終わらないお伽話を
 〜 冷たい刃 〜



 鳥が美しいメロディを奏でる朝だった。頬を撫でる風がまだまだ冷たい早朝に、トゥールたちは 山道を歩いていた。
 道に迷う心配はなかった。木々の隙間からはっきりと塔の頂上が見えているし、村人が立ち寄りそうに ない場所に、うっすらと道ができていたからだ。
「この調子なら、昼にはつくかしら?」
「そうだね、多分。それくらいが一番手薄だと思うんだけど…どうかな?」
 トゥールが視線をずらすと、そこには眠そうに歩いているセイがいた。
「そうだな。うまくいきゃ、眠ってるだろ。まぁ、昼の見張りもいるだろうけどな。」
 あくびをしながらそう答える。体力の消耗を押さえるために聖水を振っているため、 周りは静かでモンスターの気配が感じられないせいで眠くて仕方がないのだ。
 正直を言うと、このまま宿屋で眠っていたい。それでも来る気になったのは、 ロマリアの時と違い、三人に興味が出てきたからだった。
『神の道具』と言われたトゥール。『神の子』と言われたサーシャ。『化け物』と言われていた リュシア。
 こう並べるとなんとも奇妙な三人組だ。だが、セイが気になるのはその内面だった。
 勇者と言われても道具と言われても屈託のないトゥール。何か秘密を抱えているサーシャ。 奥に何があるか本人も分からないリュシア。
 他人の事なんて、どうでもいい。セイはそう思ってきた。今だってそう思っている。
 それでもほんのすこしだけ、興味が沸いてきた。命をかける気はない。だが、その興味と 引き換えに、ほんのすこし危険な事をやってもいいと、今のセイは思っていた。
(まぁ、面倒くさい事になりそうなんだけどな…)
 心でため息をつきながら、セイは黙って足を動かした。


 そして、日が天頂にさしかかる前に、四人は塔の前についた。
「見張りは…一人ね…」
 どうやら下っ端の盗賊なのだろう。扉の横の窓から眠そうに入り口を見張っていた。
「人を呼ばれたら厄介だね…ラリホーかけようか?」
 トゥールがそう言うが、セイが首を振った。
「魔法が届く距離に行ったら見つかるだろ。」
 そう言うと、荷物をあさって小さな袋を取り出した。それを姿勢を低くしたまま、見事なフォームで 窓の中に投げ込む。とたん、袋から黄色い粉が飛び出し…なにやら見張りはあらぬ空に手を伸ばしている。
「…あの袋、何?」
「毒蛾の粉って言うやつで、吸うと幻覚を見るんだとさ。効いてる間に行くぜ。見張りが あれだけだとは限らないからな。」
 セイは三人を先導し、手馴れた様子で扉を開ける。そのままどこか別の世界に行っている見張りの横を 四人は息を殺して通り過ぎた。


「これだけ広いのに、人の気配はあまりしないのね…」
「どっちかっていうと、宝物庫に近いからな。だからこんな田舎に作ったんだろうしな。」
「詳しいね、セイ。助かるよ。でもそうすると、カンダタがいなかった場合、 宝物庫、漁らないと駄目なのかな…」
 それはさすがに良心にとがめると、トゥールは顔をしかめる。サーシャもその様子を 想像して顔をしかめたが、思い直したように笑顔で言った。
「これだけ大きな宝物庫だもの、カンダタがいなくても管理人くらいはいるんじゃない?その人に 聞けばいいのよ。」
「まぁ、いないならその方が好都合だろ。面倒なことはごめんだからな。」
 セイはどうにも気乗りしないようで、投げ捨てたように言う。それでも来たからには 腹をくくっているのだろう、周りを見渡して見つからないようにしながら、どんどんと先に進んで言った。
 それほど複雑な作りではなく、豪奢な彫像が並ぶ廊下の先にある階段の上に、確かに 息遣いを感じた。階段の影に隠れながら、トゥールはその上を探る。
「間違いない、人の気配だ。」
「それほど多い人数じゃないわね。…行きましょう。できれば早々に悔い改めてくれるといいのだけど。」
 どうやら神の教えを説くつもりらしいサーシャを横目で見ながら、セイはため息をつく。間違いなく 無駄だと分かっているからだ。
「うん、分かってくれるといいんだけど。」
 トゥールもその説得に希望を抱いているようで、セイはもう一度嘆息した。
「御託言ってないで行くぞ!」
 横で盗賊に怯えているリュシアの背中を乱暴に叩き、三人を促した。

 トゥールが階段をあがりきると、そこには食事をしている盗賊二人がいた。
「うわ、なんだお前ら!」
「変なやつらが来たぞ!!」
 立ち上がり声をあげる盗賊たち。
「…変な奴ら?僕が?」
「こんなところに来る一般人は、誰だって変だろうよ。」
 セイの突込みを横に、サーシャが一歩前に出る。
「盗まれた物を、取り返しに来たものです。貴方たちにも事情があるでしょうが、神様はお許しに ならないでしょう。」
 そう優しく語り始めたサーシャに面食らったものの、盗賊たちはにやりといやらしく笑った。
「へぇ?姉ちゃんが優しく諭してくれるなら考えてもいいぜ?」
「ああ、ちょっとこっち来てお説を聞かせてもらおうか?」
 そう笑いながら、サーシャにゆっくりと近づき、その腕をつかむ。その笑いに別の意図があることは明らかだった。
 トゥールは神速で鞘から剣を取り出し、盗賊の前に近づける。
「僕達はロマリア王の要請で王冠を取り戻しに来た。返してもらおう。」
「…なんだよ、お前ら…」
 剣に驚いた盗賊たちだったが、顔を見渡してしばし思案する。その決断は早かった。
「よし、御頭に報告だ!」
「おう!」
 そう言うと、盗賊たちはくるりと体を反転させ、奥にある階段に向かった。
「…やべーな…いるのかよ、カンダタ…」
「いいから追うよ!当人がいるなら話もしやすいんだし!」
 走って追うトゥールたちを、セイは暗い顔をしながら後を追った。


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