終わらないお伽話を
 〜 人の支配する町 〜



 ロマリアからアッサラームへの道は、驚くほど安定した道だった。どうやら アッサラームの商人たちの生命線らしい。
 行きかう人はいなかったが、それでも草が生えて居ない平坦な道は、トゥールたちをほっとさせる。
 歩くたびにゆっくりと空気が乾燥し、ほこりっぽくなっていく。
 徐々に香りが変わっていく道を、トゥールたちは半日ほどかけて歩いた。

 数々の露店。行き交う人々。高らかに叫ばれる売り文句。人は皆何かを抱え、嬉しそうに 歩いている。
「さぁ、かのエジンベアから来たこの香水!高貴な方々がつけるこの香水を一振りすりゃ、男なんて イチコロだよ!」
「さてさて、そこに行かれる粋な商人さん?そうあんただあんた。あんたなかなかいい商人だね? けどあんた、てんで戦闘は苦手なんだろう?え?用心棒?だめだめそんなもったいない…」
「らっしゃいらっしゃい、生まれも育ちもスー育ち、この上品な舌ざわりを一度口に したらやめられない…」
 あまりのにぎやかさに呆然としているトゥールの腕を、誰かが強引に引っ張った。
「うわぁ、あ、なんですか?」
 トゥールの腕を引っ張ったのは、店の前にいた壮年の商人だった。商人は満面の笑みでトゥールに 語りかける。
「おお、貴方私の友達ですね。待ってました!!」
「へ?いや、あの?人違いだと…」
 戸惑うトゥールを意に介さず、商人はものすごい勢いでまくし立てる。
「私の友人ですから、特別に!良い商品を紹介しますよ!ほら、これ見てください。これ とっても貴重な薬草なんですよ!なんと128G!」
 それは、どう見ても日常的に売られている普通の薬草だった。特別に高い事を除けばだが。
「いえ、必要ありませんから。」
「あなた商売がうまいね!でも私貴方の友達ですから、…64Gで!!」
「いや、その人違いですから!」
 トゥールはそう言って、商人を引き剥がして店の前から離れた。

 周りを見渡すと、三人の姿が消えていた。
「うわぁ…はぐれた…どうしようかな…」
 いくらなんでも大声を出すのは恥ずかしい。かと言って先ほどの店の前に戻るのは少し抵抗があった。
「…仕方ない。探しながら歩こうかな。」
 頭を掻いて、トゥールはため息をついた。


「…いない…」
 リュシアが周りを見渡すと、トゥールが消えていた。リュシアは心細そうに空に手を這わせる。
「やべ、はぐれたか?」
「馬鹿トゥール、子供じゃないんだから…ほんっとうに…。」
 頭をかきむしるセイと、あきれ果てたサーシャ。サーシャは近くの宿屋を指差した。
「日暮にあの宿屋に集合しましょう。オルテガ様の事を聞きながらトゥールを探すわ。」
 くるりと髪をなびかせ、サーシャは人ごみに消えた。
「ちょっと待て…しゃーねーな…手分けして探すか。だとよ、リュシア。」
「………」
 不安そうにセイを見るリュシア。頭をかきむしる。
「ここは素人にはちとやばい町だからな。怖かったらあの宿屋で部屋でもとっとけ。いいな。」
 セイはそう言うと、くるりと背を向ける。リュシアはその背中を不安げにみつめる。
 セイは振り向いた。リュシアに端的に告げる。
「言いたい事は?あるんだろう?言え!!」
「………」
 しばらくの迷いの後、ぼそりとつぶやいた。
「…怖いの。一人は嫌。」
「言えるんじゃねーかよ。」
 セイはもう一度背を向ける。じっと背中を見つめるリュシアに、ぶっきらぼうに声をかけた。
「来るなら来いよ。はぐれんな。面倒だからな。」
 リュシアはぱっと顔を輝かせて、セイの後を追った。


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