか終わらないかのうちに、バラモスブロスは襲い掛かってきた。

 大地を揺るがす三度の爆発。
 間を置かず放たれた呪文は、トゥールたちの芯を捕らえ響かせるように浴びせかかる。その圧倒的な量は、 敵からの攻撃などではなく、天災に近かった。
 ほとんど気絶に近い衝撃から立ち直れたのは、偏に運が良かったからだろう。
「サーシャ!リュシア!!」
 トゥールのその声に応えてか、二人はなんとか呪文を唱える。徐々に癒されている二人の呪文に励まされ、トゥールは 体を起こした。
 幸運なのは、あのすばやい攻撃を、いつもいつも行えるわけではないということだった。
「サーシャはフバーハ、リュシアはスクルト一回!あと二人にマホカンタを!あとは回復と補助に専念して!」
 トゥールが指示をする間に、セイはバラモスブロスの鼻柱に『おかえし』を渡していた。
「早めにかたをつけるぞ!!」
 セイがそう言ったとたん、部屋を埋め尽くす炎が吐かれ、その向こう側からひときわ大きな炎の玉がトゥールに向かい来る。
 だが、フバーハに守られ、そのうえ伝説の装備に守られたトゥールには、それは焼け付くほどではなかった。
 ぐん、とトゥールの体にリュシアの魔力が宿る。その力を借り、勢いのままバラモズブロスの胴体を袈裟懸けにする。
 サーシャの呪文で脆くなっていた肌を切り裂き、セイがそれに重ねるように心臓をえぐった。
「おのれおのれ……。」
 バラモスブロスはそれでもなお、四人をにらみつけ、両手に三つの大爆発を起こす魔力玉を生み出し、投げた。
 だが、それがとどめとなる。
 バラモスブロスは自らのイオナズンを、サーシャとリュシアから反射され、体中が吹き飛ばされた。


 息をつく間は、わずかだと悟っていた。
 四人は無駄話もせず、黙々と体力を回復し、魔力を回復していた。
 そうして、四人は声もなく立ち上がる。振動が響く。
 現れたのは、大きな二本の角を持った、骨のゾンビだった。
「久しいの……。」
 にじむような不快な響きを持った声は、いつまでも体にまとわりつくようだった。
「お前なんか知らない。」
 切って捨てるトゥールの言葉を無視して、モンスターはカカ、と笑う。
「わしは言った……あきらめん、と。ゾーマ様が下さった最後の機会、勇者などというたわけたものを亡き者に してくれるわ!!」
 そう言って振り上げられた腕を、トゥールは盾で受け止める。その勢いを殺せず、トゥールは壁まで吹き飛ぶ。
「トゥール!!」
 瓦礫から立ち上がったトゥールは、頭から血を流していた。サーシャが回復呪文を唱える。
「大丈夫。……勝てるよ。力は強いけど、それだけだ。」
 セイが爪で肋骨を抉り取る。軽くなった骨はあっさりと砕け散るが、バラモスには効いていないようだった。
「だな、おいバラモス、お前弟より弱いな!!わざわざ倒されに来てご苦労だな!!」
「なんだと、わしが、わしがあれより弱いと?!」
 さらに勢いののった打撃が、セイに襲い掛かる。だが、その前に間違えずに唱えられていたリュシアのスクルトが セイを守った。更にサーシャに回復され、すぐさま立ち直る。
 ゾンビになったせいか、バラモスは魔法力ない、体力と腕力だけの戦いしかできないようだった。恐怖というより、 むしろ、哀れだった。
 そうして、あらゆる場所の骨がぼろぼろになり、
「おのれおのれおのれ、この大地を支配した大魔王バラモス様にあざなすとは身の程をわきまえぬ…」
 そういい続けるバラモスゾンビをリュシアは、かつて失敗したリベンジとばかりに、最大の呪文で葬り去ったのだった。
「……哀れ……。」
 リュシアの心には、もはや憎しみはなかった。何かの目的のために亡霊にされ利用されているバラモスは、かつて 憎らしかった魔王とはまったくの別物だったからだ。おそらくゾーマもバラモスがトゥールたちを倒せるとは 思っていないのだろう。それがバラモスには分からなかったのだ。
 両親を殺した仇をようやく討てた感慨もなく、リュシアは消えていくバラモスから視線をはずした。


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