「いやー、まいったまいった。負けだ負け。これは約束どおり渡すぜ。」
 笑いながらカンダタはトゥールの手に、王冠を乗せた。
 子分を倒し終えたサーシャとリュシアが間近に寄って、その美しさに感心した。
「でも、貴方は手加減した。もっと早く倒せたはずだよ。どうしてだ?」
 トゥールが真面目な顔して問うと、カンダタは茶目っ気のある表情で言う。
「贅沢言っちゃいけねーな、ひよっこ勇者よ。まぁ、俺の側近倒せたんだ。誇りに 思っとけや。でも俺の事を捕まえるって言うなら、もう一戦構えるが?」
 どうやら器が違うらしい。王冠も本物のようだし、トゥールは納得して首を振った。
「僕は王冠を取り戻して来いって言われただけだから。」
「はっはっは、正義の味方らしくねぇな。」
「勇者が正義の味方だとするなら、憲兵の仕事を取り上げるわけにはいかないよ。」
 トゥールのその言葉が気に入ったのか、カンダタはひたすら笑い続けていた。

「白刃、今度また、俺の仕事も請けてくれよ。」
「暇になったらなー。」
 おざなりに手を振るセイ。カンダタは気にせずトゥールの声をかける。
「ひよっこ勇者。次は手加減してやらねーからなー。」
「さよなら。…もう、会わない事を祈ってるよ。」
 トゥールはありったけの思いを込めて、カンダタにそう言った。
 戦った相手と、友好的に話しているさまを、サーシャはあっけに取られながら見ていた。
「…もしかしてこれ、男の世界って奴なのかしら…良く、わからないわね…」
 ぼそりとつぶやいたサーシャに、リュシアがこくこくと頷いた。


「おお、良く我が国の宝を取り戻してくれた。感謝するぞ、勇者トゥール!」
 城に戻り、王冠を見せた瞬間、王宮の人間の目が温かくなり歓声があがった。
「さすが勇者オルテガの息子!良くぞやったぞ!!これでこの世界が救われたも同然じゃ!!」
「…お褒めに預かり、光栄です、王様。」
「それでカンダタは…」
 大臣がそう聞くと、トゥールは平然と答える。
「それが、さすがにこの城から宝を盗み出すだけあって、取り返すのがやっとでした…申し訳ありません。」
「そうか…まぁ、宝冠が取り返せただけでも僥倖であったと言うべきか…。」
「いえ、こちらの力不足であったためですから。」
 トゥールのすごいところは、こういけしゃあしゃあと言ってのけるところだと、セイは しみじみ感心していた。
 曲げる所はあっさり曲げる。だが、王の依頼など無視してしまえばいいにも関わらず、 曲げない所は何があっても曲げない頑固さがあるのだ。
「そう言えば、そなた等に褒美を約束していたな…。よし、約束どおりこの国をやろう!」
「…は?」
 王のあまりの唐突な言葉に、トゥールの口から間の抜けた言葉が発せられた。
「この国の王位をくれてやろうぞ。このロマリアをそなたの物とするがいい!」
「王様!」
「王、何をおっしゃいますか!!」
 謁見の間は大騒ぎになった。王はへらへらと笑っている。
「いやいや、王たるもの約束は守らねばな。ほれ、そこの銀髪の男に『この国ごとくれてやろう』と約束 したからのう。なぁ?セイ…と申したか?」
 ぎろりと、城の者の視線がセイに集まる。居心地が悪い視線に今すぐ逃げ出したくなる。 その視線から救ったのはトゥールだった。
「あ、あの…僕はアリアハン王から授かった、勇者という使命がありますから…その。お断りします。」
「そうか?遠慮はいらんぞ。」
「いえ…それに僕はアリアハンを愛してますから。」
 はっきりと言い切る。その頑固さに勝てる人間はそう居ない。王は残念そうに首を振った。
「そうか、ならばこの国は欲しくなればいつでも来るがいいぞ。」
 その言葉に見送られ、トゥールたちは複雑な顔をしながら城を後にした。


「なんなんだ、あの王様はよ…」
 遠い目をして言うセイに、サーシャが皮肉めいた笑みで答える。
「多分、部下が立派なのよ。…王族と言うのは王座に座らせて置くだけでも意味があると考える国もあるのでしょうね。 アリアハン王の賢明さを考えるとため息が出るけれど。」
「…立派の方がいいけど、みんなが幸せなら、いいと思う。」
 リュシアがぽつりとつぶやいた言葉に、トゥールは周りを見回した。
「…うん、皆幸せそうだもんね。僕はやっぱりアリアハンが好きだけどこういう形の国もあってもいいのかな。」
「まぁ、ろくでもない事をしでかす奴よりは、なんもしない奴の方がまだましだ。むかつくけど。…今日は ここに泊まるんだろう?」
 セイの言葉に、トゥールは頷き、四人は宿屋へと向かった。


前へ 目次へ トップへ HPトップへ 次へ
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送