終わらないお伽話を
 〜 熱と冷 〜



”蓑虫が教えてくれた茂みは、茨の茂みでした。とげとげした茨はとても痛そうでしたが、
 妹は傷だらけになってそこを越え、ようやくたくさんの枝を見つけることができました。
 ああ、これで怒られずにすむ。そう思って枝を抱えて茨の茂みを越えた時でした。

 また蓑虫の声がします。
 ♪ありがとう ありがとう お礼に良い事教えてあげる 家の裏手の木のうろを探して見なさい♪
 妹はありがとうと言って、その場を去りました。

 家に戻って裏手の木のうろを探して見ると、そこには小さな木の実がありました。妹は、その木の実を 家の裏手に埋める事にしました。”



 無限に広がるような金色の世界。そこに優しさと言う名の潤いはなく、登り始めたばかりの太陽が、 トゥールたちに襲いかかった。
 足が熱帯びた砂に沈むのを引き上げ、熱風を吸い込まないように、口のわずかな隙間から息をする。
「ここから…南にイシス…っていう国が、あるんだよね…セイは行った事がある?」
「俺は…暑いのは…苦手なんだよ…」
 そう言うセイは珍しく、皮の帽子をかぶっていた。周りに布が垂れ下がっていて、顔の周りが日陰になる。
「…本当に…暑いわ…」
 サーシャが手で日光をさえぎりながら、そう小声でつぶやく。リュシアも何も言わないが、そうとう辛そうだった。
「ほら、サーシャ。」
 サーシャの視界が緑に染まる。海の底の色だ。セイがふわりと布をかけのだ。
「日よけになるぜ。そのすべらかな肌がやけたらもったいないからな。」
「ありがとう、でも平気よ。トゥールもリュシアも頑張っているのだもの。」
 にっこりと笑ってその布を返した。一人だけ日を避けるのはサーシャの主義に反するのだ。

 そして昼前。暑さのあまり真っ先に歩けなくなっているサーシャがいた。サーシャの肌が赤くはれ上がり、 火傷のようになっていた。
「…ごめんなさい…」
「ほら、布かぶっとけ。多分サーシャは二人より日に弱いような気がしてたんだよ。」
 水を飲ませながら、セイは呆れるように布をかぶせる。トゥールとリュシアは肌が赤くなっているものの、はれ上がる ほどはひどくはなかった。
「大丈夫だよ、僕は。リュシアも平気?」
 リュシアは頷く。魔力で氷を作り、サーシャの肌を冷やしていた。
「ちょっと日陰があればいいんだけど…あれ?」
 トゥールが周りを見回すと、南の方向になにやら建物の影が見えたような気がした。
「…何か建物がある?もしかしてイシスかな?」
「いや、あっちは違うはずだぜ。もうちょっと西だ。」
「とにかく建物があるなら休ませてもらおう。もしかしたら蜃気楼かもしれないけど…そうだったら ルーラでアッサラームに一度帰ろう。いい?サーシャ歩ける?」
 サーシャは頷く。飄々としているセイの方を見る。
「…皆、ごめんなさい。セイも。ちゃんと言う事聞いておけば良かったわ。」
「別に気にすんな。今度から俺の愛をちゃんと受け止めてくれよな。」
「そうね、考えておくわ。」
 赤くほてった顔で、サーシャがくすりと笑った。


 砂漠の一番端。まだ緑が残る場所に、一軒家が見えた。
 手を伸ばすと、そこには確かに現実の手ごたえ。トゥールは逸る気持ちを押さえて、扉を叩いた。
「開いとるよ。」
「すみません、旅の者なんですけど、少し休ませてもらえますか?」
「ほほ、まぁ入られよ。」
 トゥールが扉を開けると、世捨て人と言うにふさわしい老人が一人、椅子に座っていた。
「あんたら旅人かい?」
「は、はい。連れがこの暑さに参ってしまって…」
 トゥールの後ろからサーシャが頭を下げる。日陰である事はそれだけで涼しく、ほっとした。
「ほほぅ、驚いたのう。そうすると北からいらしたんじゃな。ま、そこに座って休まれよ。」
「申し訳ありません。お言葉に甘えさせていただきます。」
 サーシャがそう言って、薦められた椅子に腰をかける。他の三人もそれぞれ椅子に座る。
 老人が、目の前にコップを置いた。冷たい果実のジュースだった。ひんやりとした感覚がなによりの贅沢だった。
「ゆっくり飲みなされ。…あんたら商人には見えんが、一体何しにイシスに行きなさるんだね?」
「魔法の鍵というのを探しているんですが…。」
 トゥールがそう言うと、老人は高らかに笑った。

「ほっほっほっほ…よう言いなさるわ。」
「…え?どういうことでしょうか…?」
 トゥールが不思議そうに首をかしげると、老人は目を丸くした。
「なんじゃ、おぬしらなんも知らんのか?」
「知らないって…どういうことですか?」
「おぬし等は…盗賊ではないんか?」
 その言葉に、反射的に三人はセイを見た。だがセイはどこ吹く風で老人に言う。
「こいつは恐れ多くももったいなくも、勇者様だぜ。この大陸から出るには今となっては魔法の鍵が必要だろう?」
「なるほどのう…あのお方のお輩というわけか…どれ、ちと顔を見せてくれんかの?」
 良く分からないまでも、トゥールは老人を見上げる。老人はしばらくじっとトゥールの顔を見ていた。
「ふむ、よう似とるわ。」
「…もしかして…父の…オルテガのことですか?」
「そんな!トゥールとオルテガ様は、全然似てないじゃない!」
 トゥールの言葉に、サーシャが声を上げる。だが、老人はおだやかに笑うとこう言った。
「ならば、イシスの女王をたずねなされ。許可がもらえるやも知れん。」


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