夕食の席に向かう。なかなかにぎわっている食堂を見渡すと、トゥールが座っていた。
「もう何か頼んだ?」
 サーシャは向かいに座りながら、トゥールにそう呼びかける。
「ううん、まだだよ。この鶏肉のクリームパイ包みセットがおいしそうだと思うけど。」
 メニューを見せながら、トゥールが笑いかける。サーシャはそれを見て、唐突に切り出した。
「…セイが来なかったら三人で行くの?」
「そのつもりだけど…サーシャは不安?」
 サーシャは少し考えて苦笑する。
「もともとそのつもりだったものね。トゥールがセイに遠慮して後回しにした事の方が驚きだもの。」
「別に遠慮したわけじゃないよ。セイの言ってる事が正しいと思っただけだし。」
「トゥールって、自分の旅っていう自覚がないの?セイはそれに付き合ってるだけでしょう?」
 呆れたように言うサーシャに、トゥールは首を振った。
「セイがどうして僕達に付き合ってくれたかわからないけど、譲れる所は譲るべきだと思うよ。別に 僕がリーダーじゃないと駄目だとか、そんなこと思ってないし。」
「…頼りないわね。オルテガ様ならリーダーシップを持って、私たちに迷いなき道を示してくださった でしょうに。」
 うっとりとするサーシャに、トゥールは少しだけ顔を暗くした。
「父さんは…と、リュシア、そんなところで何してるのさ?」
 サーシャが後ろを振り返ると、入り口の所で立ち尽くしているリュシアがいた。
「どうしたの?」
「…なんでも。…セイ、酒場。」
「あ、そうなんだ。じゃあ、注文しよう。リュシアはきのこのスープ、好きだよね。 黒きのこのポタージュとか、おいしそうだよ。」
 そう語りかけるトゥールを見ながら、リュシアは小走りにテーブルにかけより、椅子に座った。


 セイと別れて食堂に着くと。…そこには楽しそうに会話するトゥールとサーシャの姿があった。
 いつもトゥールに憎まれ口を言うサーシャ。それでも、ふとエルフの里の事を思い出して暗くなる。
 …たまに思うのだ。本当は、サーシャもトゥールが好きなのじゃないかと。
「頑張って」そう言われたこともある。「トゥールなんかオルテガ様には適わないけど、リュシアが 好きなんだもの、仕方ないわよね」そう笑ってくれる。
 けれど、サーシャもいつもトゥールの側にいた。時にはトゥールに母親のように、心配そうに 声をかけるサーシャ。
「本当は好きなの?」そう問いかけたくなる。
 …けれど、そう問いかけてどうすればいいのだろう?「うん」と言われても「いいえ」と言われても… それに対してどう答えればいいのだろう?
 自分はどうして、それが知りたいのだろう?何が言いたいのだろう…そう考えているうちに、いつも時が過ぎていく。 …いつも。


 まだまだ飲み始めだったが、疲れていたのだろう、少し酔いが回ってきて、セイは未練を残しながら酒場を出た。
 自嘲しながら空を眺め、夜道を歩いていると、意外な人物と行きあった。
「よぉ、何やってるんだ、こんなところで。」
「あ、セイ。お墓参りよ。あの変な爪のお礼、してなかったことを思い出したの。」
 どうやらサーシャは墓場からの帰りらしかった。
「危ないぜ、こんな夜中にサーシャみたいな美女が一人で歩いてちゃ。俺みたいな紳士に 会うならともかく、やばいやつもたくさんいるんだからな。」
「セイが紳士かどうかは置いておいても…一応、一般人に負けるほどには弱くないつもりよ?」
「世の中にゃ隠れた達人がいるんだよ。俺が部屋まで送ってやるぜ。なんなら一緒に寝てもいいけどな?」
 少しだけ顔を赤くしたセイに、サーシャはにっこりと笑いかけた。
「せめて口説くなら、酔いがさめてからにしてくれるかしら?まぁでも、一緒に帰りましょう。」

 夜風が酔った顔に心地よかった。隣を見ると、その酔いがさめるほど美しい少女。
 ただ、今のセイにはその少女に外見以外の興味が沸いていた。
「神は全てを平等に見守り、愛してくださる…って言うよな?全ては等しく神の子だってな。 サーシャ、お前はその教えを信じてるのか?」
「もちろんよ。神は全てを等しく愛してくださっているわ。」
 何を当然の事を、と言わんばかりにサーシャが頷く。セイは問いを重ねた。…こんな事を 聞くのはかなり酔っているのかも知れないと、薄く笑いながら。
「お前の父親も同じだよなぁ?」
「当然よ。父さんの教えに、今まで間違いはなかったわ。父さんは本当に敬虔な人で、私も尊敬しているもの。」
「…じゃあ、な。レーベで『君は神様の子供だから心配はしていない』って言ってたのは、一体なんだったんだ?」
 サーシャは一瞬目を丸くした。目線を泳がせる。
「よ、よく、覚えていたわね…」
「まぁな。勇者のトゥールならともかく、神官が僧侶の我が子を特別扱いするっていうのは…めずらしいことじゃねーが、お前の 父親はそんな風には見えなかったしな。」
「…たいした事じゃないのよ。」
 サーシャは観念したようにため息をついた。
「私が生まれる前、父さんと母さんは同時に夢を見たの。」
「夢?ただの?」
「馬鹿な話でしょう?ルビス様が二人に語りかけて来たんですって。この子を私の子にしてもいいですかって語りかけてきたって。 二人とももちろんって答えたそうよ。だから、私は神の子なんですって。」
 くすりと笑う。
「まぁ、僧侶なら誰だってよく神の夢を見るわ。お腹に子供がいたらなおさらよ。それでも、父さんも母さんも そう信じてる。…だから、私が旅に出るのを許してくれたのよ。」
「じゃあ、なんだってサーシャは賢者になりたいんだ?」
 セイがするりと出した言葉に、サーシャは再び口をつぐんだ。

 …おそらく自分は酔っているのだろう、と心の片隅で思う。
 誰かのプライベートを探る趣味はない。誰にでも隠して起きたいことはあるのだから。 他人の事なんてどうでもいい、ずっとそう思ってきた。
 ただ、酔った勢いで、少し気になってた事が出てきてしまったのだと、セイは思った。
「父親の事を尊敬してるんだろう?信仰心だってあるんだろうに。」
「…母さんが、賢者だったし…」
 そう口を濁した後、サーシャはとんとん、と小走りに前に出て振り返った。
「私の心の奥を話すには、もうちょっといい男になってくれないと駄目よ、セイ。」
 ウインクしてそう笑う。そしてすでに目の前にあった宿に、サーシャは駆けて行った。


 インターバルが終わらない…っく。次回は塔突入編ですよ。
 なんだかんだで重要な回。フェイク含め伏線張りまくりは楽しいです♪
 ちょっと勘違いなのは「私たちはみな神の子」って決まり文句、ドラクエじゃなかったっぽいって ことですか…勘違いしてたよ。何のゲームか覚えてないのですが。もしかして7かもしれないけど。
 そろそろ話を進めたいですな。むぅ。

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