終わらないお伽話を
 〜 お伽話をはじめよう 〜



 ゾーマの体から炎が上がった。
「トゥールよ、よくぞわしを倒した……。」
 これが魔族の消滅の仕方なのか、はたまた人に止めを刺されることを恥じ、 自らの手で滅びを選んだのか、トゥールには分からなかった。
「だが光ある限り闇もまたある……。わしには見えるのだ。再び何者かが闇から現れよう……。」
 そのゾーマの言葉は予言なのか、呪いなのか、はたまた負け惜しみなのか。いや、おそらく、ゾーマはこう言いたかったのだろう。
「だがその時はお前は年老いて生きてはいまい。ふははははっ!」
 いくら自分に勝ったとしても勇者が人である以上、得られるのはほんのわずかな期間の平和でしかないと。お前がしたことは なんの意味もないのだと。
”何ゆえもがき生きるのか?”
 その問いに、トゥールは薄く笑って答える。
「教えてあげるよ、ゾーマ。お前が封印した、お前より弱いって馬鹿にしていたルビス様は、 とっくにそんなこと想定済みなんだ。大魔王ゾーマ、たとえそいつが お前なんかよりはるかに強くても、未来の勇者達が必ずそいつを倒すよ。」
 その勇者はルビスが想定している自分の子孫なのかは、トゥールにも分からない。
 けれど、その勇者はきっと自分よりも強いのだと分かっていた。それは血だとか神の祝福だとかではなく、その 心と魂が強いのだと。炎に包まれながら消えていくゾーマを見て、トゥールはそう思っていた。


 そうして、すっかりゾーマの巨体が火に包まれたときだった。地の果てから低い響きを聞こえ、 やがてそれは大きな揺れへと変わる。
「やばい、もしかしてこの城はゾーマの魔力で支えられてたとか系か?!」
 立っていられないその揺れにセイはそう叫び、ゾーマの方を見ると、ゾーマの体についていた火がはじけ、炎に囲まれた その玉座にはもはやなんの影もなかった。
「逃げましょう!集まって!!」
 天井からは、その破片も降ってくる。
「リレミト!!」
 すでに唱えていたリュシアの呪文は発動しなかった。
「どうして?!」
「考えてる暇はないよ!逃げよう!!!この部屋から出たら呪文が使えるかもしれない!」
 トゥールのその言葉に、四人は炎を避けながら走った。だが、それも手遅れだった。
 足元に大きな穴が開き、四人の体は地中へと吸い込まれていった。


 もはや駄目だと思った体に風と浮遊感を感じる。
 何かに放り投げられたような感触にあわてながらも、なす術もなく地面に落ちた。
 ゾーマ戦での傷が、叩きつけられてさらに響くが、トゥールはかまわずに勢いよく立ち上がる。
「サーシャ!?リュシア!?セイ?!」
 ほどなく、
「いるぞー……いててて。」
「皆無事?」
「大丈夫……。」
 三人の声が返る。その反響からしてどうやらここは洞窟のようだった。目が慣れ、ここがどこだか ようやく把握する。
 三人がトゥールの元へと集まった。よく見ると三人の体はあちこち傷だらけで、おそらくトゥールも同じなのだろう。
「やっかいね。ここ勇者の盾の洞窟だわ。これじゃ回復できないじゃない……。」
 サーシャが眉をひそめる。
「魔王と関係あるとは聞いていたが……どういうことなんだろうな?」
「脱出口?」
「ともあれ、助かったね。せっかくゾーマを倒したのに、こんなことで死ぬなんて、冗談じゃないや。 ……出ようか。なんかモンスターの気配は感じないけど、一応用心しないとね。」
 トゥールに促され、三人は頷く。歩き出そうとして、サーシャが足を止めた。
「そういえば、薬草があるわ。血止めしてから……、」
 サーシャがそう言って薬草を出そうとしたとき、またしても遠くに地鳴りが聞こえた。
「まさか……。」
「急げ!!」
 セイの怒声に、サーシャは袋から手を抜く。それから力の限り階段まで走り、回廊を駆け抜ける。
 がこっと、後ろの大地が抜けた。四人はもはや声もなく、ただ出口へと息を切らせて走った。

 四人が転がるように洞窟から出ると、大地が激しく震え、そして空が鳴った。
   さすがに先ほどの無茶な走りは堪えたらしく、四人とも座り込み大きく何度も空気を吸い込む。
 そんなトゥールたちの空の上の方で、何か、大きなものが閉まったような、そんな音が重く響いた。
 ついにその時が来たのだと、サーシャは座り込み、荒く息をしながら空を見上げる。
 その思いは他の三人も同じだったらしい。ほぼ同時に四人は空を、見た。
 ゆっくりと、太陽が昇っていく、新しい平和の始まりにふさわしい、美しい空だった。


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