「許可…ですか?魔法の鍵は、イシスの女王がお持ちなのですか?」
 トゥールの言葉に、老人は首を振る。
「いいや。魔の気が大地を満たし、モンスターが強くなって以来、共通の鍵を持って国同士が 行き来しあう関係は消えての。それを悲しんだ女王は魔法の鍵をピラミッドに仕舞いこんでしもうた。」
「ピラミッドって…あのか?!うわぁ…」
 セイが手を顔を当てて突っ伏す。サーシャがそれを覗きこむ。
「あのってどういうこと?」
「ピラミッドは古代からある王家の墓だ。遺品や宝物品なんかが納められてるおかげで、盗掘が絶えない。 その上古代の仕掛けなんかある上、王家の呪いがあるって噂だ。まともな盗賊なら近づかない場所だぜ。」
 絶望しているセイを見ながら、トゥールは考え込む。
「王家の墓…そこに入るのに女王の許可がもらえたら…いいんですけど…」
「女王はかつて、オルテガ殿の申し出を断った事を後悔しておられた。その事を覚えておられるなら…可能性は あるぞ。」
「貴方は…もしかして…」
 トゥールは老人を見る。この老人は、ずいぶんとイシスの偉い人なのではないかと。それも、女王と近しい人間だと わかった。老人はそれをごまかすように笑う。
「ほっほっほ、ささ、そろそろ日も傾くじゃろ。歩きやすくなっとるはずじゃ。イシスは西の オアシスにあるぞ。そこに行きなされ。」

「お世話になりました。」
 トゥールが頭を下げると、横でリュシアも小さく頭を下げる。サーシャもセイにもらった 布を頭にかぶりながら頭を下げる。
「とても助かりました。冷たい飲み物なんて、ここでは贅沢でしょうに…ありがとうございます。」
「ほっほ、何、女王ほど美しい女人なんて初めて見たのでな、こちらもいい目の保養じゃよ。」
「へー、女王ってサーシャくらい綺麗な人なのか?そりゃすげぇ。」
 セイが目を丸くする。女神とも言えるほどのサーシャと比べられる美女など、セイには心あたりがない。
「ああ、綺麗なお人じゃよ。イシスの名物じゃて。」
「そりゃ楽しみだ。なかなか有意義だったぜ、爺さん。」
「そっちも罠に気ぃ付けいよ、盗賊さん。」
 老人の言葉に、セイが笑う。こう何もかもお見通しだと逆に楽しかった。


 砂がえんじ色に染まる頃、そのオアシスにたどり着いた。憩いの水を囲むように、立派な城と町が そこにあった。
「気温がちょっと下がって来たな。早めに町に入ろうぜ。」
 先導して歩いていたセイの肌も、少し赤い。傾いた日が、肌を焼いたのだ。
「そう、ね…とりあえず宿を取りたいわ。」
 サーシャはやけどのようになった肌をリュシアの氷で冷やしながら頷く。リュシアは心配そうにサーシャに付き添っていた。
 トゥールはサーシャの荷物を持って一番後ろに立っていた。少し肌が黒い。
「サーシャは休んだほうがいいよ。大丈夫?」
「…大丈夫?」
 トゥールの言葉にかぶるように、リュシアがサーシャの耳元で声をかける。サーシャは少し力ない笑顔で微笑んだ。


ひやりとした空気に目が覚めた。
(…もう、夜…)
 サーシャは体を起こす。宿についてから倒れるように眠っていたのだった。
 横を見れば、リュシアが椅子に座って居眠りをしている。火傷のようにほてっていた肌を 冷やしてくれていたのだろう。ずいぶんと楽になっていた。
 リュシアの体にそっと布団をかけ、部屋を出る。このまま眠らせていては疲れてしまうだろう。 トゥールにでも頼んで、ベッドに移してもらおうと考えたのだ。
 音がしないように扉を開けると、そこには埃が入らないように布がかけられたサンドウィッチが 置かれていた。一つだけ口にして、あとはリュシアの前に置いてから部屋を出る。
(…トゥールの部屋、どこだったかしら…)
 最後の方はやはり少し意識があやふやだったらしい。もう少し体力を付けなければならない、そう思って 廊下を曲がった時、白い物が目に入った。
「…セイ。」
「おお、起きたか。大丈夫か?」
「ありがとう。セイが渡してくれた布のおかげよ。きちんとお礼を言ってなかったわね。」
「いや、俺の愛を受け止めてくれてうれしいぜ。」
 にやりと笑うセイの言葉を流し、周りを見渡す。
「トゥール知らない?用があるんだけど…。」
「トゥールか?そっちに食事持ってくとか言ってたが…そのあと買い物に行くって言ってたな。詳しくは 知らねーよ。用ってなんだよ?」
 少し考えて、頭を切り替えた。
「セイ、悪いのだけれど、リュシアをベッドに移してくれない?私の横で眠っていたの。」
「別にかまわねーが…なんでトゥールなんだ?」
 セイは歩き出す。その後ろからついて行くようにして、サーシャは説明した。
「私じゃ無理やり運んだら起きちゃうかもしれないし…どうせならリュシアもトゥールに運ばれたほうが 嬉しいでしょう?でもいないなら仕方ないわ。」
 セイはそっと部屋に入り、眠っているリュシアをベッドに移す。リュシアはなにも気づかず寝息を立てていた。 二人はそっと部屋を出た。
「ありがとう、セイ。助かったわ。」
「んじゃ、お礼に夜のデートしないか?しばらく眠れないだろう?」
 サーシャは少し考えて頷いた。


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