終わらないお伽話を
 〜 Round One 〜



 ”すると、今度はいい具合の枯れ枝を見つけました。妹は枝を折ろうと手をかけました。 すると今度は蓑虫の歌が聞こえました。
 ♪娘さん、娘さん、ここは私が住んでいる枝。どうかその枝は折らないでおくれ。
あっちの茂みの奥に、いい枝があるよ♪
 見ると枝には蓑虫がついていたので、妹はあきらめて茂みの方へ向かいました。”



 かきぃぃん!
 手を振るわせながら、何とかサーシャは鉄の鎖で盗賊の斧を受ける。だが、力があまりにも違い過ぎる。 すぐに押されてサーシャは膝をついた。
 トゥールはなんとかカンダタの一太刀を交わし、後ろから切りかかっている。 リュシアが敵から逃れるために逃げ回り、セイは敵をナイフで切りかかっていた。
 突然、サーシャが鎖で斧をくるみながら、盗賊に向かって前転する。驚いた盗賊はサーシャを思いっきり蹴飛ばした。
「ん!」
 痛さで体がきしむが、そうは言ってられない。体勢を立て直す暇もなく、横に飛び込む。
 セイは左手で鞭を無造作に敵の目に当て後退した。そのとたん、閃光が広がった。逃げ回っていたリュシアが呪文を 唱えたのだ。
 リュシアを追いかけていた盗賊は、呪文の力をまともに受け、その場で倒れた。セイは前にいた盗賊の首に思いっきりナイフの柄を ぶつけ、昏倒させた。

 形勢はトゥールが圧倒的に不利だった。カンダタの影に隠れてリュシアの魔法を避ける事で、カンダタにダメージを与える 作戦はうまくいったが、その程度のダメージでダウンするほどカンダタは弱くない。まったく 弱ってない様子だった。
 幸いカンダタの動きは大振りなので、致命傷は避けられている。だが、その分動きが早く、少しずつ不利な 体勢へと追い詰められていった。
 力強くカンダタの斧が振り下ろされる。それを避けようとしたとたん、カンダタがトゥールの足に足をひっかけ 倒してきた。
「じゃあな、勇者。」
 カンダタはにやりと笑って、斧を振り上げる。そのカンダタの背中に、セイの鞭が当たった。
「ずいぶんだなぁ、白刃。」
 おそらく予想していたのだろう、カンダタは振り向きもせずにやりと笑った。セイは それに答えず、トゥールの側へと寄った。
「待たせたな、トゥール。良くここまで持たせたな。」
「まだまだピンチだけどね。」
 体を起こし、笑うトゥール。後ろではいまだリュシアとサーシャが戦っている。

 焼けた斧を捨て、素手でサーシャに殴りかかる子分の一人。サーシャをその腕を鎖で絡め、分銅を腰に当てる。
「くそ!!」
 子分はそのサーシャを思いっきり蹴りあげた。その時。
「えい!」
 走って寄ってきたリュシアが杖を後頭部にぶつける。そこにサーシャが呪文を放ち、目の前の子分が地に沈んだ。


 敵が二人になっても、カンダタの動きはまったく躊躇がなかった。大振りの斧で、二人ともなぎ倒す勢いで 迫ってくる。
「どうする?」
「セイ、さっきのまだある?投げて。」
 トゥールはそれだけ言うと、またカンダタに切りかかった。きぃん、と高い音がして斧と剣がぶつかり合った。
 しばらく、二人は切りあった。叩き切る斧と剣では剣の方が圧倒的に有利なはずだが、カンダタは 一歩も引かずにそれに付き合う。
 トゥールは斧の取っ手を狙ったが、その狙いは当然分かっているのだろう、そこに斧の刃をぶつけてきた。 そのまま押し合いになる。
 力比べをすれば、その差は明らかだった。トゥールの足は振るえ、力に負けて膝が折れる。
 その時、トゥールが飛び下がって剣を下げた。カンダタの力が空振りし、勢い良く地面へと刺さる。
「セイ!!」
 身構えていたセイが、カンダタに毒蛾の粉を投げつけた。だが、カンダタはにやりと笑う。
 見張りが毒蛾の粉で混乱していたこと。そしてセイが何も言わずに突っ立って構えていた事を考えれば、 勇者が何を企んでいたかなど、すぐに分かった。
 毒の粉を、吸い込まなければいい。カンダタは粉を意に介さず、にやりと笑ってトゥールに切りかかった。
「メラ!!」
 そこに、トゥールの呪文が飛ぶ。それは火の初級呪文。ましてトゥールのそれは、リュシアのに比べると威力が ない。
 結果生まれたのは、爪の先ほどしかない小さな小さな火。強靭なカンダタには蚊ほども感じない。振り払う必要もなく、 カンダタは再び斧を振り上げた。
 ぱちぱちぱちぱちぱち!カンダタの前に、小さな火花が散る。毒蛾の粉が、魔法の火で燃えたのだ。
 そして当然、毒蛾の粉から出る煙は…毒だった。
 たとえ吸い込まなくとも、もうもうと立ちこめる煙がカンダタの目に攻撃してきた。


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