そこは最上階だった。先ほどの盗賊も含め、四人の盗賊がトゥールたちを待ち伏せていた。
「お頭!こいつら、ロマリア王の手先ですぜ!」
「とっとと始末しちまおうぜ!!」
 トゥールたちを指差すのは、先ほどいた盗賊たち。
「うるせぇ!!お前らは黙ってろ!!」
 それを、一番体格がいい盗賊が一括する。盗賊たちはすぐさまおとなしくなった。
 その男は体格だけではない、只者ではないその威厳がある。 頭のカンダタであることは明らかだった。
 カンダタは手を上げて親しげに語りかけてきた。
「よぅ、久しいな、白刃。また会えて嬉しいぜ。」

「ああ…お前も元気そうだな。まぁ、俺はお前みたいなむっさい男と会うのは嬉かないけどな。」
 嫌そうに答えたのはセイだった。その様子は明らかにカンダタの事を直に知っている様子で、トゥールたちは 目を見張る。
「知り合い?」
 サーシャが小声でつぶやくが、その声をカンダタは拾い上げる。
「白刃のセイって言えば、裏の世界では有名だぜ。どこの盗賊団にも属さないフリーの盗賊としては一番の凄腕だ。 俺も、こいつとは何度も手を組んだ仲だぜ。」
 トゥールたちは息を飲む。それほど有名な人間だとは思わなかったのだ。カンダタは楽しげに 語る。
「その姿、闇に白く輝き、その鋭さは刃のようにってな。依頼を断ることも珍しくないが、一度受けた依頼は 必ず成功させる。そして…決して長居はしないで去っていく。どんな条件で召抱えようとしても 無駄だっていう、孤独な一刀だ。」
 茶化すように言うカンダタに、セイは呆れながら口を挟む。
「お前に言われたくないぜ、金腕のカンダタ。どんな物も跡形もなく奪い取る。その存在が 金の腕に等しいほどの価値を持つってな。」
「はっはっは、その二つ名は遠慮しておくぜ、白刃。俺の価値は俺自身が全てだからな。どんな 名誉な名前より、『カンダタ』の名前の方が価値があるからな。」
「そうだな、お前は昔から、カンダタの名を売る事がお好みだったからな。」
 セイはいたって普通に話している。これほど大きな盗賊団の頭だ。それと対等に話せると言う事は、 すなわちその実力も同等ということを示していた。

「で、だ。まさか噂には聞いてたが、今度は勇者ご一行の仲間になったって本当だったんだな。初めて 聞いた時はどんなギャグかと思ったぜ?一体どれだけ積まれたんだ?」
 カンダタの声ががらりと変わった。だが、セイは茶化すように答える。サーシャをさりげなく抱き寄せる。
「いーや、俺の報酬はこの女だ。」
「セイ!」
 あんまりな言葉に声をあげるサーシャを意に介さず、カンダタは笑う。
「あっはっはっは、嘘だろ?お前はいつだって女よりお宝だろ?あの紅玉にすらなびかなかったじゃねぇか。」
 トゥールたちは驚きっぱなしだった。カンダタが語るセイの言葉は、トゥールたちの認識とは あまりにもかけ離れていたからだ。
 だが、セイはそれが当たり前のように、おどけて笑う。
「好みじゃなかっただけかも知れねぇぜ?」
「冗談きついぜ。お前の今までの女とは質が違うだろ。」
 言い合うセイからさりげなくセイを離れ、サーシャはトゥールの後ろに下がる。そのサーシャをカンダタは じっと眺めた後、真面目な顔をして言った。
「お前が女目当てで仕事するなんざ、考えられないぜ。しかもそんなに長い間な。何が目当てだ?」
「ただの暇つぶしだぜ。俺の仕事のきっかけなんて、どうだっていいだろ?」
「いーや、良くないね。その三倍の給料でこっちに引き抜くつもりだからな。まぁ、その 女は確かに見た事がないほど一級品だが、本気で女目当てって言うならお前好みの女ならいくらでも捜してやるぜ?」
 カンダタの言葉に、セイは大声で笑い…そして鋭くにらむ。その眼光はまさに白刃にふさわしい鋭さを 持っていた。
「無理だって分かってるだろう?カンダタ、お前は良く知っているはずだ。俺は契約と仁義は 守る主義だってな。それは…」
 セイはこん、とつま先で地面を蹴って片目をつむる。
「ここに俺が立ってることで、十分に証明できてるだろ?」
 その言葉に、カンダタもにやりと笑った。
「ああ、そうだな。白刃。お前はちっとも変わっていない。」
 カンダタがそう言うが早いか、トゥールたちの足元の床が、ごっそりと抜けた。

「うわぁぁ!!」
 トゥールはそう悲鳴をあげながら、とっさにすぐ側にいたサーシャをかばうように抱き寄せる。セイはそれを 確認すると、用意していた鞭でリュシアの手を絡め取り、側に寄せた。
 その落下はそう長い時間ではなかった。セイは足から着地し、抱えていたリュシアを地面に降ろす。 トゥールはサーシャを上にしたまま、尻から着地した。


 落ちた場所は、先ほど盗賊たちが食事していた部屋だった。
「おーい、大丈夫かー?」
 セイの言葉にリュシアは不信そうな顔しながらも頷く。
「…ありがと。」
 サーシャはトゥールの上に覆いかぶさるように落ちていた。トゥールがクッションになったため、ダメージはほとんど なかった。
「…い、たた…た…サーシャ、大丈夫?」
 トゥールは抱きかかえていたサーシャに話しかける。
 サーシャはただ、凍るような表情でトゥールを見下ろす。
 そしてサーシャはそのままトゥールの剣を抜くと。
 トゥールのわき腹へ剣を刺し貫いた。


前へ 目次へ トップへ HPトップへ 次へ
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送