夕焼けの山道を、四人は歩いていた。
「このまま行けば、カザーブに着く前に夜になるわ。」
 サーシャが少しだけため息をつきながら、空を見上げる。
「埃だらけの宿屋に泊まるのよりゃましだろ。酒も酢になってそうだ。」
「それに、今頃掃除で大変だと思うし、お邪魔するのは悪いよ。」
 セイとトゥールの言葉に、サーシャが頷いた。
「それもそうね。手伝ってもあげたかったけれど…私たちがいては邪魔になるものね。」
「夕暮れ。ルビーの色。」
 空を指差して、リュシアがトゥールに笑いかけた。
「そうだね。夜が来て、朝が来る…そうだといいね。」
「とりあえず野営場所探そうぜ。暗くなっちまう。」
 ぱんぱんと両手を叩き、セイが二人のほんわかとした雰囲気を壊す。トゥールもそれに意義はないようで、 前を向いて歩き始めた。

 そして、空が紺碧を過ぎる頃、四人は炎を囲んでいた。
「それで、これからどうするの?アッサラームに行くの?」
 サーシャの言葉に、トゥールは少し悩んだ後、セイを見て言った。
「…シャンパーニュの塔に行こうと思う。」
「お前、まだ諦めてなかったのか?じゃあ…」
 呆れながら言いかけた台詞をさえぎり、トゥールは言葉を口にする。
「どうして、ロマリアの王様が僕に王冠を取り返してって頼んだんだろうって思って。」
「…なんでって…それは盗賊に王冠が盗まれたことが表ざたにできないからじゃないの? 兵が取り返しに言ったら問題だから、よそのトゥールに頼んだのじゃない?」
 サーシャの言葉に、セイも頷く。トゥールも頷いた後、話を続けた。
「そうだよね。でもそれなら…セイ、もう一度聞くけど、僕はカンダタには勝てないよね?」
「だと思うぜ。カンダタはずる賢いやつだし、腕っ節も立つ。お前程度じゃとても駄目だ。」
 きっぱりセイが言い放ったのを聞いて、トゥールは話を続ける。
「セイの話を聞くと、ロマリアの王様は、僕がカンダタに勝てると思ってたとは思えないんだ。だって 何百人も子分がいるんだよね?僕達はたった四人だ。まぁ、あの塔にそれだけの 人数がいるわけじゃないだろうけど…いくらなんでも無謀だと思う。」
「トゥール、見捨てるつもりだった?」
 心配そうにリュシアが言うが、トゥールは首を振る。
「それなら、僕達に言うのがおかしいよ。サーシャがあの時、エルフの女王様に言われて分かった。僕は神様と、 それからアリアハンの王様に選ばれた勇者なんだ。勝手に用事を頼んで、殺されたなんてなったら、どうなる?」
「なんか問題あるのか?ロマリア王は必ずこう言うぜ、『勇者が善意で引き受けてくれたことだ』ってな。」
 セイの言葉に、トゥールは再び首を振る。
「見捨てるつもりなら、王の期待を得て旅立った僕達じゃなくても、他の旅人でもいいよ。そっちの方が都合がいい。 僕達が死ぬのは問題ないかもしれない。僕達が引き受けて果たせなかっただけだから、 王様が殺したわけじゃない。でも死にました、はいそうですか、なんて事になったら…アリアハン王だって 怒るだろうね。僕を見捨てたって。ロマリア王だってそれは分かってるはずなんだ。だから、必ず『敵討ち』ってことで、 今度は堂々と兵を出す。…兵を出せるんだ。カンダタ討伐のためにね。」
「それが…狙いなの…なんて、こと…」
 怒りに震えるサーシャの横で、セイが話を進める。
「にもかかわらず、カンダタを倒しに行くってか?まったくめでたいね。」
「違うよ、サーシャ、セイ。僕も最初はあれって思った。でも王様はその先を読んでいたかも知れない。」

 トゥールの言葉の真意が分からず、セイは話を促す。
「その先ってなんだよ?」
「カンダタはそこまで考えて、僕を殺さない。決して殺せない。『勇者の敵討ち』として士気があがった 訓練された何百人の兵士を相手にして…勝てるかもしれない。でもそれって賢くないよね?セイ?」
 トゥールの言葉に、盗賊の見地から頷いた。
「まぁな、所詮盗賊は戦うためのもんじゃない。塔は捨てる事になるだろうな。無傷ってわけにはいかねぇだろうし…」
「そう言うこと。だから、僕はカンダタに勝てるチャンスがある。カンダタは手加減して『王様が 兵を上げられない』程度に痛めつけようとしかできないから。…王様の真の狙いは、そこじゃないかな?」
 ようやく言いたい事が分かって、セイは意地の悪い顔をした。
「勇者の威光を盾に、戦うつもりか?勇者様?」
「僕が勇者を振りかざすんじゃないよ。向こうが勝手に考えて手加減してくれるだけ。ねぇ、セイ。それでも まだ、勝ち目がないと思う?別に僕はカンダタを倒したいわけじゃない。冠を取り返したいだけなんだ。」
 セイは、無言だった。じっと思案しているようにも、それを放棄しているようにも見える。
「僕は、セイに一緒に着いてきて欲しいよ。ただ無理強いはできないのも分かってる。もし駄目なら、 カザーブの村で待っててくれてもいい。もちろん、どこかに行ってしまっても仕方ないけど…どうかな?」
「さーな、どうだろーな。ま、考えとくぜ。」
 セイはそう言うと、自分の荷物袋を枕に、ごろんと寝そべった。わざとらしくあくびをしてみせる。

「交代になったら起こしてくれや。俺はもう寝るぜ。」
「セイ…」
「なんならサーシャ、添い寝してやるぜ?」
 心配げに声をかけたサーシャに、セイはにやりと笑う。セイが差し伸べた手を叩き落とした。
「もう…。いいわ、私も寝ることにするわ。」
 ころん、とサーシャも毛布に丸くなる。火の番のトゥールはそれに頷く。
「リュシアも寝たら?」
「うん…あ…」
 空を見上げていたリュシアが、声を上げる。そして、小さくぶつぶつと何かを唱え始めた。
「な、なんだ?リュシア?!モンスターでもいたか?!」
 その態度に驚いて、セイは飛び起きた。だが、リュシアは首を振る。
「流れ星。」
「…流れ星だぁ?それがどうしたんだよ?何言ってたんだ?」
 眉をひそめて不快そうに言うセイに、怯えながらもリュシアはつぶやく。
「…お願い事。」
「はぁ?」
 セイは心底不思議そうに首をかしげた。トゥールは少し苦笑して言う。
「知らない?流れ星に三回願い事を言うと、願いが叶うんだって。そういう話があるんだよ。」
「世界共通かと思ってたけど、違うの?」
 サーシャも起き上がって、興味深そうに聞く。
「なんだそれ。俺のところは不吉の前兆だって大騒ぎだったけどな。」
 ものすごく不愉快そうに、セイは答えた。リュシアはおずおずと口にする。
「…でも、リュシアは流れ星、好き。綺麗。勇気が、でるの…。」
「…そうか。良かったな。」
 セイは吐き捨てるようにそう言って、そのまままた大地に横になった。天に光る星を眺めながら。


 ノアニールの残りかす。インターバル編です。本当は魔法の鍵を教えてくれる人は、 あの女性じゃないんですけどね。せっかくなのでまとめてしまいました。
 SFCの映像を見ていると、オルテガが旅立ったのは16年前のような気がしますが、そのあたりは 脳内変換でお願いいたします、うい。

 さて、なんだかどんどんトゥールが口車大王になってまいりました。果たして詐欺師の道を 歩むのか(笑)お楽しみに。

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