ゾーマは光を浴び、自らを抱きしめるようにしてうめく。そうして徐々に収まっていく光に視線を斜め上に向けた。
 ちょうどその視線の先にまで降りてきたサーシャに向けた視線には、確かに敵意が存在した。
「ほほぅ、我が闇の衣をはがす術を知っていたとはな……。精霊ルビスよ。」
「貴方が使役した闇の精霊は、確かに返していただきました、大魔王ゾーマ。」
 その表情は、確かに精霊ルビスのものだった。
「しかし無駄なこと。さあ、我が胸の中でもがき苦しむが良い!」
「決してそうはなりません。トゥール、セイ、リュシア。ゾーマの闇の衣はありません。どうかこの世界をお願いします。 この世界に、本当の太陽を取り戻してください!」
 とん、と地面に着地した時には、すでにサーシャに戻っていた。
「行くわよ、皆!!フバーハ!!」


 ぐん、とリュシアのバイキルトに力をもらい、セイは地面を蹴った。
「今度こそ!!」
 すばやくゾーマの横に回り、セイはわき腹に爪を突き入れる。その感触は生のものだった。
「いけるぞ、今度は!うわぁ!!」
 そのとたん、ゾーマの爪がセイの胸を裂く。とっさにかわしたものの、爪の先端がセイの胸を赤く染めた。
 セイを切り裂いたゾーマの腕を、トゥールは力いっぱい切りつける。だが、切り落とすまでには行かず、ゾーマの手から 何か、凍りつくような空気が発せられ、そのすぐ後、口から吹雪が放たれる。
 風におしまけるように、リュシアとサーシャが吹き飛ばされる。手足がしびれるように痛い。
「フバーハが、解けてる……。」
 冷え切ってまだ動けない体を無理やりに動かすと、近くにいたトゥールとセイが真っ白になってひざをついている。
「フバーハ!多分、さっきの波動。サーシャ、回復。」
 リュシアの言葉に応え、サーシャも皆呪文を投げる。
「ベホマラー!大丈夫?!」
 癒しの光が四人の体を回復する。セイの胸の血もなんとか止まったようではあるが、完治まではいっていないようだった。 サーシャの体にもまだ痺れが残っている。
 大丈夫と言う余裕もなく、回復した体を立ち上げトゥールが飛び出す。 盾で体をかばいながら、ゾーマにすばやく近づき、足を切り裂く。
 セイは再びゾーマの頭を狙い飛び上がった。今度は目を狙い爪を振るうが、 手で弾き返された。
「っくそ!」
 とっさにその手を爪で引っかくと、案外ダメージがあったようで、そのから青い血が漏れた。
 だが、その手から青い光球が生まれ、四人に大きな氷柱となって襲い掛かった。


 すでに、体の痺れはない。手足に氷柱がかすり、血が出ているが感覚はなかった。
(それでも、それだけですんだのは勇者の、盾のおかげ……。)
 ぼんやりしていた頭が覚醒する。勢いで首だけ起こすと、それだけで頭がくらくらするが、気づかないふりをして 周りを見渡す。

 セイが、サーシャが、リュシアが、氷柱に貫かれていた。
 セイが肩が、サーシャが腰が、リュシアは足が。ほとんど地面に縫い付けられたように氷の刃が刺さっている。
「だい、じょう……ぶ、いま、かい、ふく、を……」
 三人とも、生きてはいる。だが、その体から徐々に力は失われていく。致命傷ではないのは、 神のご加護か偶然か……それとも絶望を味わうゾーマが、あえてしたことなのかもしれない。
 そしてそのゾーマは、サーシャが唱え始めたつたない呪文を待ってくれるほど甘くはないだろう。現に唱え始めた サーシャの呪文は、喉に絡んだ血のせいで、すっかり止まってしまっている。
 トゥールはなんとか立ち上がった。体中から血が流れるがかまわなかった。。ゾーマをにらみつけるが、ゾーマは笑った。
「ほほぅ、立ち上がるか。愚かなものだな。たしかにわしの体も無傷というわけではない。そう、トゥール、お前が あと一撃で我を倒せることが出来たなら……仲間も助かるかも知れんな。だが、出来なければ その身ごとわしに食い尽くされるまでだ。」
「言われるまでもない。」
 トゥールは短くそう言って、すばやく呪文を唱え始める。チャンスは今しかない。
「なるほど、呪に頼るか。そなたの体も無傷ではない。その体で繰り出す攻撃よりは呪の方が確実であろうな。…… ただしその呪文でわしを倒せるとしたらどれほど強大な呪文であろうか……?」
 それも言われるまでもない。トゥールはじっと憎しみを込めた眼でゾーマをにらんだ。
 勇者に許される最強最大の呪文。この呪文こそ、神に愛された勇者である証。
(それを、たっぷり味わわせてやるよ……。人を侮ったこと、後悔させてやる!)
 呪文が唱え終わる。その旋律は、リュシアのそれに比べればつたなく、儚い。だがトゥールはそれにありったけの 魔力を込め、ゾーマをにらみつけたまま、その最強の呪文を放った。

 ”ベホマズン!!”

 その言葉と同時に、緑色の癒しの光が、トゥールたち四人を包み込んだ。見る見るうちに傷がふさがっている。
「温情ありがとうよ!!ゾーマ!!」
 真っ先にセイが飛び出した。すでにサーシャのバイキルトを身に纏っている。
 今度こそ真正面から振りかぶり、その胸を仕返しとばかり抉り取る。
「人間ごときが!!」
 ゾーマの目が憎しみに染まり、口から吹雪を吐き出した。だが、
「フバーハ!!」
 それより一瞬早く、リュシアの呪文が四人を包み守った。
「人風情が……!」
 ゾーマがサーシャの腕を爪でえぐる。だが、完全回復していたサーシャには、致命傷ではなかった。
「ギガデイン!!」
 トゥールの呪文がゾーマの頭に直撃する。その横からセイが、ゾーマの足をもぎとる。
 そして、トゥールが走る。身にはリュシアの呪文。手には王者の剣を掲げて。
 そうして、ゾーマが呪文を投げるより一瞬早く、トゥールはゾーマの胴体を切り裂いた。

 ようやく、このお伽話も終盤を迎えました。
 あと一夜、よろしければどうかお付き合いくださいませ。

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